第104話 契約神魔
1限は数学・物理だった。
魔法の現象を物理で捉える授業だ。今日は光属性魔法の放射エネルギーを電磁波のモデルで解析していた。
黒板に数式が並ぶ。葵はノートに書き写しながら、頭の片隅でアリアのことを考えていた。
今頃、鍛冶部で作業しているのだろうか。
——最強の武器、どんな武器になるんだろう。
数式の続きを写した。
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2限の大ホールに行くと、茜とセレンがいた。
茜に手招きされ、いつものように2人に挟まれて座った。
「ねえ、今日はダンジョン行く?」
「実は今日は武器を作っていて……明日以降なら行けるかも」
「武器が出来たら一緒に行こうね」
「うん」
セレンが葵の方を向いた。
「ダンジョン行ってるの?フレデフォートの」
「セレン、知ってるの?」
「うん、潜ったことがある」
「へえ、すごいね」
「ねえ、私も着いていっていい?」
茜が口を開いた。
「セレン、残念だけど私たちはもう50層まで行ってるの。あなたは着いてこれないわ」
「え?まだ50層なの?」
茜の表情が動いた。馬鹿にされたと思ったのか、言い返そうとして——セレンの顔を見た。
真顔だった。
茜の口が、少し開いたまま止まった。
「私たちならすぐに1000層にだって行って見せるわ!」
セレンが茜を見た。何も言わなかった。
ライラが葵の胸元で震えた。葵はライラに触れた。ライラも何も言わなかった。
「セレン、何層まで行ったことあるの?」
セレンは一度だけ窓の外に視線を向けた。それから葵を見た。
「……内緒」
口の端が、少し上がった。
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2限の契約説法が始まった。
アーデルが教壇に立った。いつもと変わらない、静かな立ち方だった。
「今日は契約神魔について改めて話す」
教室が少し静かになった。
「優秀な成績を修めた者には、そろそろ学園契約の話が来る頃だ。契約神魔とは何か。今一度、整理しておく」
アーデルが黒板に書いた。
契約神魔。
「契約神魔とは、単なる召喚や使役ではない。
人間の魂と神魔——神性と魔性を併せ持つ超越的存在——の本質が直接融合・共鳴する、究極の魂契約だ」
葵はノートに書き留めた。
「式神のように縛るのでも、使役するのでもない。
魂の核そのものに神魔のエッセンスが刻印され、互いの存在が不可分になる」
「だからこそ、一生に一体しか結べない。
二つ目を結ぼうとすれば——魂が分裂する。
自我の崩壊、最悪の場合は消滅だ」
誰かが息を呑む気配がした。
「神魔側にも独占性がある。一度刻印された魂に他の神魔が干渉しようとすれば、力が衝突して契約者の魂が粉砕される。
これは理論ではなく、過去に実例がある」
アーデルが一度だけ教室を見渡した。
「この契約は現世だけでなく魂の輪廻にまで影響する。だからこそ慎重に——」
セレンが手を上げた。
葵は思わずセレンを見た。
(——セレンが?)
セレンが授業中に手を上げるのを、葵は見たことがなかった。
「先生」
「なんだ」
「葵は複数の神魔と契約できるようだけど」
隣の席で誰かが葵の方に視線を向けた。前の席の生徒が振り返った。
アーデルが短く答えた。
「ああ」
「残念ながらはっきりとは分からない。
ただ——今の時代に一人、過去にはもう一人、複数の神魔と契約できた者がいる記録がある。例外中の例外だ」
アーデルが黒板に視線を戻した。
「テストにも出ない。覚えておかなくていい」
それで終わりだった。授業が続いた。
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授業が終わった。生徒たちが教室を出ていく。
葵はノートを閉じて、立ち上がった。アーデルがまだ教壇にいるうちに、前に向かった。
「先生」
アーデルが顔を上げた。
「なんだ」
「なぜ僕は複数の神魔と契約できるんでしょうか」
アーデルが少し黙った。視線が葵から外れた。黒板の方を見た。それから戻った。
「……お前の魔力容量は、測定不能だった」
「測定不能」
「ああ。それを考えると——複数の神魔と契約しても魂の形が変わらない。
もしくは神魔との契約で起こる魂への変化が、無視できるほど大きいのではないだろうか」
葵はその言葉を聞いていた。
「いずれにせよ」
アーデルが教材を手に取った。
「確かめる術はないがな」
「ありがとうございます」
葵は頭を下げて、教室を出た。
廊下に出たところで、端末が震えた。
颯からだった。
「今日のスタディホール、俺のところに来てくれ」




