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クサのツカサ  作者: かわかみれい
2 最後のツカサ~高校生編Ⅰ
94/101

間奏曲 ~ 雪嶺③

 結論からいうのなら。

 省吾の『ツカサの神事』は成功した。


 省吾本人も守たちが迎えに行った時、前後不覚の状態で泉の縁に倒れていたが、呼吸が止まっていた訳ではない。

 静かすぎるのが少し気になるが、呼吸も脈もある。待機していたかかりつけ医も、眠っているだけだと診立てた。

 しかし丸一日経っても、彼は目を覚まさなかった。



 翌、早朝。

 セーラー服をきちんと着た雪枝が、神事の道具を手に泉へ向かうのを、銀子は見た。

 彼女は無謀にも『ツカサの神事』を行い……彼岸(あのよ)此岸(このよ)の狭間でぼんやり立ち尽くしていた省吾を、現つへ連れ戻した。


 その後、ふたりは夫婦になったのだが、元々身体が弱いうえ『ツカサの神事』を強行した省吾は寿命を縮めてしまったのかもしれない、三十代で亡くなってしまった。

 失意に沈む雪枝を支えたい一心で、銀子は『ヒトに近きクサ』となる。


 彼女と暮らし始め、数年経った頃。

 銀子は何かの機会に、あの時、一体どうやってオモトノミコトを説得し、省吾を連れ戻したのかと訊いた。

 雪枝は照れくさいらしくなかなか話してくれなかったが、何度か訊いてみると、観念したように話してくれた。


「おもとの守のツカサ・野崎省吾が目を覚まさない、どうしても彼を起こしたいって、オモトノミコトへ()うたんやけど。目を覚ますかどうかは本人が決めることだって、ミコトは取り()うてくれんかったん。せやけど私は必死でこう食い下がってん。


『彼は私の世界のすべてです! 彼がいない世界は、私にとって無意味です!』


 今(おも)たら、すごいこと言うなぁやけど。その時は掛け値なしの本気やった。私自身のことやけど、乙女の恋ってすごいもんやね」


 懐かしむような遠い目で、雪枝は言った。


「ほんで、オモトノミコトは省吾さんを起こしてくれはったん?」


「まさか」


 雪枝は笑った。


「『彼は私の世界のすべて』には、さすがにミコトもビックリしはったけど。その次の瞬間に大爆笑しはって。わかった、そこまで言うなら試せ。お前の声があの男へ届くかどうかは何とも言えないが、機会をやる。黄泉路を逝こうとしているあの男を、ひっつかんででも連れ戻せって……」


「ほんで。ひっつかんで、連れ戻してきたのん?」


 銀子の問いに、雪枝は笑ってうべなう。


「考えようによっては、メチャクチャわがままな話やけど。それが恋なんやろうね。銀子ちゃんも誰かを本気で好きになったらわかるワ」



 『彼は私の世界のすべて』


 その狂おしい思いを銀子は今、正気と狂気の狭間で噛みしめている。

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