第72話 上位50%
午後の授業中、エリックが質問に答えていた。
的確だった。迷いがなかった。どの科目でも、聞かれたことに対して過不足なく答えた。周囲の生徒が静かにメモを取っていた。
——実戦だけじゃなく、勉強もできるのか。
葵はそう思いながら、自分のノートに視線を戻した。
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授業が終わって廊下に出ると、エリックが葵の隣に並んだ。
「小テストの結果、上がってきているそうだな」
「……はい、少しずつ」
エリックが正面を向いたまま言った。「次の中間試験、どのくらいを目指している」
「……Sクラスの上位50%に入りたいと思っています」
エリックが少し止まった。それから「そうか」と言った。「お前は私のライバルだ。それくらいやってもらわなければ困る」
葵は少し間を置いた。「……エリックさんの、1番目のライバルって誰ですか」
エリックが少し止まった。
「……ルシアンだ」
「ルシアンが」
「あいつは誰よりも努力している。私が知る中で、一番だ」葵の方を見た。「お前も知っているだろう」
葵は頷いた。ルシアンの姿を思い出した。最初は侮りがあった。でも変わっていった。
「……気を引き締めます」
「そうしろ」
エリックはそれだけ言って、廊下を歩いていった。
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放課後、端末に通知が来た。
蒼玲からだった。
「生徒会室に来なさい」
それだけだった。
生徒会室に向かうと、蒼玲が長いテーブルの上座に座っていた。他のメンバーはいなかった。
「来たわね」
「はい」
蒼玲が自分の膝をさりげなく示した。「座りなさい」
葵は少し止まった。
——もう慣れてきた気がする。
「……失礼します」
腰を下ろした。蒼玲の体温が背中から伝わってきた。
「ノートを出しなさい」
葵はノートを開いた。蒼玲が覗き込んだ。
「まず確認するわ。今どの科目が一番不安?」
「……リンガと魔法工学です」
「そう」と蒼玲は言った。「得意科目で稼ごうとしないことね。苦手科目の底上げの方が効率がいいわ」
「はい」
「実技は本番で緊張するから、今のうちに何度も繰り返しておきなさい。当日に体が動けばいい」
「わかりました」
「睡眠を削らないこと。削った分だけ当日に出るわよ」
葵はノートにメモした。
「それから」と蒼玲が続けた。
「あなたの家庭教師を信じなさい。ちゃんとした先生の読みは正確よ」
葵は少し止まった。
「……家庭教師の先生のことを知っているんですか」
「以前一緒に勉強したときに使っていた予想問題、かなり正確だったわ」と蒼玲は言った。
「誰が作ったのかは知らないけれど、信じる価値はあるわよ」
葵は少し間を置いた。「……はい」
それ以上は聞かなかった。
蒼玲がノートを開いた。説明が始まった。
言葉が整理されていて、どこで詰まっているかを自然に引き出してくる。
しばらくして、蒼玲が葵を見た。
「この私がここまで教えてあげてるのよ、恥ずかしい成績は許されないわよ」
「……はい、わかっています」
「ならいいわ」
蒼玲が微かに微笑んだ。窓から午後の光が差し込んでいた。
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生徒会室を出た。
廊下を歩きながら、今日聞いたことを整理した。
エリックの言葉。蒼玲のアドバイス。
——上位50%。
簡単ではないとわかっていた。Sクラスの中で上位半分に入るということの意味は、エリックの授業中の姿を見ればわかった。ルシアンが誰よりも努力しているという話も、頭に残っていた。
ライラが胸元でかすかに揺れた。
「……大丈夫?」
「うん」と葵は言った。「やるだけやってみる」
ライラが少し間を置いた。「……うん」
廊下の窓から、夕方の光が差し込んでいた。




