表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/88

第76話 仙霊液

パーティーの翌日から、日々はあっという間に過ぎた。


授業、ピアサポート、家庭教師、食事、就寝。同じサイクルが繰り返された。


オリビアの予想問題を解いて答え合わせをして、また解いた。


蒼玲の膝の上で勉強を教えてもらった午後もあった。気づけば試験まで二日になっていた。


ーーーーーーーーーーーーーー


土曜日の午後、ピアサポートの教室に行くと、颯・リオ・セレン・茜がすでに席についていた。


颯がノートを広げたまま額に手を当てていた。「魔法工学の均衡の原則、何回やっても頭に入らねえ」


「もう一回やる?」と葵は言った。


「やる」


リオが静かにシャープペンシルを走らせていた。茜は問題集に向かっていた。セレンは端末を見ながら何かを書き込んでいた。


葵はカヴィヤとアリアと手分けして回った。颯に均衡の原則を説明した。


オリビアが教えてくれた順番で話すと、颯が「あ、なんか繋がった」と言った。


「その説明、誰に教わったの」とセレンが言った。


「オリビア先生に」


セレンが少し考えてから、また端末に視線を戻した。


ーーーーーーーーーーーーーー


教室の扉が開いたのは、それから一時間ほど経った頃だった。


蒼玲だった。いつも通りの涼しい顔で入ってきた。両手に小さな箱を持っていた。


「試験前のご挨拶よ」


「……また何か持ってきたんですか」とカヴィヤが言った。


「……今回のは完全に合法よ」と蒼玲は言った。


カヴィヤの目が細くなった。


蒼玲が箱を開けた。中に小さな磁器風の小瓶が並んでいた。

深紫と金色と青のグラデーションで、仙気が漂うような色をしていた。液体が入っていた。

一回分ずつ個包装になっていた。


「仙霊液よ。天龍集団の研究部門が開発した。飲み方は説明書を読んで」


蒼玲がカヴィヤに一枚の紙を差し出した。


カヴィヤが受け取って読み始めた。全員がカヴィヤの顔を見た。カヴィヤの目が説明書を上から下へ動いた。少し止まった。また動いた。


「……まあ、うん」とカヴィヤは言った。「……大丈夫、です」


颯が「今の間は何だったんですか」と言った。カヴィヤは答えなかった。


ーーーーーーーーーーーーーー


蒼玲が小瓶を全員に配った。


「強く振って」


全員が小瓶を振った。シュワシュワと泡がモコモコと発生し始めた。液体が淡い青から紫へ、紫から金色へと変わっていった。


颯が「うわ、何これ」と言った。


「飲みなさい」


全員が口に含んだ。


ペパーミントとローズマリーの香りが鼻腔に抜けた。泡が舌の上で弾けた。味が変わった。甘くなって、また変わって、清涼感が残った。


「……おいしい」とリオが言った。


「あと十五分から二十分で効いてくるわ」と蒼玲は言った。「勉強を続けなさい」


それだけ言って、蒼玲は教室から出ていった。


全員がしばらく顔を見合わせた。


「……続けるか」と颯が言った。


ーーーーーーーーーーーーーー


十五分ほどして、葵はふと気づいた。


思考が、速かった。


問題を読んだ瞬間に解法が見えた。次の手順が来る前に、その次が見えた。

普段ならひと呼吸置いて確認するところを、確認する前に答えが出ていた。


——これが効いている、ということか。


葵は問題集のページを開いた。解いた。また解いた。


颯が「……頭、おかしくなりそう。繋がりすぎて」と言った。


「おかしくはないと思う」と葵は言った。


「なんか全部一個のことに見えてくるんだけど」


「多分それが正しい」


颯がしばらく黙って問題集を見た。「……すごいな、これ」


茜が「……葵、いつもよりすごくない?」と言った。


「少し」


茜が葵を見た。何か言いかけて、やめた。また問題集に視線を戻した。


リオが静かに手を上げた。「葵、ここ教えて」


葵はリオの隣に移動した。


セレンが端末から目を上げた。「……私は特に変わらなかった」と言った。誰も何も言わなかった。


ーーーーーーーーーーーーーー


日曜日、午前中からオリビアの部屋に行った。


「最終確認、始めましょうか」とオリビアが言った。


午前中は学科を一通り回した。数学から始めて、リンガ、魔法工学、契約説法、世界史の順に確認した。オリビアが問題を出し、葵が答えた。間違えた箇所を潰した。また問題を出した。


昼を挟んで、午後は実技の確認をした。魔法の術式の手順をオリビアが一つずつ確認した。


すべてが終わった頃、窓の外が夕方になっていた。


オリビアが問題集を閉じた。少し間を置いた。


「葵くんなら大丈夫です」


それだけ言った。


葵は少し間を置いた。「……ありがとうございます」


オリビアが微笑んだ。「明日、頑張ってきてください」


ーーーーーーーーーーーーーー


夜、部屋に戻った。


机に座って、一通り確認した。確認が終わると、静かになった。


ライラが胸元でかすかに揺れた。


「……緊張してる?」とライラが聞いた。


「……分からない」と葵は言った。


窓の外にアルカディア島の夜景が広がっていた。光が静かに輝いていた。


「……大丈夫だよ」とライラは言った。


葵は少し間を置いた。「……根拠は」


「……全部やったから」


それだけだった。葵はしばらく夜景を見ていた。


「……おやすみ、ライラ」


「……おやすみ」


試験は明日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