序に代えて 上谷護視点①
上谷 護はふてくされていた。
今日、彼は真新しいこの学校の標準服……要するに制服を着て、高校の入学式に臨んでいたが。
はっきり言う、嬉しくない。
この高校の名物らしい、正門から校舎まで続く桜並木は確かに美しかったが、この程度の『美しい景色』を持つ高校なんて、掃いて捨てるほどあるってものだ。
保護者連れでうろうろしている同輩たちの顔も、小利口そうだが覇気も個性もない、つまらないヤツばかりに見えた。
「……チッ」
思わず舌打ちすると隣にいた母ににらまれたので、護はなんとなく姿勢を正し、表情を消した。
そもそも護は、この学校……府立津田高校のような、偏差値60未満という中途半端なレベルの高校への進学を希望していなかった。
これでも中学時代の偏差値は65~67。
調子が悪い時でも63を切ることはなかった。
志望していたのは、父の母校でもある関西の私大四天王のひとつ八仙大の附属高校。
偏差値的には妥当で、まったく問題なかった。……なのに。
(ナンで推薦でも一般でも、落ちるねん!)
特に推薦で落ちたのが解せない。
面接での受け答えが悪かったとは思えないし、テストで特にひどいミスをした覚えもない。
しかし落ちた。
今年度は特に優秀な生徒の応募が多かったのだろうと教師たちは慰めてくれたが、落ちたという事実は変わらない。
当然一般入試で再チャレンジしたが、やはり落ちた。
護は荒れたが、荒れていても事態は改善しない。
今から受けられるのは公立高校、そして確実に合格するレベルでなければならない。
その結果の津田高だ。
(……くそう)
せめて主席の成績を通し、卒業生総代として卒業してやる!
入学式の日に卒業式のことを考えながら彼は、退屈な式典をやり過ごした。
HRへ移動する。
席は入り口から出席番号順、要は五十音順だ。
入り口に一番近い列の、最後の机がとりあえずの護の席だ。
そこに座り、なんとなくHRを見回して……とあるクラスメートに目が留まった。
出席番号が最後に近いのだろう、その男は入り口から遠い窓際の列、後ろから三番目に座っていた。
別にイケメンではない。
癖のない顔というか、顔立ちそのものは印象に残るような感じではない。
だが、何故か目を引く。
存在感が普通ではない。
(……”王”がいる)
心の中で独り言ち、いやそれは言い過ぎだろうと護はちょっと赤面した。
しばらく観察し、この男が異様に姿勢がいい、のに気付く。
なるほど、まずはそれが原因かと護はちょっと納得した。
スッと背筋を伸ばしたまま、静かに黒板の方を見ているそいつの周りは、不思議な静寂に包まれているような気すらした。
担任になる中年の男性教師がHRへ入ってきて、挨拶を始めた。
色々と『有り難いお話』をしてくださっているようだが、護の頭には一切、残らなかった。
(……とりあえず。面白そうなヤツ、居るやん)
クソ面白くもない、灰色の高校生活が始まると思っていたが。
骨のありそうなというか一筋縄ではいかないというか、そんなヤツがクラスに居るのに、護はちょっと嬉しくなった。
アイツなら話が通じるかもしれない。
そんな淡い期待が、曇天に差し込む一条の光のように感じた。




