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第116話 怖くないのは

雷雲は、もう晴れていた。


橋の向こうに、別の浮島が見えていた。

神殿の柱が三本だけ残っている。柱の影が長く伸びて、影の先が、雲海に消えていた。


セレンが先に歩き始めた。


橋は、半分が崩れていた。

残っている石も、所々で薄く浮き上がっている。風が吹くたびに、石の縁が小さく揺れた。

踏めば、崩れるかもしれなかった。


セレンが慎重に進んだ。

体重を一歩ずつ、確かめてから次の足を出している。重心は中央。左腕は軽く曲げ、ガントレットのボーガンを、いつでも構えられる角度に保っていた。

それは、訓練で身につけた歩き方だった。


葵がその後に続いた。


葵はいつもの歩き方で渡った。

歩幅も、いつもと同じ。一度も足元を見なかった。石の縁の揺れに、合わせて足を直すこともしなかった。

ただ、向こうまで歩いていた。


茜が最後に渡った。


茜は、少し腰が引けていた。

一歩ごとに、足元を確かめている。手は、戦闘服の胸元を握っていた。


「葵」


茜が葵を呼んだ。


葵が振り返った。


「ちょっと、怖いの」


茜が小さく言った。


葵は茜に手を差し出した。

茜がその手を取った。指が、冷たかった。

茜の指は、いつも少しだけ冷たい。


「ゆっくりでいいよ」


葵が言った。


茜が頷いた。

葵の手を握ったまま、茜が一歩ずつ橋を渡った。

渡り終えた時、茜は葵の手をすぐには離さなかった。

葵も、離さなかった。


「ありがとう」


茜が言った。


「うん」


葵は頷いた。


セレンが振り返って二人を見ていた。

何も言わなかった。

セレンの視線は、繋がれた手ではなく、葵の足元の方を見ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


六十六層に降りた。


風が、向きを変えていた。

さっきまでは下から吹き上げていたのに、今は横から来る。神殿の残骸の隙間を縫って、低く長い音が鳴った。


セレンが足を止めた。

人差し指を、空に向ける。


葵は視線を上げた。


頭上に、三つの影があった。

雷の毛皮を持つ獅子の体が、空中を駆けていた。その後ろに、空気の歪み。

シルフが、ライジュウを風で運んでいる。


(ライジュウ)

(シルフ)


「シルフ、ライジュウ、加速」


セレンが短く言った。


葵は黒翼杖を弓に変えた。

ライジュウが、シルフの押し風に乗って、一気に降ってきた。


茜の背後で、ドミニオンの聖なる杖が空を薙いだ。

光の波が、シルフの輪郭を炙り出す。

セレンが左腕を上げた。ガントレットの矢が、シルフを射抜いた。


その瞬間、ライジュウの速度が落ちた。

押し風が、消えていた。


葵は弓を引いた。

矢が、ライジュウの首を貫いた。

ライジュウが、地面に落ちた。雷の毛皮が、ゆっくりと消えていった。


残りの二体も、同じだった。


静寂が、戻った。


葵は手のひらを見た。

それだけだった。


地面に、青白く光る毛が二房、落ちていた。葵は拾った。

シルフは、ドロップを残さなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


六十七層に降りた。


風が、湿っていた。

霧が薄く、神殿の柱に絡んでいる。視界の効きが悪い。

十メートル先が、もう滲んでいた。


セレンが左手を真上に上げた。

止まれ。


霧の中に、影があった。

人の形。背中に翼。手に刀。

影が、二つに重なっている。


(天狗)


「幻術」


セレンが言った。


「上、もう一体」


セレンが続けた。

霧の上に、空気の渦が見えた。


(シルフ)


