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第87話 禁じられた輝き

「ダメだ」


夕食の席で、アーデルが言った。


葵はフォークを止めた。


テレビの話を切り出したのは食事が始まってすぐのことだった。


アーデルの返答は、それだけだった。


「……理由を聞いてもいいですか」


「番組は全て企業のプロパガンダだ」アーデルは淡々と続けた。


「あんなものを垂れ流し続ければ思考が鈍る。見ていると頭が悪くなる」


「頭が、悪くなる」


「そうだ」


葵はライラを見た。ライラは胸元でじっとしていた。


オリビアが口を開いた。


「あの、でしたらうちに——」


そこで止まった。


何かを思い出したように、ぱっと表情が変わった。それ以上は何も言わなかった。


「い、いえ。今はテレビが壊れていました」


「そうですか」と葵は言った。


オリビアが小さく咳払いをして、スープに視線を戻した。


葵は分かりました、と言おうとした。諦めよう、と思った。


その瞬間、胸元から何かが飛び出した。


「……ケチ」


ライラだった。テーブルの上に降り立って、アーデルを真っ直ぐに見ている。


食卓が静かになった。


「ケチンボ!」ライラの声が大きくなった。


「夕食だって私が作っているのに!」


オリビアがゆっくりとライラを見た。それからライラを指さした。


「……喋るんですね」


「喋る!」


アーデルはライラを見た。ライラはアーデルを見ていた。

しばらく間があった。


「……分かった」アーデルが言った。「置いていい」


ライラが葵を振り返った。その顔は満足そうだった。


葵は端末を取り出した。天龍集団のネットスーパーを開く。


トップページに「新商品のお知らせ」というバナーが大きく出ていた。


量子奇脆。仙霊液。


見覚えのある名前が並んでいた。


スタディホールで配られた菓子だ。


堂々と新商品として売り出されている。


魔脳晶はなかった。


やっぱりダメなやつだったんだ、と葵は思った。


「テレビ」と検索欄に入力した。ライラが画面を覗き込んでくる。


「これどう?」


「こっちの方がいい」


ライラが画面を指さす。二人であれでもないこれでもないと選んでいく。


「これにしよう」とライラが言った。


「うん」


注文ボタンを押した。


注文してからさほど時間も経たないうちに、玄関のチャイムが鳴った。思ったより早かった。


扉を開けると、ドローンが荷物を抱えて浮いていた。受け取りのサインをして、箱を受け取った。


箱を開けると、説明書が入っていた。ぱらぱらとめくると、様々な言語で書かれていた。英語、中国語、アラビア語、スワヒリ語——日本語もあった。


日本語のページを開いて読む。


立体ホログラム映像への切り替え機能。パーソナライズ機能、テレビの前に居る人の好みを解析して、お勧めの番組を自動で表示する機能などがあった。


「すごいね」


「早く付けて」とライラが言った。


葵は説明書を片手に、ケーブルを繋いだ。


電源を付けると、言語選択が出てきた。日本語もあった。


ただ、アーデルもオリビアも日本語は分からないだろう。英語を選んだ。


ライラが横でじっと見ていた。


テレビチャンネルに変更すると、画面が明るくなった。


バラエティー番組が映っている。出演者が何かで大笑いしていた。


「映った」


「映った!」


二人で画面を見ていた。それだけのことなのに、なんだか嬉しかった。


しばらくして、アーデルがテレビの前を通りかかった。


画面が切り替わった。


パーソナライズ機能が反応したのかもしれない。


バラエティー番組が消えて、恋愛ドラマが始まった。


画面の中で男女が見つめ合っている。


アーデルが立ち止まっていた。


葵はアーデルを見た。アーデルは画面を見ていた。


しばらく、動かなかった。

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