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第95話 庶民遊戯

朝、体が重かった。


葵はベッドの上で少し考えて、回復魔法を手のひらに灯した。


サナティオ・ルクスの光が体に染み込んでいく。


少しずつ楽になった。


端末が鳴った。蒼玲からのメッセージだった。


「放課後、生徒会室に来なさい」


1文だけだったのに怒りが伝わってきた。

ライラが胸元で震えた。


「……ライラ、大丈夫?」


「......大丈夫」


ライラがまだ震えていた。葵は端末を置いて、着替え始めた。


――――――――――――――――――――


剣技の授業はハルトマンが仕切った。


号令一つで生徒が動く、いつも通りの授業だった。


エリックが葵の隣に並んだ。


「昨日のパレード、青かったな」


「先輩にやられました」


「......虐められていないよな?」


それだけ言って、エリックは前を向いた。


魔法実戦演習は防御と攻撃を交互に打つ形式だった。


葵は光魔法と闇魔法を使い分けながら淡々とこなした。


ハルトマンが一度だけ葵の方を見て、何も言わなかった。


――――――――――――――――――――


放課後、生徒会室に向かうと、蒼玲が腕を組んで待っていた。


「来たわね、小春葵」


「はい、昨日は予定があって」


「そんな言い訳はいらないわ。」


蒼玲が少し間を置いて、葵を真っ直ぐ見た。


「白羽から言われたのよ。あなたの気持ちが分かっていないって」


「……そうなんですか」


「確かに、あなたはどんなに高価なものを贈っても私に靡かないわよね」


葵は特に何も言わなかった。蒼玲が続けた。


「それで私、考えたの。庶民について何も分かっていないって」


一歩前に出て、自信満々に言った。


「小春葵、私に庶民を教えるのよ」


「……はい。教えるのは構いませんけど、僕は何をすればいいでしょうか?」


「庶民の文化、すなわち庶民遊戯よ」


蒼玲が部屋の奥を指さした。


「この私があなたと庶民遊戯で遊んであげるわ。これを見なさい」


巨大なテレビに繋がったゲーム機が部屋の隅に鎮座していた。


画面には『Arcadia Fighters Chronicle』のタイトルが映っていた。


「庶民ゲーム機械よ」


「……格闘ゲームですね」


「そうよ。負けた方が罰ゲームよ」


蒼玲がどこからか小さな袋を取り出した。


中を見ると、葵のサイズに合わせたメイド服が入っていた。


「……これは」


「あなた用よ。可愛いでしょう」


ライラが胸元でまた震えた。


――――――――――――――――――――


コントローラーを受け取って、葵はキャラクター選択画面を眺めた。


蒼玲が迷わず「玲華」を選んだ。中国拳法をベースにした優雅な女性ファイターだった。


「この子にするわ。見て、この気品。まさに私のためのキャラクターよ」


葵は少し考えて「零」を選んだ。可愛らしい少年風のキャラクターだった。


「……可愛いキャラを選ぶのね」


「はい、初心者なので扱いやすいファイターを使おうと思って」


試合が始まった。


蒼玲が早速必殺技を出した。


青い龍のホログラムが画面を飛び出して美しく舞った。


「ほら、見て!この蒼龍波の美しさ!」


蒼玲とのゲームはとても楽しかった。


複雑なコマンドの必殺技を出して得意気になっている彼女を見ると、葵まで楽しくなっていた。


彼女が声を弾ませて必殺技を出すたび、思わず口元を緩めながらガードを固めた。


「……すごい演出ですね」


蒼玲が次々と技を繰り出した。


鳳凰の粒子が舞い上がり、回転蹴りが炸裂する。


生徒会室が派手なエフェクトで埋め尽くされた。


葵は冷静にガードしながら、隙を見て反撃した。


蒼玲のHPがじわじわ削れていった。


