第十四話 復帰への道は険しい?
『実はですね。聖菜のマネージャーさん、のあさんって言うんですけど、とってもてんねんぼけで面白いですよ。この前もイベントの打ち合わせが終わって、帰ろうとしたとき、電話がかかってきたんですよ。そしたら、『聖菜さん! スマホを忘れていますよ!』って、いや、私、ちゃんと持っているんですけどって、慌てて言ったんです! おいてきたままなら、私、電話出れないじゃないですかー』
「この人が聖菜ちゃんのマネージャー……」
「は、はい……間宮乃愛と言います」
俺が目の前にいて緊張しているのか、オドオドした雰囲気で自己紹介をするが、見た感じはかなり若くて可愛らしい人だけど、この人がマネージャーさんだったのか。
「えっと、配信でも何回か言及したんだけど、知らない?」
「えっ! あ、あのマネージャーさんって実在したんですか!?」
「ちゃんとしますよ! 何だと思っていたんですか!?」
「す、すみません! 疑っていた訳じゃないですが、盛っているんじゃないかって思っていて!」
天然ボケで可愛らしいマネージャーさんがいるってのは、聖菜ちゃんが何回か話していたのは思い出したが、本当に話していた通りの雰囲気の人だったとは。
しかも『のあ』って名前も本名だったのかよ!
「それで、間宮さん。今夜は何か……?」
「はっ! そうでした。聞きたいことがあったんです。婚約破棄したって話ですけど、その話、本当なんでね? この人がその婚約者ではないんですね?」
「ち、違いますよ。彼はその……居酒屋で私が酔い潰れていた時に助けてくれた人って言うか……」
神崎さんも俺とどういう関係なのか、説明に困っているみたいだが、実際、俺と神崎さんって何なんだろうな?
付き合ってはいないし、友達?
「はあ……随分と若い人ですけど、未成年じゃないんですよね? だとしたら、違う意味で問題なんですが」
「違います! 大学生です。十九歳ですから」
「やっぱり、未成年じゃないですか!」
「今、十八歳が成人ですよ!? てか、十八歳以上なら別に問題ないのでは?」
「あ……そ、そうでしたか。すみません!」
まあ、つい最近まで二十歳が成人だったんだけど、この人は天然ボケというか、慌てんぼうって感じの人だな。
「もしかして、私の事、ずっと付けていました?」
「あの……婚約破棄のリークがあったじゃないですか。それで、ストーカーにでも付けられているのかなって思って見ていたんですけど……もしかして、私がストーカーだと勘違いされました?」
「ご、ごめんなさい。間宮さんだとは気づかなかったので……」
ああ、リークの事があったから心配で様子を見に来たのね。
確かにあれは誰の仕業だったんだろう……正直、不気味で怖いんだが、俺の事とかも把握されているのか?
「あと、もう一つ。これが一番、聞きたかった事なんですが……頼子さん、ウイクラ配信しましたね?」
「え? 見ていたんですか?」
「あなたのサブチャンネルを見たら、偶然……ちょっとまずいんですよ、それ。頼子さんが神楽咲聖菜ってバレたら、騒ぎになっちゃうので」
「でも、声は聖菜の声じゃなくてほぼ地声ですし、問題はないのでは? 別に聖菜のガワも名前も出してはいませんから……」
「わかる人はわかるんですよ。聖菜の配信中も地声が出ている事もありましたし、声が似ているって拡散されたら、ネットでまとめサイトとかに掲載されて、色々と検証されたり、騒ぎになっちゃいますよ。それでもいいんですか?」
「よくはないかも……すみません、配信したいなって欲が出てしまって……」
何と、同接が四人しかいなかったのに、マネージャーさんはあの配信を偶然にも見ていたって事?
あんなプライベートのチャンネルまで把握しているって、マネージャーさんって、そこまで監視しているものなのか?
