表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
71/165

第70話 手作りのもの

朝、端末に通知が来た。


蒼玲からだった。


「来週の月曜日、エリサベットの誕生日パーティーをするわ。空けておきなさい」


葵は少し考えた。来週の月曜日——10月20日だった。


——何か用意しなければ。


他の先輩たちは高級品を贈るだろうと思った。自分には同じものは用意できない。


「ライラ、何がいいと思う?」


ライラが胸元から顔を出した。「……手作りのもの」


「手作り」


「……うん。きっと気に入ってくれると思う」


葵は少し考えた。料理よりも、持ち帰れるものの方がいい気がした。


「クッキーはどうかな」


ライラが少し間を置いた。「……いい」


葵は端末にメモした。材料を後で注文しようと思った。


ーーーーーーーーーーーーーー


授業は淡々と過ぎた。


1限の世界史はオリビアに教わった内容が頭に残っていて、少し前より流れが見えた。

2限の魔法工学は理論の確認が続いた。

3限の剣技はエリックと型の確認をした。

4限のリンガは修辞法の復習だった。


ーーーーーーーーーーーーーー


放課後、ピアサポートの教室に向かった。


扉を開けると、茜がいた。


いつもより少し早く来ていたようだった。葵が入ると、茜がまっすぐ葵の前に立った。


「……葵」


「うん」


何も言わなかった。ただ、立っていた。笑っていた。ただ、目が笑っていなかった。


ライラが胸元でかすかに震えた。


葵はどう返せばいいかわからなかった。悪いことは何もしていないはずだった。


しばらくして、茜が「頑張ってね」と言った。それだけ言って、自分の席に戻った。


——何だったんだろう。


カヴィヤが「葵くん、大丈夫?」と小声で聞いてきた。葵は「はい」とだけ答えた。


ライラの震えが、少しずつ収まっていった。


しばらくして、セレンが来た。颯たちのざわめきをよそに、まっすぐ葵の席に来た。


「……昨日の続き、教えてほしい」


茜がセレンをちらりと見た。セレンは気にしなかった。ノートを開いて葵の前に置いた。


葵は気持ちを切り替えて、説明を始めた。


ーーーーーーーーーーーーーー


ピアサポートが終わって教員寮に戻った。


キッチンに立って、今日の夕食を考えた。天龍集団のネットスーパーを開いて、手早く材料を注文した。


クッキーの材料も一緒に頼んだ。


壁の穴からオリビアに声をかけた。「今日も夕食を作ろうと思っているんですが」


「……行きます」


返事は早かった。


アーデルの部屋をノックした。「今日もよろしいですか」


少し間があった。「……ああ」


材料が届いてから、手早く作った。ライラが胸元から出てきて、カウンターの端に座った。今日は黙って見ていた。


三人分の皿を並べた。


ーーーーーーーーーーーーーー


食卓は、少しずつ変わっていた。


最初は無言が多かった。今日はオリビアがアーデルに何か聞いて、アーデルが短く答えた。それだけだったが、悪くなかった。


葵は二人のやり取りを聞きながら食べた。


「……葵くんは」とオリビアが葵を見た。「今日のピアサポート、どうでしたか」


「……いろいろありました」


「いろいろ」


「はい」


オリビアが少し微笑んだ。それ以上は聞かなかった。


アーデルが葵を見た。「……よく作れるな」


「ありがとうございます」


ーーーーーーーーーーーーーー


食事が終わった。


アーデルが「皿は洗う」と言った。葵とオリビアは壁の穴をくぐった。


ーーーーーーーーーーーーーー


葵はノートを開いた。


「……今日は魔法工学をやりましょう」


「はい」


「試験範囲は魔法の理論——共鳴の原則と均衡の原則が中心になります」


オリビアの説明が始まった。共鳴の原則から入り、均衡の原則へと進んだ。途中で葵が止まるたびに戻って確認した。例題を解いて、また説明を受けた。一通り終わる頃には、窓の外がすっかり暗くなっていた。


「……葵くんは魔法工学の授業で、どんなことを習いましたか」


「魔法陣とAIの演算処理は原理が同じだと。どちらも意図を形にして現実に作用させる技術だと習いました」


オリビアが少し間を置いた。「……それは、誰が言いましたか」


「リース先生です」


「……そうですか」とオリビアは言った。「では、その言葉を試験の観点から整理しましょう」


ペンがノートの上を走った。


「……共鳴の原則というのは、同質のエネルギーは引き合うという考え方です。魔法陣の図形や記号が特定の魔力と共鳴するのはこのためです。術者の意図が明確であればあるほど、共鳴の精度が上がる」


「……詠唱も同じですか」


「……そうです。詠唱は意図を言葉で構造化することで、共鳴を安定させる補助をしています」


葵はノートに書き込んだ。リースの言葉が、別の角度から見えた気がした。


「……均衡の原則は」とオリビアは続けた。「与えずに得ることはできないという考え方です。魔法を使えば必ず魔力を消費する。強い魔法ほど消費が大きい。これは原則であって、例外はありません」


「……詠唱なしで魔法を使うと消費が増えますか」


オリビアが少し止まった。


「……増えます。構造化の補助がない分、術者が自分の内側だけで意図を完結させなければならないので」


葵は少し間を置いた。「……なるほど」


「……葵くんは詠唱なしで魔法を使えると聞いています」


「……はい」


「……消費が激しいと感じることはありますか」


葵は少し考えた。「……あまり感じないです」


オリビアがまた少し止まった。それ以上は聞かなかった。ペンを持って、予想問題をノートに書き始めた。


「……明日までに解いてきてもらえますか」


「はい」


「……おやすみなさい、葵くん」


「おやすみなさい、先生」


壁の穴をくぐって自分の部屋に戻った。机の上に予想問題を置いた。


ライラが胸元でかすかに揺れた。


「……消費が激しいと感じないのは、おかしいの?」と葵は言った。


ライラは少し間を置いた。「……さあ」


試験まで、あと二週間を切っていた。目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