葵は弓を引いた。

矢が、シルフの渦を貫いた。

渦が、消えた。


その瞬間、天狗が動いた。

影が、二つに割れる。

姿が、消える。


「右」


セレンの声がした。


葵は右に弓を向けた。

矢を放った。天狗が、右の柱の上に出現した時、矢はすでに脇腹に届いていた。

天狗が身を捻った。姿が、また消える。


「左、近い」


セレンが叫んだ。


葵は左を見た。


天狗が、葵の左、二歩の距離に出現した。

刀が、すでに振り下ろされていた。


その距離では、弓は引けなかった。

矢をつがえる時間がなかった。


葵の足が、半歩、前に出かけた。

踏み込めば、刀の軌道の内側に入れる。

それは、見えていた。


セレンが葵の腕を、強く掴んだ。


葵の体が止まった。


セレンが左腕を上げた。

ガントレットの矢が、葵の頭の横を通過した。

矢が、天狗の喉を貫いた。


天狗が、地面に倒れた。

体が、光の粒子になって散った。


静かになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


葵は自分の腕を見た。


セレンの指が、葵の腕を、まだ掴んでいた。

力が、抜けていなかった。


「葵」


セレンが言った。


「うん」


「踏み込もうとした」


「うん」


「先に、何があるか、見えてなかった」


「うん」


葵は頷いた。

セレンの言う通りだった。


セレンが葵の腕を、ゆっくり離した。

それから、葵の前に立った。


葵の顔の高さは、セレンより低い。

セレンが少し屈んだ。

目の高さが、揃った。


「葵」


「うん?」


「あなた、自分の危険に、気を付けてない気がする」


葵は、セレンの言葉を、頭の中で繰り返した。


——自分の危険に、気を付けてない。


「気を付けてるよ」


葵が答えた。


セレンが首を振った。


「違う」


セレンの声が、低かった。


「気を付けるのと、平気なのは、違う」


葵は黙った。


「葵は、平気で、動く」


セレンが続けた。


「怖くないのは、強いのと、違う」


葵はセレンを見た。

セレンの目が、葵を見ていた。

何かを、確かめる目だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


葵は、何と返したらいいか、分からなかった。


怖い、と思ったことはなかった。

怖くない、と思ったこともなかった。

ただ、目の前のことを片付けてきた。それだけだった。


茜が葵の隣に立った。


茜は、何も言わなかった。

ただ、葵の戦闘服の裾を、ぎゅっと掴んでいた。


葵は、ライラを胸元から出した。


ライラが葵の手のひらに乗った。

何も、言わなかった。

普段なら、こういう時に何か言うはずだった。

だが、今日のライラは、葵の手のひらの上で、黙っていた。


「気を付けるよ」


葵が言った。


セレンが葵を見ていた。

それから、息を一つ吐いた。


「……お願い」


セレンが言った。

セレンの視線が、葵から逸れた。


茜の指が、葵の手を、強く握った。

さっき橋の上で繋いだ手を、まだ握ったままだった。


「葵」


茜が言った。


「ケガ、しないで」


「うん」


葵は頷いた。

茜の指が、葵の手の中で、震えていた。

冷たい指が、いつもより少しだけ、強く絡んでいた。


地面に、小さな黒い扇が一つ落ちていた。

葵はそれを拾って、マジックバッグに入れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


六十八層に降りた。


風が、変わっていた。

螺旋に巻く風ではなかった。

四方から、別々の方向に吹いていた。


ぶつかった風が、空中で渦を作っていた。

渦の中心では、空気が透明にねじれている。

息を吸うと、肺の奥が冷えた。


セレンが足を止めた。


「これ」


セレンが言った。


「上の階層の、せい」


葵は頷いた。

六十九層に、何かいる。

風そのものを、操る何か。


頭上で、強い羽ばたきの音がした。


葵は顔を上げた。


鷲の頭と、獅子の体。

グリフィンが二体、空中を旋回していた。

だが、いつもと違った。

体の周りに、薄い風の膜が纏わりついている。シルフが、グリフィンを加速させていた。


(グリフィン)

(シルフ)


