表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クサのツカサ  作者: かわかみれい
2 最後のツカサ~高校生編Ⅰ
81/87

5 草仁Ⅱ ナンフウ視点②

「俺は今日。お前が女の子と仲良う歩いてるのん見て、正直、メッチャ嬉しかってん」


 怪訝そうに顔を上げる草仁へ、ナンフウは続ける。


「ああ、やっとお前、初恋の呪いから抜け出せそうやなって……」


「ヘ? 初恋の、呪い?」


 『初恋』はともかく『呪い』というワードが予想外だったのだろう、草仁はポカンとした。


「だって……、そーやろーが」


 ナンフウは言う。

 言ったが、これ以上言うとぶん殴られるかな、とナンフウは思った。

 一瞬、腹の辺りがきゅっとしたが、あえて続ける。


「お前は。ガキの頃に助けてくれた『通りすがりのお姉さん』のこと、崇めてたんやろ? それこそずっと。……で、そのお姉さんとマジで知り合ってテンション爆上がりして……、最終的に初恋って形の呪いにもつれ込んだんやろうけど……」


「ナンフウ!」


 噛みつきそうな勢いで名を呼ぶ草仁を、ナンフウは静かに見返す。


「ほら見ろ、どついたるって顔になったやん。お前に俺の何がわかるねんって……」


 指摘に、草仁はむっつり黙り込んで顔をそむけた。

 ナンフウは茶をすする。


「まあ……、殴りたかったら殴ってもかまへんデ」


 ナンフウは言い、草仁のそむけた顔へ目を当てる。


「オレはガキやし、そもそも木霊やから。アイだのコイだのはっきり()うてよ―わからヘん。そやけど、自分が大事にしてる気持ちをないがしろにするようなこと、他人に言われたらメッチャ腹立つんはわかる。殴られてもしゃーないくらいのこと言うてる、自覚はある」


 淡々と続けるナンフウの声を聞きながら、草仁は軽く唇をかみ、目を閉じてうつむく。

 きつく握りしめているせいか、座卓の上に載せた両手が色変わりしていた。

 やり切れない気持ちでナンフウは、お茶を飲み干す。


「雪嶺さんはエエ人や。他人(ひと)の気持ちを察して動いてくれる、優しい人やとも思うで、オレかって。容姿も清楚な感じで、お前が好きになるのもわからんことない。あんな人がずっとそばにおってくれたら幸せやろうなって、アイやコイがわからんクソガキのオレでも、想像は出来る。でもな」


「……わかってる」


 ため息と一緒に、気が抜けたような声で草仁は言う。


「わかってる。そもそもあの人に、好きな相手が()ろーが()るまいが。俺はあの人から見て、水路に転がり落ちてぴいぴい泣いてたアホガキや……未だに、な」


 ふふっと、乾いた笑声を草仁はもらす。


「それでも。人間の俺は成長早いから。あの人が二十歳過ぎくらいの娘さんのままでいるうちに。あと四、五年経って俺もそのくらいの大人になったら。ワンチャン、男としてみてもらえる可能性あるかなって……100のうち1、くらいのメチャ低い可能性でも」


「草仁……」


 草仁は疲れたように両手で頭を支え、深いため息を吐いた。


「まさかあの人の好きな相手が……そんなん、絶対手ェ届かん相手やん。あのお方に狂いそうなほど惚れてる彼女から見たら、俺なんかガキ以前っちゅうか、その辺を飛んでる虫と変わらへん……」


『ユーキ!』


 いつの間に入り込んでいたのか、緑の瞳の薄茶の縞猫が草仁のそばにいた。


乙彦(オトヒコ)様……」


 茫然と猫の名を呼ぶと、草仁は、引き寄せられるように猫を胸元へ抱き上げて深い息を吐いた。


「乙彦、アンタら雪嶺さんの守護してんやなかったん?」


 ナンフウが問うと、


「うん。せやけど大丈夫やで。仕事中の雪嶺おねえちゃんはしっかりしてるし、おにいちゃんはちゃんとそばにいてるし」


 そう答え、乙彦は、草仁の腕の中にこめられた状態でしっぽをゆらんと振った。


 乙彦……彼は『防人(サキモリ)』と呼ばれる、おもとの守たちの心を不浄や悪鬼から守る存在だ。

 おもとの泉の霊力から生み出された猫の姿をした精霊の一種で、兄の『兄彦(エヒコ)』と弟の『乙彦』の二匹が、この代の『サキモリ』だった。

 情緒の著しい乱れがよくないモノにつけ込む隙を与えるので、彼らは、おもとの守たちの心をなだめる役目も担っている。

 最近は主に、著しく情緒を乱している雪嶺の守護についていたのだが……。


(サキモリに癒してもらわんとアカンほど、草仁の情緒はヤバいんか……)


 愕然とした。

 今回はナンフウがつついたのが直接的なきっかけだろうが、つつかれて大きく心を乱すのは、そもそも健全とはいえない。



『世界樹、世界樹、待って下さい!』

『ならばいっそ、私を殺してください!』


 神事が終わった後。

 守の皆と一緒にナンフウと草仁も、野崎夫人に雪嶺の様子を確認しようとした。

 彼女が休んでいる部屋の隣で話を聞いていると、うなされているらしい彼女の叫び声が聞こえてきた。

 聞く者の胸をかきむしるような、悲痛な叫び声。

 その場にいる者は互いの顔を見合わせ、事情を察した。


 雪嶺は。

 世界樹すなわちオモトノミコトに。

 恋を、している、と……。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
オォフ……( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