13 リーダーのソロ。 上谷護視点②
「……で。上谷が監視役か」
翌日、朝。
塗料の調整をしながら杉山は、小さい声でブツブツ言う。
「人聞きの悪い言い方すんな。まあ監視もするかもしれんけどやな、それはお前が水や飯、ちゃんととるかどうかの監視や。俺は基本、サポート役やねん」
せっかく居るんやから上手に使え。
護がそう言うと、杉山は黙った。
昨日、杉山は背景画作製に熱中しすぎ、熱中症で具合が悪くなった。
別にギャグではない、真面目な話だ。
HRへ戻った後、我々四人で手分けして後片付けをしたり、保健室で寝ている杉山の荷物をまとめたりしていると、担任の加賀先生が顔を出した。
結木が代表して、今後こんなことが起こらないよう、基本的に上谷がヤツのそばでサポートすると決めたと話す。
加賀はうなずき、熱中症の懸念はあったのに彼を放置していた、自分の認識も甘かったと頭を下げた。
「ただ、杉山がサポートを嫌がる可能性がありそうで、そこが気になります」
結木の言葉に、加賀はやわらかく笑んだ。
「さっき杉山くんの顔見てきたんやけど。今回は彼も思うところがあったみたいやで。彼の荷物、これかな? 僕が保健室に持って行こう。その時に、もうちょっと話してみるから」
加賀から話を聞いていたのだろう、護の姿を見ても、杉山は特に嫌がるそぶりは見せなかった。
ボヤきはしたが。
「……あーあ、どうせサポート役ついてくれるんやったら、女の子の方が……」
「は?」
「イエ、ナンデモナイデス」
調整した塗料を置きながら、杉山はため息まじりにつぶやく。
ため息吐きたいんはコッチや、と護はムッとした。
「心配せんでも午後からは女の子も来るデ。お前の苦手な、志木と佐伯やけどな」
「……そっか」
ちょっとだけ、杉山は笑った。
たとえ苦手な相手でも、女の子の方が気持ちが華やぐというところか。
わからなくはない、が……スマンの、ヤローで!
だが描き始めると、ヤツはモードが変わるらしい。
キリッと引き締まった顔で筆や刷毛を使う杉山は、男の護の目から見てもなかなかカッコイイ。
(……コイツ。普段はどっかヘラヘラしてる感じやのに)
絵を描き出したら別人みたいだ。
いつもこうしていればいいのにと思う反面、このモードの杉山では、普段つるんでいる連中と相性悪そう、とも思う。
思いつつ護は、ヤツの邪魔にならないよう少し下がったところで様子を見つつ、次に使いそうな塗料をそばに寄せてやったりした。
「お前。思ったより邪魔にならへんな」
キリの良さそうなところで休憩を促し、スポーツドリンクを渡す護へ、やや意外そうに杉山は言った。
「俺のツレはこういう時、邪魔しよるようなタイプばっかやからなァ」
そうだろうな、と、そうでもないんじゃないか、を半々くらいに思いながら、護は曖昧に笑う。
この男と普段つるんでいる連中の顔を思い浮かべてみた。
連中だって、真面目に描いてる人間に対してリスペクトの気持ちを持つだろうと思うが、絶対ふざけないと言い切る自信までは、護にない。
クラスメートではあっても、連中のことをよく知らないから。
(……コイツ。ひょっとして自分のツレのこと、あんまり信用してへんのか?)
なんだか寂しい話だが、だからといって護の関与すべきことでもなかろう。
「サポート役やねんから、邪魔になったら意味ないやんけ」
とりあえずそう答えておいた。
正午近くになったので、食事休憩をとるよう杉山に促す。
さすがに昨日の今日だ、素直にヤツはうなずく。
近所のスーパーのフードコートへ行くというので、護は持参した昼食を手に食堂へ向かう。
営業はしていないが、11時から空調が入り、各自食事していいことになっている。
(アイツ、多分最初からフードコートでメシ食うつもりやったんやろうけど)
食べながら護は思う。
(一回くらいは、一緒に飯食おうって誘うべきやったかな?)
まあ、そこまで気を遣ってやることもないかと思い直す。
少なくとも今の護に、アイツと一緒に食事がしたいほどの親しみは、ない。
ならばこれが『最適解』ってヤツだろう。
午後からは女の子たちだけでなく、結木も来た。
「お疲れ、杉山。進捗はどんな感じや?」
結木の問いに、杉山はややこわばった顔を向ける。
「あー……まあまあ」
もごもご答えるヤツへ、志木が容赦なくツッコむ。
「ん~、丁寧に描いてるんはすごいエエけど。あんま、進んでないよね?」
違うとは言えない。杉山はむっつり黙り込む。
「なあ、杉山」
遠慮しながらも、志木は続ける。
「今日はもう八月七日やん。お盆休み中は学校も閉まるし、そこまでにはある程度、仕上げたいと思わへん? 杉山は嫌かもしれんけど、私らに背景画の作製、手伝わせてェな。九月からはタテカンとか、ソッチの方が絶対大変になるやろうし」
しばらく目を泳がせ、杉山は何か考えていたが。
ついに言った。
「……うん、そうやな。お願いする」
頼む。スマン。
最後に小さい声でそう言い、杉山は頭を軽く下げた。