葵は視界の隅に、契約陣のリストを呼び出した。

端末の表示が、視界の右下に展開する。


(ゴーレム) 再召喚不可


文字は、まだそのままだった。


葵は、別の契約陣を選んだ。


ズメイ。


スラヴの竜。

昨晩、ライラと選んだ契約陣の一つ。

飛べる。


葵が契約陣を選択した。

青い光が、葵の前で渦を巻く。

光の中から、長い体が伸びてきた。


赤みがかった鱗が、灰青色の空の下で、深く色を返した。

一対の翼が、大きく広がる。

首が、三本あった。

それぞれの頭が、別々の方向を見ていた。


ズメイが葵の前に降り立った。

それから、翼を広げて、空に上がった。


グリフィンがズメイに気付いた。

二体が、旋回の軌道をズメイに向ける。


「ズメイ、シルフから」


葵が言った。


ズメイの三つの頭が、別々に動いた。

右の頭が、グリフィン一体の周りの空気の渦を見た。

左の頭が、もう一体のグリフィンの周りの渦を見た。

中央の頭が、葵の方を一度だけ振り向いた。


頷いた、ように見えた。


ズメイの三つの口から、同時に炎が漏れた。

赤い火の筋が、三方向に伸びる。

右と左の炎が、それぞれのグリフィンの周りの空気の渦を、空中で炙った。


シルフが、二体とも、空気の中で霧になった。

グリフィンの周りの風の膜が、消えた。


グリフィンの速度が、落ちた。


その瞬間、葵の矢と、セレンの矢が、同時に放たれた。

二本の矢が、二体のグリフィンの胸を、それぞれ貫いた。

グリフィンが、雲海に落ちていった。


ズメイが、空中でゆっくり旋回した。

それから、葵の前に降りた。

三つの頭が、それぞれ別の方向を、まだ見ていた。


葵はズメイの中央の首に、手を当てた。

鱗が、熱かった。さっきの炎の名残が、残っているらしかった。


「ありがとう。戻って」


葵が短く言った。


ズメイの三つの頭が、ほぼ同時に下がった。

青い光が、ズメイを包んだ。

姿が、消えた。


雲海に落ちたグリフィンの羽根が、一枚だけ、風に乗って戻ってきた。

葵はそれを掴んだ。

マジックバッグに入れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の橋が、目の前にあった。


橋は、半分以上が崩れていた。

残っている部分も、風が当たるたびに、石の縁が大きく揺れている。

渡る間に、崩れるかもしれなかった。


風が、また向きを変えていた。

神殿の柱の隙間で、低く長い音が、鳴っていた。

咆哮のような音。

それが、四方から、同時に聞こえていた。


セレンが葵を見た。


「葵」


「うん」


「今度は、ちゃんと、足元を見て」


「うん」


茜が葵の手を、また握った。


葵は頷いた。

茜の手を握ったまま、橋に足を踏み出した。


今度は、足元を見ながら、歩いた。

セレンに、言われた通りにした。

茜の手が、葵の手の中で、温まり始めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


六十九層に降りた。


風が、止んでいた。


完全な、無音だった。

さっきまで四方から咆哮していた風が、嘘のように消えている。

神殿の柱が、まっすぐに残っていた。

柱の影が、地面に深く落ちていた。

風がないので、影が動かない。


葵は立ち止まった。

セレンも、止まった。

茜の指が、葵の手の中で、強く握り直された。


「来る」


セレンが言った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


最初に、北の空気が冷えた。


葵の頬に、霜が触れた。

息を吐いた瞬間、息が白く凍った。

凍った息が、空中で止まっている。風がないので、流れない。


北の方向に、一つの影が立っていた。

人の形をしていた。だが、輪郭が氷で出来ていた。透けた青い体。長い髪が、止まった空気の中で、ゆっくり浮いていた。


次に、南の空気が、燃えた。


葵の頬を、熱風が舐めた。

肺の奥が、毒で痺れた。


南の方向に、もう一つの影が立っていた。

赤い体。背中から、熱の歪みが立ち上っている。口の周りに、緑色の毒の靄が漂っていた。


東の空気が、砂で満ちた。


視界の半分が、茶色に塗りつぶされた。

柱の影が、見えなくなる。

セレンの姿も、半分が霞んだ。


砂の中に、もう一つの影が立っていた。

輪郭は分からない。砂そのものが、形を持って動いていた。


西の空気が、刃を生んだ。


何かが、空気を斬る音。

ヒュッ、と短い音が連続して鳴った。葵の頬の横を、何かが通り過ぎた。

透明な刃が、空中で連続して放たれていた。


西の方向に、最後の影が立っていた。

細身の体。両手の指の先から、空気の刃が、次々と生まれていた。


(アネモイ)