「なっ……」


葵の零が淡々と攻撃を続けた。蒼玲の玲華が倒れた。


「……」


沈黙が落ちた。


「先輩、本当に強かったです……僕、必死でしたよ」


蒼玲がコントローラーを強く握った。


「五回先に勝った方が勝ちよ!」


――――――――――――――――――――


二戦目が始まった。蒼玲は今度は慎重に動いた。葵の動きを見ながら、タイミングを計って蒼龍波を放つ。葵がまたガードした。


「この子、ガードばかりして……」


三戦目。蒼玲がフェイントを混ぜ始めた。葵が一瞬判断を誤って被弾した。


「そうよ、そういうことよ!」


でも葵の反撃の方が速かった。玲華がまた倒れた。


「なんで……私の方が動体視力は上なのに」


四戦目。葵の動きが変わってきた。ガードするだけでなく、蒼玲の癖を読んで先に動き始めた。蒼玲が技を出す前に潰される。


「なんで読まれるの……!頭脳だって私の方が上なのに!」


五戦目。蒼玲は全力で動いた。鳳凰天舞の超必殺技が炸裂して画面が赤く染まった。だが、葵は落ち着いてそれを見切って、最後の一撃を入れた。5-0の完全敗北だった。


蒼玲がコントローラーを置いた。しばらく画面を見つめていた。


「……なんで。動体視力も、頭脳も、精密動作も、全部私の方が上なのに」


「......罰ゲームのメイド服は、着なくても大丈夫ですよ。とても楽しかったですし」


蒼玲が葵を見た。


「……勝ったからよね?」


「いえ、負けていたとしても、きっと楽しかったですよ。

先輩と一緒に遊べただけで、嬉しいです」


蒼玲の目が細くなった。


「馬鹿にして!」


立ち上がって、メイド服の袋を掴んだ。


「いいわ、二言はないわ!」


葵が視線を向けると、蒼玲が指を鳴らした。魔力で木の壁が生えて、即席の着替えスペースができた。


しゅるしゅると制服を脱ぐ音がした。葵は前を向いたまま待った。


やがて木の壁が消えた。


制服が机の上に畳んで置かれていた。


そして蒼玲が戻ってきた。


身長180cmのグラマーな体に、葵サイズのメイド服が収まっていた。


スカートの丈が短く、胸元のフリルが張り詰めていた。


レースがあちこちで主張している。


本来なら可憐に見えるはずのデザインが、蒼玲の体型によって全く別の方向に仕上がっていた。


蒼玲が少し頬を染めながら、それでも背筋を伸ばして立っていた。


「……笑いなさいよ」


「少しサイズが小さいですけど……とても可愛らしいです」


蒼玲がまた頬を染めた。


「さあ続けるわよ!」


――――――――――――――――――――


パツパツのメイド服のまま、蒼玲がコントローラーを握った。


六戦目が始まった。蒼玲の動きが変わっていた。焦りが消えて、冷静に葵の動きを観察し始めた。葵が攻めに来るタイミングをガードして、反撃を入れる。


「……少し変わりましたね」


「当然よ」


七戦目。蒼玲がフェイントと必殺技を組み合わせてきた。葵が一度被弾した。


「ほら!」


でも葵が立て直して逆転した。


「くっ……」


八戦目。蒼玲の攻めが鋭くなってきた。葵が防戦になる場面が増えた。


「そう、そこよ……!」


だが葵が冷静に捌いて勝った。


九戦目。蒼玲が追い詰められながらも粘った。葵の動きを読んで、蒼龍波を的確に当てた。HPがほぼ互角のまま終盤へ。


「……これは」


最後の一撃を蒼玲が入れた。葵の零が倒れた。

「見たわね!小春葵!私の勝ちよ!」


蒼玲が立ち上がった。パツパツのメイド服のままだった。

葵は思わず笑った。


「おめでとうございます、先輩。

最後、本当に強かったです……

僕、負けてしまいました」


蒼玲が胸を張った。それからふと葵の笑顔を見て、少し目を逸らした。

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