第十六話 青春のやり直し?
「は、はは、まさか神崎さんが同じ大学に通っていたとは……偶然ですね」
「この近所の大学に通っているって聞いたから、まさかと思っていたけど、本当、偶然だよね」
偶然……そう言ってしまって良いんだろうか。
俺がここの大学を受験したのは神楽咲聖菜が通っていたらしいと言う噂を耳にしたからなんだが、それを知ったら、神崎さんにストーカーだと思われるかも。
(落ち着け、俺だって確証があって受けた訳じゃないんだ)
ちょうど偏差値的にも届くかどうかってレベルだったし、東京にも出たかったから、受けただけだ。それだけなんだって。
「へえ、神崎さんも同じ大学だったんですか。あ、私の事、覚えています? ぶいロイドのコラボカフェで会いましたよね?」
「あ、うん。角田さんだっけ? 久しぶり」
「それで、ウチの大学に何をしに?」
「ちょっと大事な書類を……」
「へえ。私、神崎さんと仲良くしたいなって思っているんですよー。Vtuberお好きなんですよね、ぶいロイドの?」
「まあ、好きと言えば好きだけど」
角田にしてみれば目を付けていた神崎さんが、思いもよらず自分の目の前に現れたので、ここぞとばかりに目を輝かせながら、話しかけてきた。
まずい、これ完全に神崎さんが聖菜ちゃんの中の人であることを引き出そうとしている。
「へえ。神崎さんの声って、神楽咲聖菜の声に似ていますよね? よく言われません?」
「そう? 自分ではよくわからないんだけど」
「似ていますよー。まるで本人みたい」
あまりにもストレートに聞きすぎて、聞いているこっちはヒヤヒヤしてしまうが、神崎さんは平然とした顔をして、角田の追及じみた質問に答えていく。
こういうのは慣れているのかね……むしろ、俺の方がボロを出しちゃいそうだよ。
「と、ところで、今日は本当に何をしに?」」
「あー、うん。その話はあとでしようかと。今日はこれからバイト?」
「はい。あ、明日はないので」
もっとバイトに入りたいが、あんまり入り過ぎると、税金だかを取られて計算が面倒になるとかで、抑えているのだ。
あんまり入り過ぎても学生生活との両立が難しいので難しいが、そんな話はどうでも良いか。
「そう。じゃ、その時に」
「お二人ともやっぱり親しいですね。付き合っているんですか?」
「違うって。彼とは友達だから。ね?」
「は、はい。そういうことだ」
「ふーん。友達ねー」
その説明では納得してくれはしないだろうが、実際、友達みたいな関係だろう。
「私、そろそろ行かないと。角田さん、またね」
「あ、はい。すみません、長々と。またお会いしましょうね」
と俺の手を引いて、神崎さんが角田の元から去っていく。
適当なところで切り上げてくれたか……神崎さんはともかく、俺の方がむしろホッとしてしまった。
「くす、面白い子だったわね。ちょっとハラハラしちゃった」
「俺の方がヒヤヒヤしましたよ。あいつもしつこいなあ……神崎さんが聖菜ちゃんだと完全に思っているみたいで」
「別に私、気にしないよ。現役の頃ならともかく、今は……ねえ?」
引退しちゃったから、別にバレてもどうってことないってことかな?
でも復帰を考えているなら、あんまり身バレしてしまうのは好ましくないと思う。
「それより、今日はウチの大学に何をしに?」
「ああ。実はさ……私、大学に復学しようかなって思って」
「復学って……えっ!? 大学にですか?」
「うん。ここは二年の途中で中退しちゃったけど、調べてみたら、中退者は面接と書類審査で再入学出来る制度があるみたいでね。前に取得した単位もそのまま引き継いだ状態で、復学できるんだって」
「そんな制度あるんですか? じゃ、じゃあ今日、大学に来たのは……」
「うん。その為の書類とか審査の事とか聞きにね。でも、懐かしいなあ、このキャンパス。中退してから、全然着てなかったから、何かテンション上がっちゃって」
何と神崎さんがウチの大学に復学してくるかもしれないとは……予想外の展開で、ちょっと嬉しい。
「どうして、大学に戻ろうと?」
「何となくかな。別に深い意味もないんだけど、自分を見つめ直す良い機会になるかなって思って。学費の方は何とか払えるくらいのお金はあるし、両親にもちょっと相談するようだけど、とにかく書類だけでも取り寄せてみようかなって」
神崎さんが同じ大学に……いやー、これはちょっと嬉しい展開だな。
「良いと思いますよ。大歓迎です。ちなみに学部は何ですか?」
「一応、社会学部なの」
「あ、俺は法学部なんで、違いますね……」
学部が違うのはちょっと残念だが、そこまで上手くは行かないか。
でも神崎さんと一緒という事は聖菜ちゃんと同じ大学に、しかも先輩になるのか。
いや、二年生からやり直すならもしかしたら、同級生になるわけ?
「へえ。ところで、ウチの大学に入った理由は? まさか、私と同じ大学だから?」
「いい? い、いや……あー、はは……ネットで聖菜ちゃんがこの大学って噂を聞いて、良いかなって思ったのもあるんですけど」
「そんな噂出てたんだ。私、大学名までは言ってなかったと思うけど」
確かに大学名は配信で言った事は無かったと思うが、確かお坊ちゃま、お嬢様が通うイメージのある大学とか言っていたのと、配信で言及していた大学周辺の店とかからの推測だったらしい。
まさかビンゴだとは思わなかったが……ネット探偵の推測は恐ろしいな。
「すみませんっ! ストーカーみたいな真似をしてしまって」
「別にいいよ。落ち着いた雰囲気でここも悪い大学じゃないでしょう?」
「は、はい。意外に普通の子が多くて、安心しました」
噂だと色々とヤバイレベルの金持ちも居るらしいが、殆どは普通の学生だ。学費も特別、他の大学と比べて高くもないしな。
「あはは、でも聖菜を追いかけて、わざわざ来るなんてよっぽどだね」
「それだけじゃないんですけどね。まあ、第一志望に落ちたってのもありますし」
「そうなんだ。私、第一志望だったんだけどね。何かお嬢様だと思われてモテそうだなって思って」
「本当ですか? そんな理由で……」
「いいじゃない。結果的に私と一緒になれたんだしさ。もしかしたら、来年は本当に同級生になるかもしれないよ」
お、おお……神崎さんと同級生って、聖菜ちゃんと同級生って事と同義。
ヤバ、流石にこの展開は予測できなかった。
「もう、そんな顔をしないの。まだ決まった訳じゃないから」
「は、はい。それより、角田の事、どうしましょう。あいつ、ちょっとしつこいですよね」
「まあ、私に相談してくれればいいよ。あんまり気にし過ぎない方がいいって。私の方で何とかするから」
「わかりました」
それより、角田にバレかかっている事の方が怖いが、神崎さんはおれにそう安心させるように言ってくれたので、俺も少し落ち着く。
こういうところは大人だなって思ってしまったが、やっぱり神崎さんから見れば俺はガキなんだろうな……。




