第十三話 V業界の闇?
(今日も神崎さんの家に行こうかな……)
大学で講義を受けながら、また神崎さんの家にお邪魔しようか考える。
いつでも遊びに来て良いって事は、その……文字通りに受け取ってしまって良いのかな?
神崎さんが少しでも元気になってくれればそれだけでも良いけど、何より聖菜ちゃんの復帰のお手伝いがしたいなって思いがある。
後でラインを送って、今日も来て良いか聞いてみるか……。
「おーい。もう講義終わってるよ」
「ん? な、何だ角田か。最近、よく会うな」
気が付いたら、既に講義が終わっていたようで、角田がまだ声をかけてきた。
あんまり、接点はなかったんだけど、神崎さんの事をまた聞きにきたのかよ。
「そうだね。私としてもちょっと気になることがあるからさ。それより、今日、サークルに顔を出しなよ。バイトはあるの?」
「ないけど」
「じゃあ、今から来てよ。久しぶりにサークルに出なって。この前は部室でちょっと話しただけで帰っちゃったんだし」
「わかったよ」
あんまりやる気もなかったが、バイトもなくて暇なので、サークルに顔を出すことにした。
といっても、やることがあまりないんだけど。
「それじゃ、始めるよー。今日はVtuberについて!」
部室に行くと、部長でもない一年生の角田が張り切って仕切っており、部室に合ったホワイトボードでデカデカと今日のお題を書く。
他に来ていた部員は数人で、男女比は半々って所だが、みんなオタクっぽいかんじであまりやる気もなさそうだ。
「私、Vにはあまり興味ないのよね」
「俺も良く知らない」
「そんな事、言わずに聞いてくださいよ。今後、こういうジャンルの文芸作品だって出てくるかもしれないんですから」
同席していた先輩の男子と女子が相次いで、そんな発言をすると、角田はすかさずそうフォローするが、みんながみんなVに興味あるわけじゃないんだよね。
俺も純文学はさっぱりだけどさ。
「Vtuberを題材にした小説も最近、増えているよねー。主にラノベではあるけど」
「全然、読んだことないけどな」
そういうラノベは書店で見かけるんだが、特に読みたいと思う本がないんだよな。
聖菜ちゃんが主人公のラノベでもあれば読んでいたかもしれないけどさ。
「最近は大物Vの引退が相次いでいるんだよね。色々と闇の深い業界ってネットではもっぱらの噂なのよ。ほら、このぶいロイドの元社員が書いたってブログを見てよ。これによると、ぶいロイドのメンバー間での派閥争いとか、枕営業の実態なんかが書かれているの」
「枕営業って、Vtuberに? 顔が出ていないのに」
「そうなのよ。本当だとしたら、ヤバイわよねえ。中の人が美人の場合は、そういう事も起こりうるんじゃない。顔バレしている人もいるけど、結構綺麗な人もいるのよねえ」
その顔も本当に本人なのかわかりゃしないが、枕営業って、まさか神崎さんはそんな事はしていないよな?
