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第75話 エリサベットの誕生日

放課後、生徒会メンバーと一緒に屋上に向かった。


扉を開けると、風が来た。


空に、船がいた。


白と金色の船体だった。地面から浮いて、音もなく静かにそこにあった。


「蒼玲先輩、これは」


「浮遊クルーザーよ」と蒼玲が言った。「エリサのために手配したわ」


タラップが降りてきた。


全員が乗り込むと、クルーザーがゆっくりと上昇し始めた。屋上が遠ざかり、島が小さくなっていった。


しばらくして、甲板に出た。


アルカディア島の夜景が眼下に広がり、光の建築群が輝いていた。空中モノレールが静かに走っており、海が光を反射していた。


——きれいだ。


「……きれいだね」と葵は言った。


「……うん」とライラは言った。


蒼玲が「早く中に入りなさい」と言った。

葵は甲板の景色から視線を引き剥がして、中に入った。


ーーーーーーーーーーーーーー


中に入ると、広い空間が広がっていた。


天井が高く、シャンデリアが光を散らしていた。長いテーブルに白いクロスが敷かれており、白と淡いピンクの生花が会場を埋め尽くしていた。


エリサベットが深いエメラルドグリーンのドレスを着て、おそらく2年生であろう友達達に囲まれていた。

葵を見つけると、少し目を見開いた。


「……葵、来てくれたのね」


「はい、お誕生日おめでとうございます」


エリサベットの頬がほんのりと赤くなった。「……ありがとう」


2年生の友達が葵を見ていた。何人かが小声で話していた。葵には聞こえなかったが、なんとなく居心地が悪かった。


イレムが葵の隣に来た。「葵くん、緊張しなくていいよー」


「……はい」


「かわいいから注目されてるだけだよ」


葵はどう返せばいいかわからなかった。


生徒会メンバーが自然と固まった。葵もその中に入った。少し肩の力が抜けた。


ーーーーーーーーーーーーーー


最初に運ばれてきたのは、空中に浮かぶ皿だった。

真鯛とサーモンの薄切りが反重力フィールドで宙に漂っており、ウェイターが光の粒子をかけると、柑橘とハーブの香りが一気に広がった。


「……フロート・アクアリウム・カルパッチョです」とウェイターが言った。


葵は一口食べると、海の新鮮さが口の中で弾けた。

一口ごとに味が変わった。


次に運ばれてきたのは、ホログラムのタコス。

サクサクのシェルの中でミニチュアの魚がホログラムで泳いでいた。


「……すごいですね」と葵は思わず言った。


「天龍集団の食材と技術よ」と蒼玲がさらりと言った。


メインは巨大なガラスドーム型のスープだった。

魔法の泡の精霊がスープをゆっくりとかき混ぜていた。ガラスドームには香りが閉じ込められていて、ドームを開けた瞬間に一気に広がった。

世界中の希少な魚介がたっぷりと入っているらしい。


エリサベットが「……ブイヤベース、大好きなのよ」と嬉しそうに言った。


続いてノルウェー産サーモンのステーキが運ばれてきた。表面だけカリッと焼かれていて、上に食用金箔が光っていた。口に入れると、不思議な浮遊感があった。


葵が不思議な感覚について尋ねると「……軽量気泡魔法です」とウェイターが説明した。


ライブステーションでは、AIロボットシェフが魚を選んでその場で調理してくれた。揚げたてのフィッシュ&チップスが空中を浮かんで運ばれてきた。


グラスには光る魚のホログラムが泳ぐスパークリングドリンクが注がれた。微かに磯の香りがした。


デザートは食べられる雲の上にマンゴーと魚の形のソルベが浮かぶアイスクリームだった。スプーンを入れると魔法の泡が弾けて甘い香りが広がった。最後に透明なゼリーの中で光る魚やサンゴが泳ぐゼリーが運ばれてきた。ゼリーが微かに脈動していた。


