第54話 新担任
茜と花火を見た後、葵は廊下でモローを見かけた。
学園長室から出てきたところだった。
モローの顔から、いつもの柔らかい笑みが消えていた。
「……理不尽だよね」
葵に気づいたモローが、独り言のように言った。
「私はSクラスのみんなを信頼していただけで。あの塔だって、最終的には無事だったよね。
素材の組み合わせが少し悪かっただけで——それは、私の指導とは関係ない話で」
「先生が統率していれば、防げたと思いますが」
声がした。
ルシアンだった。廊下の壁に背をもたれて、腕を組んでいた。いつの間にか来ていた。表情はなかった。ただ、事実を述べるように言った。
モローがルシアンを見た。一瞬、言葉に詰まった。
「……まあ、色々な見方がありますよね」
それだけ言って、廊下を歩いていった。
葵はその場面を、少し離れたところから見ていた。
モローの背中が廊下の角に消えた。
——最後まで、他人事だった。
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モローが去った後、ルシアンが葵の前に来た。
腕を組んでいた。いつもと同じ立ち方だった。でも——何かが違った。
「小春」
名字だった。「仮クラス出身」ではなかった。
「今日のこと、お前に助けられた。それは認める」
目を逸らさなかった。葵の目を見たまま言った。
葵は何も言えなかった。
ルシアンはそれ以上何も言わずに去っていった。
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翌朝、Sクラスに告知が出た。
モローは担任を解任され、再研修を受けることになった。
教室に静かな空気が漂った。怒りとも安堵ともつかない、複雑な沈黙だった。
誰も驚かなかった。
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その後、見慣れない人物がSクラスの教室に入ってきた。
ハルトマンだった。
教壇の前に立って、腕を組んだ。教室を見渡した。誰も口を開かなかった。ハルトマンが口を開く前に、空気が締まっていた。
「私がこのクラスの担任になった。ハルトマンだ」
短く言って、一呼吸置いた。
「一つだけ言っておく。あの男——モローのことは、最初から気に食わなかった。
学園長にも何度か進言した。クビにしろと。だが聞き入れられなかった。結果があれだ」
誰も何も言えなかった。
「私がここに来たのはお前たちを甘やかすためではない。
Sクラスだからと言ってぬるいやり方はしない。
昨日のことを教訓にしろ。個人が優秀でも、統率がなければ烏合の衆だ。それを肝に銘じろ」
ハルトマンは一度だけ教室全体を見渡した。
「以上だ」
それだけだった。自己紹介も、励ましも、なかった。
葵は背筋が自然と伸びていることに気づいた。
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廊下に出ようとしたところで、Sクラスの女子生徒が葵の前に来た。
昨日チアリーダーの衣装を押し付けてきた生徒だった。
「葵くん、昨日は……ごめんね」
声が小さかった。
「建築に参加させなかったのに、助けてもらって。本当にありがとう」
もう一人が続いた。
「チアリーダーまでやってもらったのに、情けなかったわ、私たち」
葵は首を振った。
「いえ、僕も……直感で動いただけなので」
「それでも」と最初の女子生徒が言った。「あのとき動いてくれたのは葵くんだけだった」
葵は何と返せばいいかわからなかった。ただ、小さく頷いた。
廊下に出ると、朝の光が差し込んでいた。
昨日までと、少し違う気がした。




