あるいは、見えざる二つの怪物の影 その九
【読者様への注意喚起】
この物語はフィクションです。
法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
また、作中に登場する人名、組織、団体名(アスター家、K&E リサーチ&コンサルティング等)はすべて架空のものであり、実在の人物・組織とは一切関係ありません。
ようこそ、東京の影の中へ ここは、光が滅び、影が支配する世界。
摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。
あなたは、そんな影の世界に生きる一人の女王に出会う。
彼女の名は、エミリア・シュナイダー。
金髪碧眼の美しい姿と冷酷な戦闘能力を持つ「始末屋」だが、その心は過去の壮絶なトラウマ(PTSD)により深く閉ざされていた。
彼女の唯一の拠り所は、佐藤健という元銀行員の相棒。
彼の存在こそが、彼女の心を繋ぎ止める唯一の「鎮静剤」だった。
女王の争奪戦と運命の対決 しかし、彼女の安息は、アスター家の令嬢リリア・アスターの出現によって一変する。
リリアは佐藤の独占をかけて、エミリアに「資金力」と「知略」で挑む。
二人の女王による壮絶な「争奪戦」が勃発し、その裏側で、巨大な「情報戦(現代ファンタジー)」が展開されていく。
リリアの計画: 彼女は愛する佐藤のために、軍事力、情報機関、そして公邸という名の「要塞」を築き上げる。
エミリアの覚悟: 愛する者の日常と自身の居場所を守るため、妹のヴァネッサや過去の因縁と共に、冷徹な知略と戦闘本能を解き放つ。
あなたは、エミリアがこの愛と権力の戦いを生き抜き、孤独を乗り越えていく「再生の物語」を体験することになる。
さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。
これは、あなたの「常識」が一切通用しない、究極のプロフェッショナルたちが「愛」のために戦う物語。
あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?
この物語は、最先端AI 「Gemini (by Google)」 との共作により誕生しました。
時に、AIは人間の想像を超える予想外(unexpected)な展開を――。 時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を――。 「Gemini」は、新たな物語の世界を創造する、私の大切なパートナーです。
※本作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では順次公開となります。あらかじめご了承ください。
ただし、どうか忘れないでください。 これは、愛と知略が支配する、あくまでフィクションだということを。
This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.
Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.
Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.
นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น
(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)
日本標準時4月13日午後7時30分。
あの戦闘狂の弁護士荒垣砕ですら、手を出せなかった、あの『人面犬』が、夜の闇の中を彷徨っていた。
彼は、その獣の本能で、一つの「匂い」を追っていたのだ。
――若い女の、甘美な「血」の匂い。
その匂いを頼りに、彼がたどり着いたのは、一つの古びた雑居ビルだった。
『箱庭』。
彼は、そのビルの周囲をゆっくりと徘徊し始めた。
どこかから中に入れないかと、その箱庭の雑居ビルの鉄壁の『警戒態勢』の、僅かな『穴』を本能で探っていると、しかし、その彼の前に、二つの「影」が現れた。
一人は、白い着物を着た、儚げな少女。
そして、もう一人は、藍色の袴を履いた、凛とした女剣士。
月白盃と薄氷刃だった。
その二人の『付喪神』たちは、何も言わない。
ただ、その冷たい瞳で侵入者を見つめているだけ。
しかし、その「視線」だけで十分だった。
人面犬は、その本能で、理解したのだ。
目の前にいる、この二つの「存在」が、自分とは比較にならない、二百年以上前からと八百年以上前に生まれた歴史を抱えた存在であることを。
人面犬は、その場に立ち尽くし、そして次の瞬間。
脱兎の如く、その場から逃げ去っていった。
そのあまりにも静かで、そしてどこまでも一方的な「撃退劇」。
その一部始終は、監視カメラにももちろん録画されず、機械警備のセンサーや、警備会社のAIにも、一切認識されることなく、ただ、そこに、あっただけだった。
