表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クサのツカサ  作者: かわかみれい
1 守のツカサ〜中学生編
52/55

11 ことほぎ②

 とりあえず碧生は、着替えて食事をとることにした。


 こちらへ持ってきますよという野崎夫人を制して(足腰立たないくらい弱っているのならともかく、すでに碧生は普通に近い体調に戻っているのだ)、彼は、制服や荷物を置いているという隣室へ行く。

 寝かされていた部屋と同じくらいの大きさの部屋で、いい感じの大きさの座卓と座布団がいくつか、あった。

 碧生はその部屋の隅で、着慣れていない浴衣の寝間着を何とか脱いで畳み、ハンガーにかかっているスラックスをはき、ネクタイをつける。

 それだけでずいぶんホッとした。


 時刻は午前十一時を回った頃。

 四時間は前後不覚でぐっすり眠っていたことになる。

 乙彦は、初めて神事に臨んだ若葉にありがちなことだと言っていたが、やはりアレは普通のことではないのだな、と、改めて碧生は思う。


(……普通のことやないけど。だからって全然、カッコよくないよなあ)


 心の中でこっそりぼやく。

 漫画やアニメなら、異界と通じることが出来る『選ばれし者』は、なんだかカッコイイ能力や技に目覚め、世界を救っちゃたりなんだりするのがお約束だが。

 碧生の『能力』は、泉の水を飲んだら『神の庭』とかいう生死の狭間らしい場所?へ飛び、おっかない神様とお話をする、だけ。


(……あ、サキモリ兄弟とかとおしゃべり出来るんも、能力の内かな?)


 それはそれなりに楽しいが、カッコイイかどうかといえば……。


(別にカッコよくはない。断言できる)


「……はあああ」


 場合によったら死にかける、らしいから、ハイリスク・ローリターンもいいところだ。

 そんなことを思うともなく思いつつ、彼はもぞもぞと自分の通学リュックから、アルミホイルに包まれたおにぎりと、ほうじ茶を詰めた水筒を取り出す。


(うーん。エエ格好せんと一個くらい、一角のミコトに願い事、叶えてもらった方が良かったかも?)


 座卓の前へ移動しながらちょっと思う。

 まあ、ちょっとだが。

 仮にもう一度あの場に立ったとしても、断わりそうな気がする、自分の性分上。

 損な性分である。

 ブツブツと心で愚痴を言いながら碧生は、アルミホイルをむいておにぎりにかぶりつく。

 塩気の利いた、海苔に包まれたおにぎりがしみじみ美味い。

 腹ペコなのを思い出す。


「ツカサ殿」


 障子の向こうから声がして、碧生は一瞬、喉が詰まりそうになった。

 『ツカサ殿』って誰のこっちゃい、としか思えないが、返事をしない訳にもいくまい。


「……はい」


 水筒のほうじ茶を飲み、応える。

 障子が開き、小さな丸盆を手に、野崎夫人が入ってきた。


「おにぎりはあるというお話でしたので、お汁と煮物程度を持ってきました。他の守の皆さんもそろそろお食事をなさってますから、ツカサ殿もご遠慮せずに」


「あ…、そう、ですか。どうもありがとうございます、いただきます」


 もごもご礼を言い、碧生は、花麩に三つ葉、ゆずの皮をあしらった吸い物、彩りも鮮やかな野菜の煮物の小鉢、だし巻きたまご二切れが乗った小皿などを受け取る。

 どれも出汁が利いていて、上等の料理屋の料理のようだ。


(……ウチの母親(オカン)も料理、下手やないけど。ナンちゅーかこれ、方向性が違うってのか……、レベルの高い料理やな~)


 家庭料理の味と(ちゃ)うで、などと思いながら彼は、有り難くいただく。

 本音を言うなら物足りない量だったが、そこはわがままを言わず、出されたものを静かにいただく。


 そう言えば、いつのまにかサキモリ兄弟がいない。

 彼らもどこかで何か食べているのかもしれない。



 ほぼ食べ終わった頃、軽い足音が近付いてきた。

 からりと障子が開く。


「邪魔するで~、結木。お、ちゃんと飯食えてるやん」


「……ナンフウ」


 いつもと同じ態度のナンフウに、なんだかジーンとした。

 ナンフウは嬉しそうに笑う。


「良かったァ、いつも通りの結木やん。いやもう、神事終わった時は顔に血の気ないし、その次はひっくり返って爆睡やし。ホンマに大丈夫なんかって、オレ、マジで心配やったんやで」


「ああ……らしいな。心配かけたみたいで、ごめん」


「いや、謝らんといてくれ」


 首を振ると、やや済まなさそうにナンフウは眉をしかめた。


「お前を布団に寝かせる時、あんまりズボンが泥だらけやったから、オレと大楠先生で脱がせたんや。意識ない時にズボン脱がされるとかメッチャ嫌やろうけど、非常事態やったからカンベンな」


「あ……いや。面倒かけて、スマン」

(ナンフウと大楠さんやったんか)


 嫌は嫌だが、状況的に仕方がない、くらいはわかる。

 後で大楠にも一言、お世話かけてすみません、くらいは言うべきだろう。


「こら」


 障子の向こうに恵月先生が来た。


「おい棕櫚。なんじゃお前、ツカサ殿にそのタメ口は。もうちょっと立場をわきまえた口の利き方、出来へんのか?」


「えー? そんな態度、結木が喜ぶわけないやん」


 むくれ顔でそう言う息子へ、恵月先生が渋い顔をする。


「喜ぶ喜ばへんの問題と(ちゃ)うねん。今、この場ァは『おもとの守』でないとアカンのや、我々も新しいツカサ殿も。……ツカサ殿」


 恵月先生は真面目な顔で碧生を見た。


「まもなくおもとの守の全員がこちらへ参りますので。新しいモリとツカサを迎えた、第一回目の寄り合いを始めますんで、よろしくお願いします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