第十二話 ちょっとだけの復活配信
「おはよう、平沢君」
「お、おう。最近、よく会うな」
次の日、いつものように大学に行き、教室に入ると角田が笑顔で俺に挨拶してきた。
「そりゃねー。神崎さんの事に興味あるわけだし」
「ストレートに言うなよ。あんまり、迷惑をかけるような事をするなよ」
「迷惑をかけるような事はしないよ。それでさー。あの人ともう一度、会って話をしたいなって思っているんだけど。近くに住んでいるんだよね?」
「さあな。会ってどうするの?」
「色々とお話を聞きたいだけだよ。大丈夫、プライベートに関する事に深堀はしないから」
むしろ、深堀りする気満々じゃねえか。
これはもう角田は神崎さんが聖菜ちゃんの中の人だと確信している感じだな。
ちょっと話しただけで、そこまでわかるものなのか? 今のところ、声が似ているってくらいしかわかっていないのに、ここまで食いつくとは異常だろうよ。
「それに、どうやってあんな綺麗なお姉さんとお知り合いになれたのかも知りたいしさ。ぶいロイドのファンなんだよね、あの人? 推しは誰って言っていた?」
「さ、さあ。誰だったか忘れちゃったな」
「ふーん」
出来る限り平静さを装いながら、答えていくが、角田の視線が痛くて、生きた心地がしない……。
このプレッシャー、思っていた以上にきつくて、このままだとボロを出してしまいそうだ。
「あ、そろそろ行くね。んじゃねー」
俺が冷や汗を掻いてきたところで、角田は近くにいた女友達の所へ行ってしまい、ホッと胸を撫でおろす。
だが、完全にロックオンされてしまったみたいで、今後、あいつの追及をどうかわしていくか、悩みどころになってしまった。
「お疲れ様です」
今日もバイトを終え、いつものように店を後にして、家路に着く。
明日はバイトもないし、一限目が休講なので少しゆっくりできるな。
「ん? 神崎さんからだ。何々……」
『今、暇? マンションの前まで来れる?』
とラインを送ってきたが、こんな夜中にどうしたんだろう?
何か緊急の用事があるっぽいので、すぐに行きますと送った後、彼女のマンションまで急いで向かったのであった。
「あ、こっちこっち」
「どうしたんですか、こんな夜中に?」
自転車をダッシュで漕いで、五分もしないうちに神崎さんの住むマンションの前に到着すると、神崎さんが笑顔で手を振って俺を出迎える。
「ゴメン、忙しかったよね? 時間ある? ちょっと見て欲しいものがあるんだけど」
「見て欲しいものですか?」
大丈夫ですよ。明日、一限も休講でバイトもないですし、何なら遅くまで付き合っちゃいます」
「ちょっと入ってみて」
彼女の自宅に入ると、神崎さんの仕事部屋兼寝室に案内され、神崎さんがパソコンを操作していく。
「何かやるんですか?」
「ゲーム実況をしようと思って。取り敢えず、配信OKのフリーソフトで軽くね」
「実況をですか? どうして、また?」
「いやー、何て言うか……配信したい欲が湧いてきちゃったというか。神楽咲聖菜のガワもなく、地声で配信した場合、どんだけ人が集まるかなって思って」
「前も配信していたんですよね?」
「うん。その時は全然ダメだったけどね。もうチャンネルも削除しちゃったから、その時の配信動画も私も確認できないし」
うーん、神崎さんがどんな配信をしていたのか、俺も見たかったんだが、既にチャンネルごと削除済みだったのか。
デビュー前の聖菜ちゃんの片鱗を見れればと思ったんだが、神崎さんの配信……これ、実質聖菜ちゃんの復帰だよね?
