9 草仁Ⅲ ナンフウ視点③
今後の簡単な方針が決まり、一同は泉へ向かう。
通常の寄り合いの後には、守たちは泉へ向かうのが慣習だ。
そして泉の周りや祠を掃除する。
草仁がツカサになって以来、その時の二回に一回くらい青蛙のミコトが顔を出すようになった。
アマガエルの姿の時もあれば、水を凝らせたような透明の蛙の姿の時もある。
透明の蛙の姿を最初に見た時、ナンフウは、腰が抜けるかと思うほど驚いた。
そないにビックリせんでも、と、草仁に呆れられたが、いやいや普通ビックリするやろうが。
「そうかな? 俺的には、一番最初に『ヒトに近きクサ』の皆さんのこと知った時の方が、よっぽどビックリしたで」
それを言われると、ナンフウとしては黙るしかなかった。
口数も少なく、一同は草をむしったり祠を拭いたりしていた。
祠の祭神はオモトノミコト。
神社と同じだ。
どちらもご神体は石。伝えられている話では、泉が湧く瞬間に落ちた雷がはじき飛ばした石なのだそう。
チラッと見ただけだが、少なくとも祠の中に鎮座しているご神体は、真っ黒な煤をまとったこぶしほどの石だった。
「……あ」
松英さんと一緒に、固く絞った布で祠の屋根を拭いていた草仁が小さな声を上げた。
ヤツは手を止め、泉へ向かう。
「青蛙のミコト」
泉の中心部に、水で作り上げた精巧な彫刻に似たカエルがいた。
草仁は泉の縁にしゃがみ、やや辛そうに笑む。
「ミコト、ご機嫌いかがですか?」
お変わりありませんか、とか、お元気そうですね、等は少し言いにくい。だからか草仁はいつも、青蛙のミコトへそう話しかける。
クルル、と小さく鳴いた後、葉擦れのような小さな声が。
『ツカサ』
「は、はい」
姿は見せても話しかけられることなどなかったので、驚きながらも草仁は、何とか返事をした。
『ポプラを救ってやれなくてすまなかった。アレ自身の寿命でもあるが……我がもう少し若ければ、何とかしてやれたかもしれぬ』
「いいえ、ミコト……」
『それから……』
軽く笑んだ気配で、青蛙のミコトは続ける。
『これはお前のせいではない。何もかも背負おうとするな、ツカサ』
「は?」
『そこがお前の美点だろうが。過ぎると傲慢だ』
言い終わると同時に、カエルはゆるんと水へ戻った。
「……」
ナンフウは近付き、硬直している草仁の肩をトントンと叩く。
「姐御に怒られたな、ツカサ殿」
「あ? ……あ、ああ。そう、やな」
はっきりと苦笑すると、草仁は立ち上がった。
「『過ぎると傲慢』、か。俺、そんなに背負い込んでるやろうか?」
そこがわからないのがコイツだなと思いつつ、ナンフウは言う。
「遠慮せんともっとみんなに頼れ、そういうことやないか?」
「……そうか、な? 十分、色々お願いしてるけどな」
あやふやな顔でそう言い、草仁は首をかしげる。
周りの大人たちは、どこか痛ましそうなぬるい目でヤツを見ていたが、本人は気付いていなさそうだ。
(……んん?)
何とも言えないゾッとしたものを感じ、ナンフウはそっと、異質な気配のする方へ視線をやる。
草をむしっていた雪嶺が、手を止め、表情のない虚ろな目で草仁を見ていた。
なんだか嫌な気がしたナンフウは、彼女の視線をさえぎるようにさり気なく、己れの立ち位置を変えた。




