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第58話 戦技

葵は剣術部の道場に向かった。


中間試験前、最後の部活だ。


部活に通い始めてしばらく経つ。最初は基礎トレーニングだけで精一杯だったが、今は一通りこなせるようになっていた。


素振り、足運び、体幹トレーニング。部員たちと並んで黙々とこなす時間が、葵には合っていた。


基礎トレーニングが終わった頃、白羽が道場の中央に来た。


「小春」


「はい」


「お前も基礎ができてきた」


白羽は少し間を置いた。


「1年生にはちょっと早いが——戦技を教えてやろう」


ーーーーーーーーーーーーーー


「戦技とは何か、から説明する」


白羽が言った。葵は白羽を見た。


「魔力を武器に宿し、術者の意志と刃を一体化させることで通常の斬撃を超えた一撃を放つ技術だ。魔法が魔力を外に放出するのに対し、戦技は魔力を武器の内側に収束させる。方向が逆だと思え」


葵は頷いた。


「言葉で説明しても伝わりにくい。見た方が早い」


白羽が部員に目配せした。しばらくして、部員三人が台車を押して道場の奥から戻ってきた。


台車の上に、金属の太い柱が横たわっていた。


大人が両手で抱えても届かないほどの太さだった。三人がかりでようやく運べる重さらしく、台車がきしんでいた。


白羽は木刀を手に取った。柱の前に立った。


静かになった。


白羽が木刀を構えた。


「——虎の爪に切り裂けぬものなし......」


低く、はっきりと言った。


「虎爪」


木刀が動いた。


柱が、ばらばらになった。


まるで虎の爪に引き裂かれたかのように。断面が複数に分かれて、床に崩れ落ちた。木刀で。


道場が静まり返った。


部員たちは黙っていた。


驚いているというより——あらためて見ても、やはりそうかという顔だった。


白羽がこの人だということを、全員が知っている。それでも、見るたびに言葉を失う。


白羽は断片を片手で掴み、台車に載せ始めた。重さを感じさせない動作だった。


葵は言葉が出なかった。


「……木刀で、ですか」


「そうだ」


白羽はさらりと言った。


「戦技はここまで極めれば武器の素材を超える。ただし——」


「ここまでとは言わない、ですか」


「そうだ」


白羽が葵を見た。


「お前にはまずロングソードを使ったスラッシュを教える。

魔力を刀身に乗せることで斬撃の威力を上げる。

戦技の中では最も基本的なものだ。魔法で言えば初級にあたる」


ーーーーーーーーーーーーーー


「構えろ」


葵はロングソードを構えた。


「魔力を刀身に流す。刃先まで均一に——根元から先端に向かって、押し出すように」


葵は意識を集中させた。魔力を手のひらから柄へ、柄から刀身へ。


「……均一にならないです」


「そうだろう。感覚で覚えるしかない」


白羽が葵の後ろに回った。


葵の手に、白羽の手が重なった。葵の背中に、白羽の体が密着した。


「力を抜け。刃に押しつけるのではなく——染み込ませるように」


白羽の動きに迷いはなかった。ただ——耳が、わずかに赤い気がした。


「もう一度。今度は刃先を意識しろ」


葵は意識を集中させた。根元から先端へ。押し出すのではなく、染み込ませる。


「……少し、感じました」


「続けろ」


何度か繰り返した。白羽が手を添えたまま、魔力の流れ方を丁寧に示した。


葵はその感覚を覚えようとした。押し出すのではなく、染み込ませる。均一に、刃先まで。


「やってみろ」


白羽が離れた。


部員の一人が試し斬り用の木材を静かに置いた。


葵はロングソードを構えた。


魔力を流した。根元から先端へ。染み込ませるように。


刀身が、わずかに光った。


「——スラッシュ」


振り下ろした。


木材が、綺麗に両断された。


道場が静かになった。


「……もうスラッシュが出来るのか」


部員の誰かが小さく言った。


白羽が葵を見た。少しだけ間があった。


「筋がいい」


それだけだった。余計な言葉はなかった。


部員たちがざわついた。


白羽がそう言うのを、葵は初めて聞いた。


こんなに早くその言葉が出るのは、珍しいことだと空気でわかった。


葵はロングソードを見た。


刀身はもう光っていなかった。でも——確かに、できた。


——この力を、どう使うか。


答えはまだ出ていなかった。でも一つ、前に進んだ気がした。


胸の奥で、ライラが温かく揺れた。

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