「これでよしと。悪いけど、スマホでちゃんと配信出来ているか確認してくれる? これが私のチャンネル名ね」
「は、はい。何かドキドキしますね。神崎さんの配信か……聖菜ちゃんの声って地声じゃなかったんですよね?」
「たまに地声が入っちゃったけどね。それにスピーカーを通すと結構、声って変わるものなの。だから、地声配信しても案外、みんなわからなかったりするのよね」
「へえ」
角田が言っていたけど、やっぱりスピーカー使うと声が変わるものなんだ。
電話なんかも電話越しと実際に会って話をすると、結構変わる気がする。
「どうかな?」
「えっと……ああ、ちゃんと配信できていますよ」
「よかった。えー、これから、ウイクラの配信始めまーす。みんな見てくださいね」
と、マイクに語り掛けながら、神崎さんがゲーム実況の配信を始める。
間近でゲーム実況配信を見るの初めてだけど、こんな感じなんだな……。
「えへへ、視聴者数、1人だけ。これ平沢君だよね?」
「は、はい。何か特別扱いされているみたいで、ドキドキしますね」
「特別扱いしているんだよー。ああ、ドキドキするねえ。んっと、まずは……」
久しぶりの配信だったので、若干手探り感はあったが、すぐに慣れた手つきでゲーム実況を始める。
果たしてどのくらいの視聴者が集まるんだろうか?
今のところ、視聴者は俺一人だけど、これから徐々に集まったりするのか?
「んーー……中々、集まらないね」
神崎さんがゲーム実況を始めてから十五分ほど経過したが、同接……視聴者は相変わらず俺一人だけだった。
やっぱり、こんなものなのね……てか、ウイクラ配信なんてやっているの山ほどいるからなあ。
「ぶいロイドのVtuberってブランド力はやっぱり、凄いんだねえ。聖菜の初配信の時でも二万人以上、同接あったのに」
「厳しいんですね、やっぱり。ヒットしている人って、どうやってヒットさせているですかね」
「多分、本人もよくわからないと思うよ。あ、同接二人になっているよ。ふふ、チャット欄は相変わらず真っ白だけどね」
「す、すみません。何かコメントしますね」
「いいよ、無理にやらなくて。あ、もう一人増えている。こっからは身バレに気を付けないとね」
俺以外にも二人は神崎さんの配信を見ている人がいるんだなー。
「今日はここまでにしますね。皆さん、ありがとうございました」
一時間ほどで配信は終了し、神崎さんはお礼の挨拶をしたあと、ゲームを終了する。
「もう終わりなんですか?」
「うん。試しにやってみたかったけだし。あはは、同接は最高で四人だけか。こんなものだよね」
と、笑いながら神崎さんは言っていたが、配信自体は楽しそうだった。
「これから、配信を続けるんですか?」
「いやー、どうしようかなって。私、ゲームはそんなに上手じゃないし、喋りも得意じゃないしさ」
「え? でもゲーム上手でしたよね」
「子供のころからやっていたゲームだけわね。あんまり、テレビゲームとかもやっていなかったし。でも、見てくれてありがとう。私のゲーム実況、どうだった?」
「あー、そうですね。楽しかったです」
「もっと正直に言って欲しいんだけど」
「はは。聖菜ちゃんの時はもっとテンション高かったですけど、今回は落ち着いてましたね」
正直に言うと、あんまり特徴のないゲーム実況だったので、面白いとまでは言えなかったが、聖菜ちゃんの実質特別復帰配信を見れたってだけで、俺は大満足だった。
「遅くなっちゃったね。今日は泊っていく?」
「え? ああ、大丈夫ですよ。自転車で家はすぐなんで」
「本当? でも、もう遅いし、帰りになんか事件にでも巻き込まれたら、お姉さんも責任感じちゃうんだけどね」
その気持ちだけでも嬉しいんだが、流石に一人暮らしの女性の家にお泊りってのはちょっと……まさか、誘っている訳じゃないよな?
「明日も大学有りますので、もう帰りますね」
「うん、またねー。あ、よかったら、いつでも遊びに来てね」
「はい」
と言って、足早に神崎さんの家を後にし、家路に着く。
これが聖菜ちゃんの復帰の足掛かりなれば最高なんだけどな。




