第十一話 Vオタクの友達はかなり厄介?
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「どうも。ふふ、初めてのコラボカフェどうだった?」
「いやー、やっぱりいいもんですね。聖菜ちゃんがいればもっと良かったんですけど」
ぶいロイド特製のパンケーキは実際、美味しかったんだが、肝心の聖菜ちゃんが引退してしまったので、やっぱり物足りなさは感じる。
と言っても、聖菜ちゃんの中の人と一緒に来てしまったので、とんでもなく貴重な体験ではあるんだけど、何か違う気がすると言うか……神崎さんと聖菜ちゃんを同一人物と見て良いのか、未だによくわからないのだ。
「そっか。聖菜がいればなお良かったんだね」
「そうですね。あの、神崎さん。今日はどうしてここに?」
「うーん、何でだろう。もしかしたら、知り合いに会えるのかもとか思っていたのかも。V時代のね」
ぶいロイドのメンバーがお忍びで来店している事を期待していたって事?
もしそうなら、俺と一緒のところを見られたら、結構まずいんじゃないかと思っちゃうが……。
「あのー、復帰ってそんなに簡単に出来ないんですか?」
「どうだろう? 引退したVtuberが復帰って、あんまり聞いたことないし」
そう言えば俺も知らないな。長期間活動を休止した後に、復帰したのは知っているけど、引退してからまた戻ってきたってのは……こういうのは角田が詳しいかも。
「戻れるよう応援しますよ」
「あはは、まだ決めてないんだって。どうすればベストなのか……」
結婚が駄目になったから、やっぱり引退を撤回しますって訳にはいかないのか。てか、引退しちゃっているわけだし、聖菜ちゃんの権利とかどうなっているんだろう。
「今日は付き合ってくれてありがとう。平沢君と一緒で楽しかったよ」
「あ、いえ。俺の方こそ、誘ってくれてありがとうございます。あのっ!」
「ん?」
「えっと……また、神崎さんと一緒に出掛けられたらなって……駄目ですか?」
「え……ああ、うん。いいよ」
お、おお……思い切って言ってみたが、了承してくれてよかった。
俺なんかまだまだガキだから、大した意味もないんだろうか、神崎さんとの距離が少しは縮まってきたか?
「私の方こそ、何かあったらお願いね。未だにちょっと何かやる気が起きなくて……実家にも帰りにくいし、引っ越すのも面倒だしでさ」
「わかりました。もう二十四時間いつでも呼んでください。すぐ駆け付けますから」
「ありがとう」
と駅前に着いたところで、少し寂し気な表情を神崎さんがそう言い、何処か胸が締め付けられる気分になってしまった。
まだ自分がどうしたいのかわからないってことか……まあ、俺があまり踏み込んだ事も言えないので、
月曜日になり――
「おはよー、平沢君」
「おう、角田。おはよう」
いつも通り、大学に行き、講堂に入ろうとした所で角田が声をかけてきた。
「ふふ、一昨日はお楽しみでしたねえ♪」
「何のことかわからないな」
「またまたー。あんな綺麗なお姉さんを連れておいて。まあ、ちょっとだけそのことで話があるんだけど。後でサークルの部室に来てくれる?」
「今日はバイトが入っているから、あんまり長居は出来ないぞ」
「大丈夫、大丈夫。そんなに時間は取らせないから」
「わかった。ちょっと顔を出すだけだからな」
と言って、講堂に入るが、話ってのは……十中八九、神崎さんの事だろう。
いくら何でもちょっと話したくらいで、正体がバレるなんて事はないだろうが、取り敢えず用心しておくことに越した事は無いか。
「ここも来るの久しぶりだな」
授業が終わった後、部室にあるクラブハウスに向かい、文芸サークルの部室の前まで行く。
元々、熱心に活動していた訳じゃないけど、最近は聖菜ちゃんの引退とか色々あっていく気もしなかったな。
「ちわーっす」
「あ、来た来た」
部室に入ると、既に角田が部室に来ており、タブレットで何か動画を見ていた。