葵はただ食べていた。何がどうすごいのか、言葉にならなかった。


颯がいたら「うらやましすぎる」と言っただろうと思った。


ーーーーーーーーーーーーーー


食事が一通り終わった頃、蒼玲が「プレゼントの時間にしましょう」と言った。


エリサベットが上座に座った。生徒会メンバーが順番に前に出た。


白羽が最初だった。細長い箱を差し出した。「神刃製鉄で打った小刀だ。家紋を彫刻してある」


エリサベットが箱を開けた。刃が光を反射した。

「……美しいですわね。ありがとうございます、白羽先輩」


次にカヴィヤが前に出た。小さな瓶を手渡した。

「希少な花から作った香水よ。エリサさんに似合うと思って」


エリサベットが瓶を開けて香りを確かめた。目が細くなった。「……素敵な香りですわ。ありがとうございます、カヴィヤ先輩」


アリアが無言で小箱を置いた。中には金属細工のアクセサリーが入っていた。繊細な模様が施されていた。


エリサベットが「……アリア先輩、これ自分で作られたんですか?」と聞いた。


「……うん」


「……すごいですわね」とエリサベットが言った。アリアは何も言わなかった。


イレムが大きな箱を抱えてきた。「世界中の限定チョコレートの詰め合わせだよー」


「イレム先輩、私の好みをよくわかっていらっしゃるわ」とエリサベットが笑った。


蒼玲が自信満々に前に出た。深紅の箱を差し出した。エリサベットが開けた。


翡翠の髪飾りセットだった。光を受けて深く輝いていた。ケースだけで芸術品のような細工が施されていた。


「……お姉さま、これ、いくらするんですか」


「気にしなくていいわ」と蒼玲が微笑んだ。


エリサベットが少し言葉を失っていた。


「……ありがとうございます、お姉さま」


その後もエリサベットの友人達がプレゼントを渡していった。エリサベットは喜び、礼を言っていた。

葵が最後に前に出て、缶を差し出した。


「……これは」


「クッキーです。……手作りなので、他の方のプレゼントと比べると地味ですが」


エリサベットが缶を開けた。花型のクッキーが並んでいた。アイシングで模様がついていた。


「……手作りなの?」


「はい」


エリサベットが一枚手に取った。一口かじった。咀嚼しながら、目が細くなった。耳が赤くなっていた。


「……おいしい」


それだけ言った。また一口かじった。缶をそっと胸に抱えた。


ーーーーーーーーーーーーーー


しばらくして、蒼玲が立ち上がった。


グラスを軽く持った。会場が静かになった。


「エリサベット・ノルドストロム」


フルネームで呼んだ。エリサベットが顔を上げた。


「あなたと初めて会ったのは、子供の頃のパーティー会場だったわ。隅に立って緊張していた小さなあなたが、今でも目に浮かぶ」


エリサベットの目が少し揺れた。


「転んでドレスを汚してしまったあなたに、私はハンカチを差し出した。泣かないのよ、エリサ。こんなところで弱い顔を見せたら、負けだわ——そう言ったわね」


会場が静かだった。


「あの日からずっと、あなたは私のエリサよ。これからも、そうであり続けなさい」


蒼玲が微笑んだ。


エリサベットが「お姉さま……」と言った。目が潤んでいた。必死に堪えているようだった。


2年生の友達が温かい拍手をした。葵も拍手した。


ライラが胸元でかすかに揺れた。温かい揺れ方だった。


ーーーーーーーーーーーーーー


パーティーが落ち着いてきた頃、エリサベットが葵の隣に来た。


「……少し外に出ない?」


「はい」


二人で甲板に出た。


夜風が来た。アルカディア島の夜景が眼下に広がっていた。光の建築群が静かに輝いていた。海が遠くで光を反射していた。


しばらく、二人とも何も言わなかった。


エリサベットが手すりに手を置いた。夜景を見ながら、少し間を置いた。


「……クッキー、おいしかった」


「ありがとうございます」


「……また作って」


耳が赤くなっていた。夜風のせいかもしれなかった。


「はい、また作ります」と葵は言った。


「……そう」


エリサベットが夜景を見ながら続けた。「……あなたと一緒にダンジョンに潜ったこと、覚えている?」


「はい、もちろんです」


「……楽しかったわ」とエリサベットが言った。少し間があった。「その後、お寿司も、一緒に行ったし」


「先輩が食べている姿、今でも覚えています」


エリサベットが「……何よそれ、私もあなたが泣いてたの見てたわよ」と言った。頬が赤くなっていた。


「はい、おいしくて」


「……当たり前でしょう」


少し間があった。


「……また一緒に潜りましょうね。試験が終わったら」


「はい、ぜひ」と葵は言った。


エリサベットが夜景に視線を戻した。口元がわずかに緩んでいた。


ライラが胸元でかすかに揺れた。ただ温かかった。


ーーーーーーーーーーーーーー


しばらくして、蒼玲が甲板に顔を出した。「そろそろ戻るわよ」


二人で中に入った。


帰り際、エリサベットが生徒会メンバー一人ひとりに挨拶をした。葵の番になると、クッキーの缶をそっと持ち直した。


「……今日は来てくれてありがとう、葵」


「お誕生日おめでとうございます」と葵は言った。


エリサベットが小さく頷いた。それ以上は何も言わなかった。


クルーザーがゆっくりと降下した。学校の屋上が近づいてきた。アルカディア島の夜景が少しずつ遠ざかった。


屋上に降りた。夜風が来た。


生徒会メンバーが解散した。葵は一人で教員寮に向かった。


ライラが胸元でかすかに揺れた。


「……楽しかった?」とライラが聞いた。


「……うん」と葵は言った。「楽しかった」


ライラが少し間を置いた。「……よかったね」


夜のアルカディア島を歩いた。試験まで、あと一週間だった。

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