12 キーボードはメロディを奏でる 佐伯 香穂視点②
その日は桜の枝作り、翌日は歌の練習。
特に問題なく進む。
桜の枝に関しては、枝を一から作る必要がないので半日で全員分の枝が出来た。
当然、予定よりかなり時間が短縮された。
結木くんの人脈に感謝、という空気がクラス内でそれとなく広がる。
歌の練習。
舞台監督であるゆかりちゃんの指示で、ピアノ演奏は香穂が担当することになった。
当然クラスでピアノ担当を募ったが誰もやりたがらなかったので、中一までピアノを習っていた香穂が受け持つことになった。
(……こういう目立つ役目、今まで避けてきたんやけどなァ)
『執行委員に立候補します』と手を上げて以来、香穂にとって怒涛の展開の連続だ。
でも、プレッシャーはあるものの意外と楽しく、香穂自身ちょっと驚いている。
『カルテット』だから楽しいのかな、とも、思っているが。
ゆかりちゃんは、さながら雌伏していた龍がのびのびと空を翔けるように、気負うことなくスイスイ動いているし、上谷くんは上谷くんで、手堅い実務処理を嫌な顔ひとつしないで淡々と素早くこなしている。
正直に言って香穂は、彼が『縁の下の力持ち』であることを嫌がらないタイプだとは思っていなかった。
どこか傲慢な態度がほの見える男の子だと、苦手意識があったくらいだ。
が、これだけ頭の回転が早いのなら、そりゃあ周りが馬鹿に見えても仕方がないかもと、ちょっと思った。
そして。
(……結木くん)
マイペースでストイックに、コツコツ積み上げてゆく孤高の努力家。
それも確かに彼だけど。
(場の主、になれるのも、彼なんや……)
練習場所の確保のため、機を見てすかさず総長に交渉したり、足りなくなる予算の解決に奔走したり。
フラットな視線で遠くまで見渡し、地道に対処してゆく能力は、集団を導く為の大切な能力だろう。
お祭り男的な明るさで、集団を乗せてひとつの方向へ引っ張る、のも、ひとつのリーダーの在り方だ。
どちらかと言えば杉山は、そういうタイプのリーダーだった。
が、自分の周りにいる人材が、その能力を気持ちよく発揮出来るよう環境を整えるのも、リーダーのひとつの在り方だろう。
地味で穏やかだが舐められると容赦しない、秘めた彼の手強さもリーダーの資質のひとつと言えよう。
鍵盤をたたきながら香穂は、この一見おっとりとした少年は、どこでこんな研鑽を積んだのだろう、と思う。
真面目に一生懸命、歌を歌っている彼はいつもの『コツコツ、マイペース』な結木くんだ。
(……杉山くんは。結木くんのこういう部分なんとなく感じ取ってて。苦手やなあって思ってた、のかも?)
もちろん。
だからと言って、策略を巡らせてハメていいという理屈にはならない。
それとこれとは話が別だ。
クラスの歌の練習が終わり、香穂は、ゆかりと一緒に視聴覚室へ向かう。
杉山は朝から視聴覚室で、原画のスケッチを元に背景画の下描きをしている。
「杉山くんにも歌の練習、参加してもらおうと思たら。私らも早めに背景画の手伝い、しやんとアカンなァ」
香穂が言うと、ゆかりは苦笑いする。
「うーん、その通りやねんけど。あの子、多分、素直に手伝いとか頼んでくれへんでェ。ラフ画見て思ったけど、アレ、かなりこだわりのある完璧主義者や。他のことはどーか知らんけど、絵に関しては完璧主義なん、間違いなさそうやし」
じゃあどうすればと香穂が目顔でゆかりに問うと、彼女は肩をすくめるようにして
「とりあえず。様子見てから決めよっか」
と言った。




