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第91話 ハロウィンの日

端末が鳴ったのは、朝食の片付けを終えた頃だった。


イレムからだった。


「魔女っ娘で登校しないとダメだよ! ハロウィンの決まりだから!」


葵は少し考えて、着替えた。


――――――――――――――――――――


校門をくぐった瞬間、気づいた。


誰も仮装していない。


制服姿の生徒たちが葵を見て、二度見して、また見た。


葵は前を向いたまま歩いた。端末を開くと、イレムからメッセージが来ていた。


「ごめんごめん! かわいいよ!」


葵は端末を閉じた。


廊下を歩いていると、エリックが壁に背をもたせかけて腕を組んでいた。葵を見て、ゆっくり口を開いた。


「気合が入っているな」


「……先輩に騙されました」


エリックは特に同情した様子もなく、「そうか」とだけ言った。


葵はポケットからクッキーの袋を取り出した。


「どうぞ」


エリックが受け取って、一枚口に入れた。しばらく噛んで、葵を見た。


「素晴らしい。だがまだ上に行ける」


「上、ですか」


「魔法を使え」


それだけ言って、エリックは廊下を歩いていった。葵はその背中を見送って、少し考えた。


クッキーに魔法。


「……どうやって」


返事はなかった。


――――――――――――――――――――


授業のホールに入ると、茜がすぐに気づいた。


「葵っ、かわいい!」


「……先輩に騙された」


「えっ、でもかわいいよ。ねえ、かわいくない?」


茜が隣のセレンに振った。セレンは葵を一瞥して、


「……かわいい」


と言って前を向いた。


葵は席に着いた。気づくと茜が左、セレンが右に座っていた。


「なんで二人ともここに」


「運命だから」と茜。


「席が空いていたから」とセレン。


葵は前を向いた。


魔法工学の授業が始まった。リースが教壇に立って葵を見て、一瞬だけ何か言いたそうな顔をして、やめた。


オルタが「授業を始めます」と言った。


葵は帽子を少し直して、ノートを開いた。


茜がこちらをちらりと見て、また前を向いた。セレンは最初から前を向いていた。


2限の契約説法の授業が終わる頃には、葵は自分の恰好のことをほとんど忘れていた。


――――――――――――――――――――


昼休み、颯とマルコとリオが合流してきた。

颯が葵を見て吹き出した。


「なんだその恰好」


「イレム先輩に騙された」


「マジか」


マルコが腹を抱えて笑った。リオだけが少し遅れて、小さく笑った。


葵はポケットからクッキーの袋を取り出した。金色のリボンがかかっている。リオに差し出した。


「誕生日、おめでとう」


リオが受け取って、袋を見た。しばらく何も言わなかった。


「……ありがとう、葵」


颯がすかさず割り込んだ。


「俺の分は? 普通のだけ?」


「俺も」とマルコ。


葵は笑った。


「誕生日の時に何か作るよ」


「じゃあ楽しみにしとく」と颯。


リオはまだ袋を見ていた。


――――――――――――――――――――


放課後、生徒会室に集まると、全員仮装済みだった。


蒼玲が吸血鬼のマントを翻して葵を見た。

白羽が死神の鎌を脇に抱えていた。

カヴィヤが天使の輪を頭に乗せて手を振った。

アリアが狼女の耳をつけたまま無表情で立っていた。

イレムが巨大なかぼちゃの被り物をして入口を塞いでいた。

エリサベットが人魚姫のドレスの裾を直していた。


葵が入ると、イレムのかぼちゃが振り向いた。


「来た来た! 似合ってるじゃん!」


「先輩のせいです」


「ごめんごめん!」


全然反省していない声だった。


蒼玲が葵の前に小箱を差し出した。パッケージに青い妖精のイラストが描いてある。


「かわいそうに......これをあげるわ。青変仙子糖。食べなさい」


「……何ですか、これ」


「天龍集団のお菓子よ。ハロウィンに最適よ」


葵は一粒口に入れた。ほんのり甘くて、椰子の香りがした。


それから数秒後。


カヴィヤが目を丸くした。


「葵くん……」


葵は自分の手を見た。


コバルトブルーだった。


顔も、首も、手も、全身が鮮やかな青に染まっていた。


イレムのかぼちゃが揺れた。


「いたずらなお菓子だねー!」


お菓子を持ってきたのに、いたずらされた。


笑い声が生徒会室に広がった。蒼玲だけが涼しい顔をしていた。


「パレード中は消えないわ。ちょうどいいでしょう」


葵は少し考えて、帽子を被り直した。青いのは仕方ない。


魔女で青肌なら、むしろハロウィンらしいかもしれない。


「……行きましょうか」


――――――――――――――――――――


廊下は霧の魔法で白く霞んでいた。天井にはゴーストが浮かび、かぼちゃのランタンが橙と紫に色を変えながら並んでいた。


青い葵が先頭に立ってお菓子を配った。生徒たちが受け取りながら二度見した。何人かが笑った。何人かが写真を撮った。


屋外に出ると風が冷たかった。空が暗くなり始めていた。

移動中に先輩たちにもお菓子を渡した。


白羽がお菓子の袋を受け取った時、葵を見て、一瞬だけ何かに気づいたような顔をした。


全身コバルトブルーのまま、パレード会場に向かった。

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