一応、彼氏がいたんだから、流石にそこまでしないと思いたいけど、これも本人には聞きにくい話だ。
「私の知り合いにもVtuber事務所に勤めている人が言っていったんだけど……」
「その知り合い、実在するんだろうな?」
「するってっ! その人が言うにはさっ!」
さっきのブログだって、匿名で本当かどうかわかりゃしなかったし、角田のVの事務所の知り合いってのも怪しい話だが、本当だとしたらどうやってそんなのと知り合ったんだか。
まだ大学一年で十代なのに、恐るべき人脈だが、それとは別に角田のコミュ力と行動力は素直に羨ましい。
こういうのが就活も有利なんかね……まだそんな事を考えるのは早いかもしれないけど。
「そんなにVに興味あるなら、お前もVtuberになってみたら?」
「個人でやろうか考えたこともあるけど、初期費用が五十万以上かかるってのよね。気軽に始められるもんじゃないし、今更、ちょっと可愛い女子大生ってだけじゃ、個人でヒットさせるのは難しいでしょう。出るなら、大手の箱から出ないと。ぶいロイドやパステルみたいなさ」
五十万以上か……神崎さんなら、それくらいの金は用意できそうだけど、やっぱり事務所に復帰しないと聖菜ちゃんとしての活動は出来ないんだろうな。
「あのさ、引退したVがまた復帰するってあるの?」
「ん? ああ、あるって言えばあるよ。ただし、殆どは転生。中の人が前とは違うキャラになって、改めてやるって奴。同じキャラで復帰ってのはかなりレアなケースじゃないかなあ。この前、パステルで一人いたけど、その人くらいしか知らないね」
転生……神崎さんが聖菜ちゃんとが違うキャラでVを始めるって事か。それは何かちょっと違う気がするんだよな……俺はあくまで、神楽咲聖菜として復帰してほしいんだけど、神崎さんがどう判断するか。
「ふふ、神楽咲聖菜に復帰してほしいんでしょう? だったら、頼んでみたら、事務所の方に?」
「俺が言ってどうするんだよ……」
「ファンの声が届けば、聖菜も決断するかもしれないじゃない。さ、それでは今度の冬コミでは、Vに関する出展をしようかと……」
サークルの会合でもわざわざ、聖菜ちゃんの事を俺に聞いてくるとは確信犯も良い所だが、今の話を聞く限りだと、神崎さんが聖菜ちゃんとして復帰するのは難しそうな感じだな。
「やっと、終わった……ん? 神崎さんからか」
『ゴメン、今日も頼みたいことあるんだけど、良い?』
帰宅途中、神崎さんからラインでそうメッセージが着たので、すぐに行くと返信する。
何だか嬉しいなー、聖菜ちゃんが俺を頼っているって事?
他にも友達は居るんだろうけど、近くに住んでいる俺を頼っているってのはそれだけ信頼されているって事だよね?
「あ、ゴメンね、また呼び出して」
「いえいえ。何ですか、今日は?」
神崎さんの部屋に行くと、神崎さんはちょっと周囲を伺いながら、俺を家に入れる。
「じ、実はこれでお夕飯を買ってきて欲しいと言うか……お釣りはいらないから」
「え? ど、どうしたんですか?」
神崎さんが五千円札を出して、俺にそう言うと、
「何だか誰かに付けられている気がして……今日、一階に下りたら、誰かの視線を感じて、すぐに上に逃げたんだ」
「マジですか? まさか、ストーカー?」
「わ、わからないんだけど……とにかく、お腹が減ったからお願い。コンビニ弁当でも良いから。お釣りで好きなの買って良いし」
「は、はい」
ストーカーが居るってなると、もはや警察案件だと思うが、とにかく神崎さんが困っているのであれば、力にならねば。
「じゃあ、行ってきます」
「気を付けてね」
神崎さんに見送られて、玄関を出ようとする。ここはオートロックっぽいので、大丈夫だと思うが……。
「きゃっ!」
「うわあっ! す、すみません、大丈夫ですか?」
ドアを開けた瞬間、目の前にいたスーツを着た若い女性にぶつかってしまう。
「ひえええっ! す、すみません……」
「失礼します」
茶色っぽいボブヘアーの若い女の人だったが、もしかして神崎さんの家に用があった人?
「あ、あなたっ! まさか、頼子さんの婚約者っ!?」
「は? い、いえ、違いますけど……」
「じゃあ、何で頼子さんの家から出ているんですか! 付き合っていないと有り得ないですよね!?」
いや、それは誤解されてもしょうがないけど、婚約者の存在を知っているって事は、神崎さんのお知り合い?
「な、何? どうしたの……って、間宮さん!」
「ん? 神崎さんのお知り合いですか?」
騒ぎを聞きつけて、神崎さんがドアを開けて、駆け付ける。
「すみません、お騒がせしてしまって」
「いえ……あのこの方は?」
神崎さんがスーツを着た女性をリビングに招くと、女性は申し訳なさそうに謝り、
「えっと……この人は間宮乃愛さん……私の元マネージャー」
「ん? ま、マネージャーっ!?」
神崎さんの元マネージャーってことは、聖菜ちゃんの?




