第103話 最強の武器
寝る準備をしていると、端末が震えた。
アリアからだった。
「明日の朝、黒い羽と今持ってる武器を全部持って、鍛冶部に来て」
葵は「わかりました」とだけ返した。
「ライラ、なんだろう」
「さあ」
ライラは膝を抱えたまま、興味なさそうに答えた。
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翌朝、鍛冶部の扉を開けると、アリアがいた。
黒いタンクトップとジーンズ。腕を組んで立っている。
タンクトップの裾が短く、へそのあたりまで露わになっていた。
腕を組んだ拍子に、脇が覗く。
腹筋が、縦に割れているのが見えた。
「遅い」
「すみません、急いで来たのですが」
「遅い」
繰り返した。葵は何も言わなかった。
「武器と羽、見せて」
葵はカバンから順番に取り出した。クラウ・ソラス・レプリカ。イレムから貰った光の杖。アリアの試作拳銃。ルシファーの黒い羽根。テーブルの上に並べていく。
アリアが黒い羽根を見て、止まった。
「……これがあの羽根」
「先輩、なんでこの羽のことを知っていたんですか?」
「イレムからホームカミングの動画が来た」
「ホームカミングのですか」
「イレムはあなたのチアリーダー姿に注目していたみたいだけど」
葵は少し黙った。
「注目すべきはあなたの手に握られた黒い羽根だった。
あの羽根は塔の魔力を支配していたように見えた。
力が本物なら、私が求めていた素材だと思った。」
アリアがすごい勢いでこちらに来た。
「膝の上に座って」
「え」
「座って」
拒否を許さない声だった。葵は椅子に座ったアリアの膝の上に、おとなしく収まった。
アリアの手が動き始めた。
羽根を手に取り、天井の照明にかざした。
黒い粒子がゆっくりと舞い上がって、光の中に散っていく。
アリアの目が細くなった。
次にクラウ・ソラス・レプリカ。
刀身に指を這わせると、微かな魔力が指先に吸い付くような感触がするのか、アリアの動きが一瞬止まった。
試作拳銃を分解して、内部の回路を素早く目で追う。
それから葵の手首を掴んだ。
指の形を確かめるように、一本ずつ動かす。
手のひらを広げさせて、魔力の流れを確かめるように押す。背中に手が回った。
肩甲骨のあたりを両手でしっかりと押して——
「っ」
思わず声が出た。
「動かないで」
「は、はい」
アリアの手が脇腹に移動した。肋骨のあたりを指先で押す。葵は息を止めた。
葵は動かなかった。アリアも喋らなかった。
換気扇の音だけが低く響いている。
「あの、アリア先輩……」
「黙って」
「はい」
黙った。
アリアの手が止まった。
しばらく、静かだった。
「……イケる」
短く言った。どことなく、嬉しそうだった。
「これで最強の武器が作れる」
葵は膝の上に座ったまま振り返った。
「え、本当ですか」
「作っていい?
......万が一、失敗したらスターフォール・ウェポンズの名にかけて賠償する。」
真剣な目だった。
「最強の武器ですか」
「うん。前に寿司屋で話した、私の夢」
葵は少し考え、テーブルの上を見た。
どれも自分が買ったものじゃない。貰ったものだ。
「はい、もちろん大丈夫です。先輩の夢のためなんですよね。
全部貰い物なので何だか申し訳ない気もしますが、先輩のお役に立てるならどうぞ」
アリアが少し黙った。
葵を見た。それから微笑んで言った。
「ありがとう、葵」
静かな声だった。
「放課後にまた来て」
葵は膝から降りた。
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鍛冶部を出ると、鮮やかな翡翠色の小鳥が、青い残光を引いて飛んで来た。
葵の前でふわりと止まる。
「小春葵」
蒼玲先輩の口調だった。
「1週間後に私の誕生日があるわ。
参加しないという選択肢はないわよ。覚悟することね」
言い終わると、鳥は鍛冶部の扉の隙間に滑り込んでいった。
アリア先輩にも伝えに行ったのか、と思った。
「ライラ、最強の武器と蒼玲先輩のお誕生日だって」
「最強の武器のが大事」
「うーん、でも蒼玲先輩のお誕生日にも何かしたいよね。 お菓子とか?」
「その時は私に任せて」
「うん、ありがとう」
廊下の向こうで予鈴が鳴った。葵は走り出した。




