第105話 ダンジョン部結成
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廊下に出たところで、端末が震えた。
颯からだった。
「今日のスタディホール、俺のところに来てくれ」
すぐに続きが来た。
「お前エリックと同じクラスだよな。
エリックも呼んできてくれ」
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3限は魔法実戦演習だった。
ハルトマンの号令で生徒たちがペアを組み始めた。エリックが葵の方に来た。
「組むか」
「うん」
最初から、エリックは詠唱を始めた。
低い声で言葉を紡ぎ、右手に黒い靄が集まっていく。
中級闇魔法だ。葵は中級シールドを展開した。
透明な光の膜が空気に張り付く。
黒い塊が来た。
シールドが受け止めた。衝撃が腕に伝わる。防いだ——
だが、ひびが走った。
甲高い音がして、シールドの表面に黒い亀裂が広がって破砕した。
詠唱の陰に隠れていた左手から、無詠唱の初級闇魔法が同時に2発放たれていた。
無詠唱の2発目が来た。
葵はすでに動いていた。こちらも無詠唱で中級防壁を展開する。2発目が叩きつけられ、防壁が揺れた。だが防ぎきった。
「……なるほど」
エリックが言った。感心しているのか、面白がっているのか、判断がつかない声だった。
攻防が続いた。エリックは速く、詠唱と無詠唱を混ぜてくる。どちらが囮でどちらが本命か、判断する時間がない。葵は感覚で動いた。汗が額に滲んだ。
その間も、視線を感じていた。
横目で見ると、ルシアンと蒼嵐が組んでいた。
ルシアンの光の一撃は空気を重く歪め、蒼嵐の風刃は音もなく斬り裂く。
二人の動きは明らかに一年生の域を超えていた。
だが、ルシアンの視線だけは、こちらに向いていた。
——なぜ睨んでいるんだろう。
敵意ではない気がした。でも友好的でもない。
値踏みするような、試すような目だった。葵には思い当たることがなかった。
「ルシアンがなぜかこちらを睨んでいるんですけど」
「ああ」
エリックが次の魔法を放ちながら、短く答えた。
「多分、私のせいだ」
「なぜですか?」
「ルシアンと私は幼なじみだ。ずっと一緒にいた」
葵はエリックの魔法を横に流した。
「そんな、じゃあルシアンと組んだ方が」
「お前の魔法の実技は1位だろ」
エリックが一歩踏み込んできた。距離が詰まる。黒い靄が指先に集まる。
「私がお前と組まない理由がない」
本気が混じり始め、一撃の重さが変わった。
葵は足を踏ん張った。
しばらく無言で続いた。
「あと」
エリックが息を整えながら言った。
「もう知り合ってずいぶん経った......
俺たちは友人だろ。いい加減、敬語をやめろ」
葵はエリックを見た。
「……うん、ありがとう、エリック」
「それでいい」
エリックが笑った。今まで見たことがない笑い方だった。
ルシアンの視線がまだこちらに向いていた。
葵は一度だけルシアンを見た。
ルシアンは視線を逸らさなかった。
この人は、エリックのことが心配なんだろうか。
そういう気がした。
「そういえば、エリック、スタディホールの時間空いてる?
颯が来てほしいって。
多分ダンジョン部のことだと思うんだけど。
......来たくないなら別に大丈夫だよ」
「いや、俺も行く」
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颯に指定された教室に着くと、男子メンバーが全員いた。それからセレンと茜も、当然のような顔をして座っていた。
颯が葵とエリックを見て手を上げた。
「来た来た。よし、全員揃ったな」
颯が前に立った。少し背筋を伸ばした。
「みんな知ってると思うけど、フレデフォートクレーターにパンデモニウム・ラビリンスっていうダンジョンがある。
理論上666層まであって、最深部にルシファーがいる」
誰かがへえ、と言った。
「俺たちアカデミア・アルカナのダンジョン部は、そこを目指す。
学生記録は260層だ。俺たちはそれを超えて
——最終的にルシファーを倒すぞ!」
颯が拳を上げた。
リオだけが目を輝かせた。
普段は口数が少ないが、この瞬間だけは全身で応えていた。
しかし、他の男子の反応は薄かった。
「大会で優勝する!みたいなノリで言ってるけど、
ルシファーって悪魔の王だろ」
陽気なイタリア系のマルコが言った。
「そう」
「俺、150層で十分なんだけど」
「……まあ、そういう選択肢の人も居るよな」
颯は多様性を尊重した。
「ちなみに俺が声かけたのは男子だけなんだが......」
颯はセレンと茜を見た。
「セレンはなんで来たんだ?」
「ダンジョンに潜るなら私も行く」
「茜は」
「葵が居るなら私も居るわ」
颯が葵を見た。葵は何も言わなかった。
「……まあ、いいか」気を取り直した。
「チームを決めよう。葵は——」
「葵チームは私と葵ね」
茜が言った。
「私も入れて」
セレンが言った。
茜がセレンを睨み付けた。
セレンも茜を見て、二人の視線が交わった。
「茜、いじわるしないでセレンも入れてあげて」
茜が葵を見た。少し、寂しそうだった。
だが、すぐ後に口の端が、わずかに上がった。 分かってくれたようだ。
「分かったわ、セレン……私と葵のコンビネーションの邪魔をしないでね」
「じゃあ葵チームは葵・茜・セレンで」と颯が言った。
「……ちなみに、この中にルシファーを倒したいってやつはいるか?」
リオとエリックが手を挙げた。
「じゃあ俺のチームはリオとエリックだな」
合理的な判断を好むダニエルが口を開いた。
「そもそもダンジョンに行けるのって2年生からだろ。
51層から急に難易度が上がるらしいし、ひとまず50層を目標にしたい」
こだわりが強いジャックが頷いた。
「最終的に150層まで行ければ、就職にも有利になる。現実的に考えると3年で150層を目標にするのがいいな」
颯とリオとエリック以外の男子は頷いた。
大らかな体格のタヴィタが笑いながら、他の男子が言いにくかったことを言った。
「颯、ぶっちゃけていいか?
俺、金が欲しいんだけど。まあ小遣い程度になればいいんだが」
「金か、確かに装備を整えたりするのにも必要だな……どうするか……」
「颯、僕が先輩に言えば換金してくれるかも」
全員がこちらを見た。
颯が顔を輝かせた。
「おお、葵が換金してくれるなら安心だな。
よし、みんな! ダンジョンで素材を拾ったら葵に持っていくことにしよう」
男子の面々が、少しやる気になった顔をした。
颯が改めて全員を見渡した。
「じゃあ決まりだな。ダンジョン部、結成!」
リオだけが、もう一度目を輝かせた。




