第150話 禁じられた輝き4
夜が更けていた。
葵はリビングのテレビをつけていた。木曜の遅い時間だった。この時間に、ライラが見たがる番組がある。
「失われた魔法都市を探して」
ペトラの遺跡を、専門家が調べていく番組だった。今夜は、地面を少しずつ掘り返す場面が続いていた。土の中から、古い水路の跡が出てくる。ナレーションが、その構造について淡々と説明していた。層序がどうの、年代測定がどうの、と難しい言葉が並ぶ。
葵はそれを見ていた。
「ねえ、ライラ」
「なに」
「これ、録画じゃダメなの?」
「ダメ」
ライラはテレビの方を向いたまま言った。
「生で見ないと」
葵は少し考えた。
これ、生放送じゃないと思うけど。
そう思ったが、口には出さなかった。ライラには何かこだわりがあるようだった。何がそんなにいいのか、葵には分からない。それでも、ライラが見たいなら、それでよかった。
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番組は、静かに続いていった。
専門家が土器の破片を一つずつ並べる。刷毛で土を払う。カメラがその手元をずっと映している。派手なところは、何もなかった。
葵はソファに背をあずけて、それを見ていた。
なんで、ライラはこれが好きなんだろう。
葵は胸元のライラを見た。ライラは画面をじっと見つめている。時々、小さく頷いたりしていた。何が面白いのか、やっぱり分からなかった。
そして、なんでこの番組はこんなに面白くないんだろう。
葵はそんなことを考えた。
考えているうちに、まぶたが重くなってきた。ナレーションの声が、遠くなったり近くなったりする。水路の跡が、二千年前の技術が、と声が続いていた。葵の頭の中で、その言葉が少しずつほどけていった。
ライラはいつのまにか番組を見終えて、丸くなっていた。小さな寝息を立てている。
葵の目も閉じていった。テレビはついたままだった。
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どのくらいそうしていたか、分からなかった。
テレビから、音楽が流れていた。番組は、もう終わっていた。放送休止の待機画面が映っている。落ち着いた、静かな音楽だった。ライラは葵の膝の上で、眠っていた。
誰かの気配がした。
葵はうっすらと、目を開けた。
すぐ近くに、人が立っていた。輪郭がぼやけていた。待機画面の淡い光を受けて、その人が静かに光って見えた。
綺麗な人だ、と葵は思った。
「まだ、テレビを見ていたのか」
その人が言った。
「女神様、ですか」
葵は言った。声が半分眠っていた。
「……何を言っている」
「僕、眠たいです」
葵はまた目を閉じかけた。近くの人が女神に見えた。何か優しいものに包まれている気がした。
「私は、女神ではない」
「そんなに、お綺麗なのに」
葵はむにゃむにゃと言った。
「女神様じゃ、ないなら、何ですか」
返事は、なかった。
葵の体が、ふわりと持ち上がった。誰かの腕が、葵を抱えていた。暖かかった。葵はそこに頭をあずけた。
運ばれている、とどこかで思った。それもすぐに分からなくなった。
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葵はベッドにそっと下ろされた。
柔らかいものが、体にかかる。葵は寝返りを打った。
枕元に、気配があった。
低い声で、歌が聞こえてきた。子守唄だった。ゆっくりとした、静かな旋律だった。葵はその声を眠りの底で聞いていた。
暖かかった。
歌が続いていた。葵の意識が、その旋律に少しずつ溶けていった。
葵は深い眠りに落ちた。
歌がいつ終わったのか、葵は知らなかった。気配がいつ離れたのかも分からなかった。
葵は朝まで目を覚まさなかった。




