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クサのツカサ  作者: かわかみれい
2 最後のツカサ~高校生編Ⅰ
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4 それはまるで、荒野に立つ孤高の若木のようなⅡ 佐伯 香穂視点①

 メタセコイヤと猫へ微笑んでいた彼を見送った日の、後。

 香穂はまず、自分が勝手にやっている『ひとり読書同好会』に、もっと真面目に取り組むことにした。

 直接彼に関わるものではなかったが、まず自分の軸をしっかりさせなければ、彼に真っ直ぐ向き合えない気がしたのだ。

 ……自分に対しての、巧妙な逃げかもしれない。

 でも、いつも真っ直ぐ天を目指して伸びようとしている人へ近付くには、まずは自分も何か努力をするべきだと思ったのは本当だ。


 まず手始めに彼女は、A6のノートを三冊、用意した。

 一冊目には『日本文学』、二冊目は『外国文学』、三冊目は『エッセイ他』というタイトルをつけ、そこへ読んできた本のタイトル、作者、初版出版の年月日、簡単な感想などを書き出す。

 今まで漫然と目についた本を読んできたが、まとめ始めると、思いがけない自分の読書傾向が見えてきて面白い。



 そんなノートが何冊かたまった頃。

 季節はいつの間にか、秋。

 わちゃわちゃしているうちに学園祭が、そのすぐ後の二学期の中間テストも済み、いい季節になってきた。


「で。あれから王子サマと、ちょっとは仲良くなれたん?」


 中庭にある背もたれのないベンチに座って紙パックのフルーツ牛乳を飲みながら、ゆかりが突然言う。


「う。現状維持」


 飲んでいるジュースにむせそうになりながら香穂は答える。

 ゆかりは時々、思い出したようにこうして香穂をつついてくるのだ。

 彼と仲良く…なくはない。

 多分クラスの女子では、香穂が一番、彼と仲がいいとは思う。

 ……クラスの女子の中では。


「話聞いてる限り、香穂ちんなりにソコソコ頑張ってアプローチしてるのになぁ。あの王子サマ、ニブ過ぎやろ」


「あああ、アプローチ…」


 香穂はアワアワしてしまう。


 『王子サマ』は、彼が一時期『The Little Prince(星の王子さま)』を自主的に読んで勉強していた、という話を彼女にして以来、結木くんを指す隠語になった。


「ちょっと天然ってのか、箱の中に羊がいてるって真顔で言いそうなトコあるからさ、星の王子さまみたいなヤツって言えんこともないやん、アイツ。なんちゅうても香穂ちんの『王子サマ』なんは確かやしィ」


 そんな感じでなし崩し的に、香穂とゆかりの間だけでの隠語『王子サマ』がゆるっと決まった。

 ちょっと恥ずかしいが、名前をそのまま出すよりはいい。



 その『王子サマ』は今、メタセコイヤの大樹の下で寝ころび、かなり本気で昼寝をしていた。

 いいのかな、と心配になるくらい、ぐっすり眠っている雰囲気だ。


「ああいうところで、ガチで眠り込めるんがアイツっぽいんやよなあ。まあそのうち、王子サマの一の従者がお世話しにくるやろけど」


「へ? 一の従者?」


 ポカンとゆかりの顔を見た瞬間、彼女は面白そうに口許をゆるめ、目顔で示す。


「ほら来た。従者さんも、天然王子サマのお世話するのん大変やねえ」



 校舎の方から出てきたのは上谷くんだった。

 早足で歩いてくると、メタセコイヤの下で熟睡している友人を、やや持て余したように見下ろしていたが……


「おい!」


 の声と同時に、軽く結木くんの脇腹を蹴った。

 さすがに驚いたらしく、彼は飛び起きる。


「別に寝ててもエエけどやな、もうじき予鈴鳴るぞ。授業さぼるんか?」


 結木くんは完全に寝ぼけた顔で辺りを見回し、ああ、とつぶやいた。


「……学校やったんやな」


「おう、学校やぞ」


 上谷くんはあきれたようにそう言ったが、さすがにちょっと心配そうに眉をひそめた。


「結木。あんまりシンドいんやったら、いっそ早退する方がエエんとちゃうか? それならそれで、ついてったるから先生に言いに行けや。どないするねん」


「あ、いや。授業受ける……」


 茫然とした雰囲気ではあったが、結木くんは立ち上がった。

 上谷くんは軽くため息を吐き、よろよろ歩く友人の少し後ろから歩いてゆく。


「な? 一の従者やろ?」


 いたずらっ子じみた笑みを浮かべるゆかりへ、香穂は


「あはは……確かに」


 と、ぎこちなく笑う。


(結木くん……大丈夫かな?)


 なんとなく彼、本気で疲れていそうに見えるのだ。

 眠っても眠っても簡単に取り切れない深い疲労が、全身から揺曳しているように感じる。


(テストの結果は、相変わらず好調みたいやけど……)


 その成績を維持する為、彼は、無理を重ねているのかもしれない。


 そんなことを思いながら、香穂は、残っていたジュースを飲み干す。

 予鈴が長閑に、澄んだ秋空へ響いた。



 昼休みはあんな感じだったが、放課後、彼はいつも通りシャキシャキと図書室で勉強していた。

 香穂は読書ノートを整理しつつ、チラチラと彼の様子をうかがう。


(森茉莉全集は市立図書館の津田分室にあるらしいナ。学校から、ちょっと頑張ったら歩いていけるかな?)

(結木くん、あんなにだるそうにしてたのに。今日は帰った方がエエと思うけど、やっぱり勉強しに来るんや)

(エッセイから入ったからかもしれんけど、森茉莉ってエッセイの方が面白そうやなあ、ちゃんと読んでないから言い切れんけど。この人の小説って要するに、最近でいうところのBLやんな、BLやないのんもあるっぽいけど『甘い蜜の部屋』とか。それは読んでみたいかなあ)

(あ、こめかみ押さえた。んもう、やっぱり頭痛くなってるやん)


 読書ノートにまとめる内容と彼への心配を交互に胸でつぶやいているうちに、下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。

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― 新着の感想 ―
まあ、日本は千年以上前から、BL大国ですからね( ˘ω˘ )
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