「もしかして……復帰したいんですか? ぶいロイドに?」
「う……その気持ちが無いわけじゃないと言いますか……」
間宮さんは神崎さんに核心とも言える事を聞くと、神崎さんも罰が悪そうな顔をして、俯きながら答える。
「結婚して引退すると言った時、大炎上したじゃないですか。多くのファンを裏切るような事をしたんですよ、頼子さんは? それで、婚約破棄されたからって、ノコノコと復帰出来ますか? 歓迎するファンもいるでしょうが、それ以上に嘲笑されて、ブランドイメージが更に下がると思いますよ」
「それは……わかっているんですが……」
さっきのオドオドした態度とは一転して、穏やかな口調ながらも、間宮さんは厳しい現実を神崎さんに告げ、神崎さんも目を逸らしながら、そう答える。
今の言葉を聞くと、やっぱり復帰は無理っぽいの?
「大体、あの騒動の後、ぶいロイドの他のメンバーまで、既婚や彼氏持ちを疑われて、フォロワー数減ったりしているんですからね。Vtuberってのはアイドルで、ガチ恋しているファンも多いから、潔癖性、処女性が想像以上に求められているんですよ。理解を示してくれるファンが居ても、そうでない人もたくさんいるのが現実なんです」
「わ、わかっています。すみません、配信に関しては今後気を付けます。あれはあくまでも趣味でやっただけなので、都合が悪いならすぐ動画も削除しますから。幸いにも殆ど再生数回ってないですし」
「削除まではしなくていいですし、配信をするのは自由ですが、聖菜の名前は出すのは控えてくださいね。神楽咲聖菜の権利はあくまでぶいロイドにありますから」
「はい。気を付けます」
しっかりと間宮さんに釘を刺されてしまったが、抜けている感じの女性かと思いきや、言うべきことはキチンという人だったんだな。
神崎さんの事を心配しているのはわかるんだけど、復帰は無理という現実を突き付けられると、俺としても辛いものがある。
「あのー、神楽咲聖菜の復帰ってやっぱり無理なんですか?」
「え? ああ、いえ……絶対無理って訳じゃないと思うんですが、今、復帰ってのはちょっと……私の一存でも決められませんし、事務所の方でも許可は出ないと思います」
たまらず俺の方でも間宮さんに聞くが、間宮さんもちょっと驚いた顔をしながらもそう答える。
やっぱり、駄目なのか……聖菜ちゃんのファンとしても、ガッカリとしか言いようがない。
「あ、すみません。俺、神楽咲聖菜の大ファンだったので」
「ああ、そうだったんですね。え? じゃあ、もしかして、頼子さんのストーカー!? 聖菜のこと、どうやって知ったんです!?」
「「違いますって!」」
神崎さんも俺も思わず声を重ねて全力で否定するが、俺の方がストーカー扱いされたら、敵わんって。
「そ、そうでしたか……どういうご関係なのか、深堀はしませんが、頼子さんが神楽咲聖菜であることはくれぐれも他言は……」
「しません、大丈夫です」
と言っても、角田にバレているっぽいんだが、そこはどうにか誤魔化すしかないか。
「それでは、私の方からはこれで。配信の事はくれぐれも気を付けてください」
「はい。わざわざご忠告、ありがとうございます」
と言って、間宮さんは神崎さんの家を後にし、俺と神崎さんの二人が残される。
「はあ……やっぱり、厳しいよね」
「聖菜ちゃんとして復帰するのはやっぱり、もう……」
「絶対無理とは言い切れないけど、少なくともすぐには無理なんだろうね。禊をしろって事なのかな……」
禊って言われても、別に不祥事とは違うわけだしさ。
「間宮さん、ああ見えて東大出ているのよ。配信ではおとぼけキャラで通していたけど、マネージャーとして有能だし、言う事は言う人なのよね」
「マジですか……」
あんな天然ボケっぽい人が東大出のエリートなんですかい。まあ、ぶいロイドって最大手のVtuber事務所だからな。
とはいえ、聖菜ちゃんの復帰が無理となると、神崎さんはこれからどうするんだろうな……。