視界の隅に、文字が走った。

四つ、同時に表示されていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


四方位の風神。

四体、揃った。


葵は息を吐いた。

息が、白く凍ったまま、空中に残った。


「葵」


ライラが、胸元から声を出した。

さっきまで黙っていたライラが、初めて口を開いた。


「四体、まとめて来る」


「うん」


葵は頷いた。

ライラの声が、いつもの戦闘中の声だった。短く、冷静で、迷いがない。


葵は視界の隅に、契約陣のリストを呼び出した。


バクを、選んだ。


青い光が、葵の肩で渦を巻いた。

小さな獣が、光の中から現れた。

バクが葵の肩に乗った。


葵はバクの鼻先に触れた。


「お願い」


葵が短く言った。


バクが目を細めた。

それから、葵の周りに、薄い冷気を吐いた。

冷気が、葵の戦闘服を撫でて、茜とセレンの方に広がっていく。

茜の頬に、薄く霜が降りた。

セレンの左腕のガントレットが、冷気で、表面の温度を落とした。


冷気が、皆に行き渡った。


南のアネモイ——ノトスの熱風が、葵たちに届く前に、空中で凍り始めた。

熱が、押し返された。


葵は、視界を四方に走らせた。

四つの影が、まだ動いていない。

最初の咆哮を、葵たちが受け止めたところだった。


「茜」


葵が言った。


「うん」


「北の、氷の。ドミニオンで動きを暴いて」


「うん」


茜が頷いた。


「セレン」


「うん」


「東の、砂の。位置、見える?」


「……分かる」


セレンが頷いた。


「西の、刃の。僕がやる」


葵が言った。


セレンが葵を見た。

何かを言いかけて、止めた。


「南は、バクが押さえてる」


葵が続けた。


「行こう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


茜が、両手を胸の前で合わせた。


「天使様、よろしく」


茜の背後で、ドミニオンが顕現した。

銀の装甲が、止まった空気の中で、光を返した。


ドミニオンが、聖なる杖を、北に向けて掲げた。

温かな威光が、光のヴェールのように溢れる。

光が、北のアネモイ——ボレアスに、届いた。


ボレアスの透けた青い体が、光の中で、輪郭をはっきりさせた。

凍り付いた長い髪が、影を地面に落とした。

ボレアスが超高速で動こうとした、その瞬間、光に貫かれた。

動きが、止まった。


茜の指先が、震えていた。


ボレアスが、地面に膝をついた。

氷の体が、ヒビ割れていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


セレンが左腕を上げた。

ガントレットのボーガンが、東に向いた。


砂嵐の中で、セレンは目を細めていた。

視界は、ほとんど効いていない。

だが、セレンの左腕は、迷いなく一点を狙っていた。


「気配が、動いてる」


セレンが言った。


「砂の、中心」


セレンが矢を放った。


矢が、砂嵐の中を真っ直ぐ飛んだ。

風がないので、矢は逸れなかった。


砂の中で、何かが、音を立てた。

砂の渦が、急に、ほどけ始める。

砂嵐の中心に、エウロスの輪郭が現れた。

矢が、エウロスの胸を、貫いていた。


砂が、地面に落ちていく。

視界が、戻った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


葵は弓を引いた。

西の、ゼピュロスに向ける。


ゼピュロスは、空気の刃を、絶え間なく放っていた。

細身の体が、両手を交互に振っている。

振るたびに、刃が生まれた。

刃は、見えない。だが、空気を斬る音で、軌道が分かった。


葵は音を聞いた。

ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ。

三本連続。それから、半拍遅れて、また三本。


刃の合間に、隙があった。


葵はその隙を待った。

ゼピュロスが、三本目の刃を放った直後、葵が矢を放った。


矢が、ゼピュロスの胸に、届いた。


ゼピュロスが、両腕を下ろした。

刃の音が、止まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


南のノトスは、まだ立っていた。


バクの冷気が、ノトスの熱風を押し返し続けていた。

だが、ノトスは、毒の靄を、止めていなかった。

緑色の靄が、地面を這って、葵たちの足元に向かっていた。


「葵」


ライラが言った。


「うん」


葵は弓を、南に向け直した。


ノトスの口の周りに、矢を放った。

矢が、毒の靄を、貫いた。

靄が、矢の通った道筋に沿って、消えていく。


ノトスが、息を吐こうとした。

吐く前に、葵が二本目の矢を放った。

矢が、ノトスの喉を貫いた。


ノトスが、地面に倒れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


四体のアネモイが、ほぼ同時に、光の粒子になって散った。


無音だった空気に、初めて、風が戻った。

さっきまでの嵐ではなく、ただの、弱い風だった。

神殿の柱の影が、ゆっくり揺れた。


葵は息を吐いた。

白く凍っていた息が、今度は、普通の白さで散った。


地面に、四つのドロップが落ちていた。

氷の欠片、熱の結晶、砂の瓶、空気の刃の残り——

葵は、一つずつ拾った。

マジックバッグに、収めていく。


バクが、葵の肩で、目を閉じた。


葵はバクの背中に、手を当てた。


「ありがとう。戻って」


葵が言った。


バクが頭を一度下げた。

青い光が、バクを包んだ。

姿が、消えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


茜が葵の隣に立った。


「終わった?」


「うん」


葵は頷いた。


茜が葵の手を、また握った。

今度は、葵の手の方が、冷たかった。バクの冷気が、まだ残っていた。

茜の指の温かさが、葵の手のひらに、ゆっくり伝わった。


セレンが振り返って葵を見ていた。


「葵」


「うん?」


「指揮、上手かった」


セレンが、短く言った。


葵は、何と返したらいいか、分からなかった。


「うん。ありがとう、セレン」


葵は、ただ頷いた。


セレンの視線が、葵から逸れた。

それから、また、葵に戻った。

何かを言いかけて、止めた。


セレンは、それ以上、何も言わなかった。


次の浮島が、見えていた。

神殿の柱が、最後に一本だけ残っている。

その奥に、空気が重く澱んでいた。


七十層。


何かが、立っていた。

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