「ふふ、見てみて。ボーカロイドで曲を作って、投稿したの」
「へえ、そんな事しているんだ」
角田がタブレットで自分で作ったらしいボーカロイドの曲を見せるが、こんな趣味があったとは。
流石、自他ともに認めるバーチャルオタクだけあるな。
「まだ再生数、全然だけどねー。どうすればバズるんだが」
「俺も後でじっくり聞いてみるよ。ところで、話って何?」
「ああ、昨日の事。私のVセンサーだとさ。八十%以上の確率で、そうなんだよね」
「は? Vセンサー?」
なんのこっちゃと首を傾げていると、角田はタブレットをテーブルに置き、
「神崎さんの事だよ。あの人の声を独自に分析してみたらさ。神楽咲聖菜本人の確率が高いのよね。てか、声似ているって思ってなかった?」
「な、何だそりゃ?」
「彼女の声をちょっとトーンを高くしてスピーカーを通すと、ちょうど神楽咲聖菜の声になるのよね。もしかして、平沢君が聖菜の婚約者だったりする?」
「そんな訳あるか! てか、分析って、お前の想像だろ」
婚約者ってのは当然違うが、まさか本当に神崎さんが聖菜ちゃん本人だと踏んでいたとは……
こいつ、思っていた以上にあかんレベルのオタクじゃねえか。
「そりゃそうだけどさ。流石に本人の前では触れなかったけど、神崎さん、指輪をしていたよね? もしかして、人妻?」
「違うみたいだけど……」
「ふーん。まあ、平沢君が不倫なんかするようなタマじゃないよね。でもさー、指輪をしているって事は婚約とかしているってことじゃない。もしくはしていたとか」
「知るかよ。アクセサリーで付けているだけじゃないの」
出来る限り平静さを装いながら、答えていくが、核心に触れる部分までガンガン付いて行くの止めてくれないかな……こっちも心臓がバクバク言って、生きた心地がしないんだ。
「あの指輪見て、むしろ婚約破棄の噂、やっぱり本当なのかなって、むしろ思っちゃうのよね。神崎さんが聖菜だと仮定した場合だけどさ。離婚してからも男避けの為に指輪を敢えてしているって人、ウチの親戚にもいるのよ。ましてや、本当に婚約中なら、他の男とカフェでデートなんて有り得ないじゃん。平沢君はぶいロイドの関係者もないのに。本当にどういう知り合い?」
「だ、だから、居酒屋で酔い潰れていたところを、ちょっと家まで送っていったっていうか……」
嘘は付いていないけど、流石にゲロの事は言えないので、言葉を濁すが、実際、神崎さんとの関係を説明するの困るんだよな。
(これ以上深堀されるとまずいかも)
「とにかく、付き合っているとかじゃないから。あ、もうバイトの時間だ。それじゃ、俺はもう行くぞ」
「あ、そう。ふふ、神崎さんにまた会いたいって言っておいてねー」
まだ少し時間はあったが、逃げるようにそう言ってこの場から去ると、俺の意図などお見通しとばかりにニヤニヤしながら手を振って見送った。
まずい、これはすぐに神崎さんに言わないとな。
『もしもし』
「あ、神崎さん。夜分遅くにすみません」
バイトが終わってすぐ神崎さんに電話をかけて、さっきの部室での事を報告する事にした。
「実はですねー……角田が、神崎さんが聖菜じゃないかって疑ってしまして。声が似ているとか何とか」
『へえ。鋭い子じゃない』
「だ、大丈夫なんですか?」
そう説明すると、神崎さんは特に気にしている様子もないかのようなあっけらかんとした口調で答え、
『別に声が似ているってくらいで、すぐに身バレはしないって。心配しなくても大丈夫。仮に聖菜なのかって聞かれてもこっちでどうにか誤魔化すから』
「そ、そうですか」
心配し過ぎだったのか、神崎さんが逆に安心するように俺に言ってきたので、俺も落ち着きを取り戻す。
流石、プロだな。こういうのは慣れているのかな、
『心配してくれてありがとう♪ 聖菜もとっても嬉しかったよ』
「――っ! は、はは……ならよかった」
いきなり、神崎さんが聖菜ちゃんの声で俺に言ってきたので、ドキっとしてしまう。
こういう不意打ちっぽいサービスは効くなあ……




