11 第一音、スネアドラムは鋭く響く 上谷護視点①
期末テストが終わり、学校はテスト休みに突入した。
護としては、嫌々というか仕方なく引き受けた『クラス執行委員』だが、やる限りはキッチリやってやる!と思っている。
半分、意地だ。
小狡いやり方で結木を、そして最終的に自分たちをハメた連中への怒りを燃料に(外からはそうとは覚られない涼しい顔で)、そつなくキッチリやり切るぞと、誰にも言ってはいないが彼は、自分の中で決めていた。
悪いな、俺は負けず嫌いやねん。
お前らの前で無様に失敗する気、ないで!
やるべき必要なことや必要な物を次々リストアップし、スケジュールへ落とし込む。
こういうのは受験勉強の計画を立てるノウハウに近いし、護の得意な部分だ。
護のこういう部分は執行委員長の結木の気性というかやり方と似ているし、ヤツとは気心も知れているので非常にスムーズに決まってゆく。
ただ、それだけでは計画がうまく実行されることはない。
自分一人のことならば、立てた計画を実行するのは自分だからうまくいってもいかなくても自分だけの問題だが。
集団にやらせるのは難しい。
「はーい、まず最初に、楽譜と歌詞のプリント配りまーす。次に、小道具とパフォーマンスの第一案、音楽室の使用日とそれ以外のスケジュールをまとめたプリントを配りますからねえ。合計三枚、配りまーす」
全校執行委員会の翌日。
視聴覚教室の優先使用権を思わぬ形でGET、という成果を、まずは結木が涼しい顔で淡々と報告。
続いて、今回の舞台監督兼指揮を担当する志木がHRの前に立って気合の薄そうな感じで言い、佐伯はプリントを配る。
結木は席に戻って議事録を取り、護はHR内を歩き、サンプルとして作った桜の造花のついた枝をクラスメートたちに見せる。
見せながら護は説明する。
「工作用の針金に茶色の紙テープ巻いて枝を作って、薄ピンクの薄い和紙で桜の花を作ってみました。花の中心をゴム止めする作り方のせいで八重桜っぽくなるけど、このゴムを枝に付ける時に利用できるんで、悪くないと思います」
興味深く見る者、関心なさそうな者、こんなの作るの面倒と顔に書いてある者、反応は様々だ。
「基本、自分が持つ枝は自分で作ってもらおうと考えてます。作り方のマニュアルは用意しますので……」
「質問」
手を上げる者がいた。
(げ、こいつかよ……)
内心、護は舌打ちする。
杉山耕史、前クラス執行委員長だ。
結木及び『変人四人組』をハメた主犯であろう、男。
杉山は表情のない顔で言う。
「桜の枝持って歌うことそのものは綺麗やと思いますけど。『さくら』って歌は本来、桜並木の下でさよならする、みたいなイメージの歌ですよね? でっかい桜の木と満開の桜の花、みたいなのを、まぁ大道具的なんを作るんは無理やとしても、舞台の背景に絵を描くとか、どうでしょうか?」
「お、いいですねえ」
志木は顔色ひとつ変えず、杉山に応える。
「ではそれも演出に加えましょか? 反対意見のある人は今、手を上げてください」
当然、誰も手を上げない。
手を上げ、反対をするだけの理由なんか思いつかないから。
「では背景は杉山くんにお願いします」
サラッと志木は言い、杉山は初めて顔色を変える。
「え? いや、ナンで俺が……」
「だって」
志木はにっこりと笑う。
意地の悪い、だけどちょっと蠱惑的な笑顔でもある。
「杉山くんには、背景の明確なイメージがある雰囲気やったし。そのイメージを生かしてもらいたいやん。私は舞台監督やけど、クラステーマ『バトンをつなごう』を桜の枝を使った演出に生かすイメージは結構しっかりあるけど、背景に関してはライティングの案くらいしかないねん。せやから、ここはしっかりイメージのある人にお願いしたいかなって」
杉山は言い返す言葉が思いつかないらしく、口をもごもごさせている。
「ということで、背景の桜の絵は杉山くんに基本、お願いするという感じで。反対意見のある人、もしくは自分には違う案がある、桜の絵は自分が描きたいなどなど、意見のある人は今、じゃんじゃん言ってください」
……意見など出る訳がない。
「では、背景は杉山くんにお願いしましょう。拍手!」
流れに押されるように、皆はパチパチ手を叩く。
「杉山くん」
ニコニコしながら志木は言う。
「一年生にキッチリ『洗礼』浴びせられるくらいすごいの、描いてな! 期待してますよ~」
杉山はむすっとしながらも、わかりましたと返事した。
サスガ志木、駆け引き上手と護は心の中でつぶやく。ちょっと溜飲が下がった。
ただ……。
(予算! 背景に使う、模造紙はまだしも。ポスターカラーとか、どんだけいるねん!)
桜の枝用の材料費の残りでは、絶対足りない!
無表情の下で護は、頭を抱えた。




