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クサのツカサ  作者: かわかみれい
2 最後のツカサ~高校生編Ⅰ
103/107

13 リーダーのソロ。 佐伯 香穂視点①

 背景画担当の杉山くんに、当日ピンスポットを任せ、最終的には彼にも花を持たせる演出。

 ゆかりちゃんの中でいくつかの腹案があったみたいだが、最終的に彼女が選んだのは


① 冒頭とラストの一センテンス分を男子ソロにし、その人へのピンスポットを彼に任せる。

② 曲が終わり、ピンスポットも消えた瞬間、舞台明転。

③ 誰かが『バトン』の暗喩でもある全員分の桜の枝を持って、客席中央にあるピンスポット台にいる杉山くんに渡す。

④ 〆のセリフを全員で唱和。


「……『二年一組『さくら』 クラステーマ『バトンをつなごう』 ありがとうございました』くらいの〆、考えてるねんけど。時間配分的にはギリギリ、かな?」


 食堂横にある生徒用ラウンジの一隅。

 執行委員だけ残ってのミーティングで、ゆかりちゃんは言った。


「多分、時間配分とかはなんとかなるやろうけど」


 紙パックのコーヒー牛乳を飲みながら、上谷くんは難しい顔をする。


「あー、そりゃ。はっきりそうと決まった訳やないけどやな。俺らってか、そもそも結木をハメた張本人、アイツやろ? その張本人がピンスポット当てる相手、よりにもよって結木とか。どんな皮肉どんな嫌味やねん、ラノベかナンかの展開か?みたいな……」


「そこは……私もさすがに想定外やったけど」


 ゆかりちゃんもちょっと難しい顔をする。


「そやけど。バチッと決まるソロ歌えそうなん、やっぱ結木やん?」


 その点に関しては上谷くんも認めているのか、否定できない。


「上谷」


 結木くんが、飲んでいたペットボトルのお茶を机に置き、真面目な顔で言う。


「ナンやったら、上谷がソロ歌うか? そしたらそんな気ィ遣うことない……」


「は? いやそれはどうやろ?」

「やめてーや、マモさんの声の質やったら森山直太朗的な雰囲気出ェへんし」


 上谷くんとゆかりちゃんが同時に言う。ちょっとお互いの顔を見た後、上谷くんは言った。


「そりゃあ、お前にピンスポ当てるよりかは、アイツも気分的にまだマシかもしれん。せやけど、結局俺もアイツにハメられたようなもんやん? アイツがフクザツなんは、お前やろーが俺やろーが、あんま変わらんのんと(ちゃ)うか?」


「……うーん。ほんなら執行委員以外の誰か?」


 考え込む結木くんへ、ゆかりちゃんは明るい声を作って言う。


「意外と大丈夫なんやない? ああ見えて杉山画伯、マジで画伯級のアーティストやもん。納得できるモンぶっつけたら、ちゃんとリスペクトすると思うで」


「納得できるモン……」


 つぶやき、結木くんは苦笑いをする。


「いや、歌うだけやったら合唱やろうとソロやろうとそう変わらんって、俺、簡単に(おも)てたけど……」


 彼は何か考えながら、ペットボトルのお茶を飲む。


「杉山、納得させるだけの歌、歌わんとアカンかな?」


「……結木くん?」


 思わず香穂は彼の名を呼ぶ。どこがどうとはっきり言えないが、ふっと、結木くんの気配が変わった。

 彼は目を上げ、軽く笑んだ。

 上谷くんが瞬間的にギクッと肩を揺らし、ゆかりちゃんの目が期待に輝く。


「……頑張ってみるワ。歌でやるんは初めてやけど、これでも俺、楷書の臨書はガキンチョの頃から得意な方やねん」


「は? カイショのリンショ?」

「ナンでここで書道の話が出てくるねん」


 ゆかりちゃんと上谷くんが、仲良く同時に言う。

 結木くんはふふっと笑って、


「要するに、お手本のまねっこをするってことや。()()()()()()()()()()、な」


 居住まいを正した彼は……『草仁』だった。

 香穂は瞬間的に身構えたが。

 この『草仁』は、内に怒りを抱えて睥睨する魔王ではなく、背景画を描く杉山くん、あるいは真剣に絵と向き合っている時のゆかりちゃんとおなじ表現者(クリエイター)なんだ、と、閃くように理解した。


 ならば。

 ちょっと……楽しみになってきた。



 ミーティング後、差し入れ代わりの冷たいスポーツドリンクを手に、四人で『杉山画伯』の様子を見に行く。


 そろそろ午後三時、窓の外ではギラギラした真夏の陽射しに、アスファルトの道が焼けている。

 立ち上る陽炎を見ていると、なんだかクラクラした。


 彼は今、HRの床一面に背景画を広げ、彩色をしている筈。

 時間が許す限り加賀先生が、進んで助手を務めているという話だが。

 あれほど周りにいた『友人』たちは、誰も彼を助けようとか手伝おうとか思わないのだろうか、と、ゆらめく陽炎を見ながら香穂は、ふと思う。

 杉山自身が拒んでいるのだという話も聞こえてこなくもないが……、それにしても。


(様子くらい、見に行くよね?)


 もしゆかりが独りで背景画を描いていたとしたら。

 香穂なら気になって、何回も見に行く、たとえ手伝えなかったのだとしても。


(男の子同士の友情は、また形が違うんかもしれんけど……)


 杉山は寂しくないだろうか?

 見に来るのは担任の教師と、ある意味敵であろう『クラス執行委員』だけ、という現状が。


(大きなお世話、かな?)


 多分そうだろう。

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