第2話 仮クラスの空気
仮クラスの最初の授業は、基礎魔法の座学だった。
担当は三十代ほどの女性教師。切り揃えられた黒髪が、静かな佇まいをさらに整って見せた。
切れ長の目が教室をゆっくりと見渡す。何かを見透かすような、静かな目だった。名前はアーデル・クライン。
「まず確認する。ここにいる全員が、何らかの魔法適性を持っていると判定された。だが適性があることと、使えることは別だ。これからの一ヶ月で、君たちには基礎を叩き込む」
淡々とした口調だったが、話の一つひとつに重みがあった。
「契約神魔を持っている者、アピールしたければ今言え。黙っていたいなら黙っていていい」
契約神魔、その名の通り神・悪魔・妖精・魔獣——異界の存在と契約を結んだ相手のことだ。
術者に力を貸し、魔法を強化する。人間が一生に契約できるのは、一体だけだ。
付け加えるなら——この学校には常に世界中の企業達のスカウトが目を光らせている。
現代において契約神魔の使い手は最大の戦力だ。核も爆撃機も、彼らの前では意味をなさない。だから企業は金を積んで、力ある者を囲い込もうとする。
アーデルはそれだけ言って、教室を見渡した。
手を挙げる者、手を挙げない者、迷ってから挙げる者——反応は様々だった。教室の半数ほどが手を挙げた。
葵も挙げた。企業へのアピールというより、単純に隠す理由がなかった。
一人ひとりが告げていく。炎の精霊、水の龍、風の妖精、土の魔獣——様々な存在の種族名が教室に満ちた。
葵の番が来た。
「妖精、ピクシーです」
胸元でライラが、ぴりっと揺れた。
——馬鹿にしてる。私のこと弱いって。
葵はそっと胸元に手を当てた。
——ごめんね。
光は、わかったというように、静かになった。
申告しない者——神魔と契約していない者も何人かいた。颯も茜も手を挙げなかった。
――――――――――――――――――
午後のオリエンテーションが終わり、葵が廊下を歩いていると、後ろから声がかかった。
「葵!」
振り返ると、颯が走ってきた。
「どうだった? 初日」
「静かだった」
「それだけ? 俺、昼休みに隣のやつと話してたんだけど、そいつ契約神魔が氷の精霊でさ。握手したら手がひんやりして、思わずびびった」
「そっちが挨拶したんでしょ」
「まあな。でもあれは予想外だって。話しかけてみて初めてわかることってあるよな」
二人で廊下を歩いていると、前方から茜が歩いてきた。
「遅い」
「少し話してた」
「別に責めてない」
茜はそう言って、葵の隣に並んだ。
三人で並んで歩く。丘の上の校舎から、島が一望できる廊下の窓を通り過ぎながら。
「茜」と葵は言った。「今日、どうだった?」
「普通」
「そっか」
茜は前を向いたまま、それだけ言った。でも葵には、茜がすでに何かを観察し終えているような気がした。
茜はいつもそうだ。何も言わないけれど、すでに見ている。
三人でモノレールに乗り、丘を下りた。
車窓から、アルカディアの街が夕暮れの橙に染まっていくのが見えた。




