表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/111

第61話 茜の力

一層から先、茜は慣れるのが早かった。


グレムリン、ダイモーン——廊下に現れる神魔たちに、最初は少し身構えながらも、一体倒すたびに動きが落ち着いていった。天使を使わずとも、光魔法で丁寧に仕留めていく。戦い方は堅実だった。華やかさはないが、隙もない。


七層を過ぎた頃だった。


「……なんだか」と茜が言った。


「何?」


「力が、あふれてる気がする」


体の中から何かが満ちてくるような感覚——そういう顔をしていた。


「レベルアップだと思う」


「レベルアップ?」


「先輩に教わったんだ。

神魔と戦うと、魔力の一部が吸収されて強くなることがある、って」


茜はしばらく自分の手のひらを見ていた。指を一度、ゆっくりと握りしめた。


「……そういうことね」


顔を上げた。目の色が少し変わっていた。


「じゃあ、もっと倒さないと」


「うん」


茜が先に歩き始めた。


ーーーーーーーーーーーーーー


10層の入口に立ったとき、もう音がしていた。


カタカタ……カタカタ……。


足首に絡められた頭蓋骨の音。地面からゆっくりと浮かび上がるように、あの異形が姿を現した。


二つの上半身が背中合わせに融合した骸骨の舞踏者。左の髑髏は牙を剥き、右の髑髏は冷たく微笑んでいる。一本の細い脚が、重力を嘲笑うように軽やかに地面を踏んだ。眼窩の奥で、青白い炎がゆらりと灯った。


「……トゥルダク」と葵は言った。


茜はすでに前に出ていた。


胸の前で両手をぎゅっと握りしめた。淡い金色の光がゆっくりと滲み出し始める。


「——天使様、お願い」


光の粒子が一気に渦を巻いた。純白の翼が広がり、銀色の装甲をまとった天使が降臨した。冷たく澄んだ瞳が、トゥルダクをまっすぐに捉えた。


トゥルダクが骨剣を振り上げた。魔法陣が展開しようとした。


その前に、天使の杖が光を束ねた。


白い光の奔流が、トゥルダクを正面から飲み込んだ。骨剣が弾かれた。魔法陣が散った。よろめいたトゥルダクに、天使がもう一度杖を掲げた。


二度目の光がトゥルダクを包んだ。骨が、ばらばらに散らばった。眼窩の炎が、消えた。


天使がゆっくりと茜の体に戻っていった。茜は少し肩で息をしていたが、しっかりと立っていた。


「……茜、すごい」


葵は思わず言った。


茜がこちらを振り返った。それから、ゆっくりと笑った。


「……嬉しい」


少し間があった。


「……これで、葵を守れるね」


——守る、か。


茜の目はまっすぐだった。どこにも迷いがなかった。その真っ直ぐさが、葵にはうまく言葉にできない何かを残した。


廊下の先に、次の下り口が見えた。


ーーーーーーーーーーーーーー


11層に足を踏み入れると、空気が変わった。


前回と同じ、純白の大理石の廊下だった。天井から黄金色の光が降り注ぎ、聖なるオーブが静かに浮遊している。


「……神に反逆した悪魔のダンジョンよね、ここ」


「うん」


「神聖な感じがするわ」


「そういう層もあるって、先輩に教わった」


茜は少し廊下を見回してから、また歩き始めた。


しばらく進むと、前方に白い光が見えた。


石の台座に、天使が座っていた。純白の翼を優しく折り畳み、両手を膝の上に重ね、目を閉じている。表情は穏やかで、祈りを捧げているかのような静謐な光景だった。


茜が杖を構えた。光魔法の詠唱が始まった。


光が天使を包んだ。


しかし——天使は崩れなかった。


光が吸収されるように散った。天使がゆっくりと目を開けた。澄んだ瞳が、冷たい輝きに変わった。翼が音もなく広がり、光の剣が顕現した。


茜がもう一度光魔法を放った。


天使の翼が光を弾いた。今度は散りもしなかった。


「……効かない」


茜の声が低くなった。


「僕に任せて」


葵は前に出た。


視界の端で神魔解析録を確認した。エンジェル——光属性、闇に弱い。


天使が光剣を振りかぶった。葵は横に跳んだ。刃が空を切る。踏み込んで距離を詰めた。


暗い光を手のひらに集めた。


詠唱しなかった。暗い光が、天使の胴体を貫いた。


天使は一瞬静止した。それから、光の粒子に散った。


静かになった。


「……葵」


振り返ると、茜が葵を見ていた。


「……闇魔法も、使えるの?」


「うん。最近気づいた」


「……すごい」


少し間があった。


「……本当に、葵って……」


最後まで言わなかった。


葵は視界の端の神魔解析録を閉じながら、ふと思った。


——蒼玲先輩が僕を誘ったのは、複数の神魔と契約出来ることによる、こういう対応力のためだったのかもしれない。


「この層は僕が前に出る」


「……わかった」


「行こう」


二人は廊下の先へ歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