表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クサのツカサ  作者: かわかみれい
2 最後のツカサ~高校生編Ⅰ
85/88

7 ”王”が動く 上谷護視点②

「えっと。佐伯さん。何でしょうか?」


 やや戸惑った司会者の声。

 その声に緊張したのだろう、佐伯は顔をひきつらせる。

 が、彼女は静かに立ち上がった。


「執行委員に、立候補します」


 大きくはないがはっきりした声で、佐伯は言った。

 司会者……つまり前執行委員長は瞬間的にポカンとしたが、すぐ立て直した。


「えー、はい。わかりました。立候補、ですね。ではまず一名、佐伯さん……」


 目顔で、黒板に板書している者へ合図する。

 佐伯、と、書かれた。


「はいはーい。私も立候補しまーす!」


 妙にハイテンションな声が響く。

 護には信じられないことに、志木ゆかり、だった。

 いやまあ、要は仲のいい佐伯のサポートを買って出た、ということなのだろうが……普段の彼女、こういう『ややこしいこと』へ自分から噛んでゆくタイプではないので、護はかなり驚く。


「あ、はい……志木さん。立候補ですね……」


 板書している者が志木の名を書き加えた。

 思っていた流れと違ってきたのだろう、前執行委員長たちの表情が困惑してきた。


「あー、その。立候補者が二名、出ました。あと一名、立候補する人はいませんか? いない場合、先ほどと同じ方式での選出選挙を……」


(あああ、くそっ。何の因果で……)


 歯噛みし、胸で呪詛めいたものを吐き捨てたが。

 覚悟を決め、護はスッと手を上げた。


「……立候補します」


 チラッと結木のいる方へ目を向けてみた。

 ヤツは若干驚いたような顔をしていたが、護と目が合った瞬間、かすかに笑った。

 その笑顔は、近しい友人のサポートを感じてホッとしたのが八割、何やら意味ありげなものが二割、という雰囲気。

 護は目をそらし、表情を消して黒板の方へ向き直ると、背筋を伸ばした。


(……くっそ。自分のことは鈍いくせに、他人のことには聡いのかよ、あの男は!)


 と、護はひそかに胸でぼやいた。

 八つ当たりの自覚はある。



 今年度の第一回目になる『全校執行委員会』が、その放課後にさっそくあった。

 二年一組のクラス執行委員長と執行委員三名は、会合に出席した後、ぶらぶらとHRへ帰りながら話す。


「あいつら、いつの間にこんな計画立てよったんやろ?」


 思い出したように結木が、ぼそっとつぶやく。

 ため息を呑み、護は答える。


「春休み中にでもメールや電話でやり取りして、決めてたんと(ちゃ)うか?」


 ヒマやなァ、と、若干あきれたように結木は言った。

 まあそうだよな、否定はしないと思い、護はうなずく。


「あ~、そんなトコやろ〜なァ。ワタシらが立候補せんかった時は誰を執行委員にするかも、ある程度決めてたんと(ちゃ)う?」


 志木は言う。


「その場合でもこのメンバーの可能性、高かったけど。連中の思惑でやらされるくらいやったら、自分の意思でやる方がマシやん。な? 香穂ちん」


 志木に話しかけられ、佐伯は困ったように苦笑いした。


「せやけど。ナンで俺らが?」


 ちょっと立ち止まり、本気で不可解そうに結木は言う。


「変人やからと(ちゃ)う?」


 身も蓋もない、という感じで、志木はさばさばとそう言う。


「多分やけど。嫌いってほどでもないけど連中としたら。自分らの思うようにならん、いっつもマイペースの我々変人四人が鬱陶しいって常々、思っててェ。んで、実利を兼ねた、ちょっとした意趣返し……、的な? 基本ワタシらは真面目で律儀やし、ブツブツ文句言いながらでもちゃんと仕事、やりそうやん」


「俺らはともかく志木は真面目で律儀か? …ってかその流れで言うと、俺も変人枠の人間なんか?」


 釈然としない気分で護がそう言うと、


「うわ、自覚ないのん? こりゃ一番重症の変人はマモさんやな」


 と、志木は決めつける。なんでやねん!

 あははは、と、結木は笑う。


「なあるほど。ちょっとはわかった。今更やけど」


 笑みの残る顔で、やけに静かにヤツは言った。


「『いっつもマイペース』な人間には、そうせんとしゃーない事情ってヤツがあるんやけどな、大抵は。……ソッチがその気やったら。不本意やけど、売られた喧嘩は買わせてもらうで」


「へ?」


 不穏なものを感じ、護は友人の顔を改めて見る。

 結木の表情は静かだ。

 が、黒板の前に立って挨拶をした時の、あの手ごわい”山の主(おう)”の目をしていた。


(ヒィイ、陛下ァ、何卒お手柔らかに……)


 思わず護は心の中で祈る。

 ヒューッと、志木がいきなり口笛を吹いた。


「おおう! 意外と骨があるってか、硬派でオトコマエなセリフやん。結木のこと、書道オタクのインテリくんみたいに思ってたけど、認識改めるワ。いざとなったら殴り合いも辞さん覚悟の、バッキバキに負けん気強いヤツやったんや。ヤバい、ホレそうやな」


「は?」

「ゆ、ゆかりちゃん!?」


 護と佐伯が同時に声を上げるが、志木は平然と笑っている。

 さすがに結木も目をむいたが、


「……ああ」


 と、何かに納得したようにつぶやくと、はっきり苦笑いした。


「いやいや、おだてても何も出ーへんで。まあでも、お陰でちょっとテンション上がったワ。ありがと」


「どーいたしまして。エールの交換、みたいなもんや」


 しれっとそう言い胸を張る志木へ、結木は笑った。

 今度はいつもと同じ笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