春の、その冷たい夜風だけが、その二人の美しき「番人」の、その静かなる「勝利」を祝福するかのように、静かに吹き抜けていくのであった――。
***
日本標準時4月13日午後7時40分。
その夜、東京の片隅では、一人の男が孤独な戦いを続けていた。
人面犬という、あまりにも不可解な「存在」を前に、どうして良いか分からず、ただ悩んでいる荒垣砕。
そのあまりにも現実とかけ離れた、「苦悩」の裏側で。
一人の少女は、静かに、そして楽しげに、新たなる「遊戯」を始めていた。
蒼穹キネマでは、その主であるリリアが、自らの私室で、一枚のタブレット端末を見つめていた。
彼女は、数時間前、佐藤がエミリアの指示で、あのエミリアの莫大な資金を必死に『AI』で運用しようとしていたのを思い出し、そして自らもまた、その「仕組み」に興味を抱いたのだ。
(…ええ。わたくしの『鑑定眼』が最強なのは間違いありません。ですが、自分も一度、あの『オープンソースのAIで資産を運用する』というノウハウを、きちんと学んでみようかしら)
彼女は、その『鑑定眼』で、世界中に存在する無数のオープンソースのAIの中から、最も信頼性と効率の高い、一つのプログラムを選び出し、そして、今日、エミリアとのあの『暗号資産のスキャルピング』で稼いだ、ささやかな『資金』を使い、その資産運用を静かに開始してみた。
AIは、恐るべき速度で、世界の金融市場を分析し、一つの「最適解」を弾き出す。
しかし、リリアは、その「答え」を待たない。
彼女は、そのAIが導き出すであろう「未来」の全てを、自らの『鑑定眼』で一瞬にして分析しているのだ。
そして、彼女は静かに呟いた。
「…まあ。オープンソースのAIでは、所詮、この程度ですわね。これでは、世界中の優良企業の株式に、ただ分散投資するのと、大して変わりませんわね」
そのあまりにも平凡で、そしてどこまでも退屈な「結論」。
リリアは、そのタブレットの電源を静かに落とした。
彼女は、改めて自らの「力」の、その絶対性を再確認する。
そして、同時に思うのだ。
(…やはり、わたくしの隣には、サトウさまが必用ですわ。このあまりにも退屈な世界を、少しでも面白くしてくださる、あの方だけが…)
春の、その美しい夜景だけが、その若き女王の、そのあまりにも壮大で、そしてどこまでも個人的な「結論」を、静かに祝福しているだけだったのである――。
***
日本標準時4月13日午後7時50分。
箱庭の雑居ビル周辺の、その薄暗い路地裏で、荒垣砕弁護士が、先ほど取り逃がした『人面犬』の対処方法を思いつけなかった自分の不甲斐なさに、一人舌打ちをしていた、その時だった。
ガサリ、と物陰から、一つの「影」が現れた。
先ほどの人面犬だった。
彼は、あの月白盃と薄氷刃の付喪神から逃げ惑い、そして再びこの場所へと戻ってきてしまったらしい。
その瞳には、先ほどまでの不気味な光はない。
ただ、怯えと混乱の色が浮かんでいるだけだった。
そのあまりにも哀れな「獲物」の姿。
荒垣のその戦闘狂としての魂は、完全に冷え切っていた。
彼は、深いため息をつくと、自らのスマートフォンを取り出し、そして警察へと電話をかけた。
彼は、もはや戦うことを選ばなかった。
ただ、一人の善良な「市民」としてその『義務』を果たすことを選んだのだ。
「――ええ、弁護士の荒垣ですが。…どうやら、『迷子の大型犬』が、怯えて動けなくなっているようですので、至急、保護していただきたい」
彼は、そう言って、警察(または保健所)に淡々と届け出る。
その後の顛末は、あまりにも事務的だった。
駆けつけた警察や保健所を経由して、その奇妙な生物は、とある動物愛護団体が丁重に保護・収容することとなった。
もちろん、動物保護団体の関係者は、そのあまりにも珍しい顔つきの個体に首を傾げたが、まさか、それが「人面犬」であるなど知る由もない。
彼らは、ただ『少し顔つきの変わった、大型の雑種犬』と判断して、そして他の保護犬たちと同じように、「人面犬」を保護しながら、数日後、狂犬病のワクチンと、そして去勢手術を、人道的な観点から実施してしまったのだ。
こうして、人面犬は、その肉体的な「力」と、そしてその種の存続の「可能性」を、完全に奪われ、安全に社会から静かに隔離されてしまった。
彼が夢見ていた『若い人間の女性の血を飲むことで、人間に近づける』という、壮大な目的が、こうして完全に阻止され、彼は、ただの穏やかな「雑種犬」として、その余生を静かに過ごすことになった。
そのあまりにも物悲しい結末を、もちろん、荒垣砕は知らない。
彼は、ただその胸の内に、どうしようもない「欲求不満」だけを抱えながら。次なる「戦場」を求めて、再び夜の街へとその姿を消していくのであった――。
***
日本標準時4月13日午後8時。
新大阪駅近くの、タワーマンションに設置する、大阪『統括作戦室』にて。
その真新しいオフィスには、静かな、しかし、どこまでも張り詰めた空気が流れていた。
ジェシカ・オコネルと、彼女が率いるチームの面々。
そして、彼女たちをサポートするために、世界中から集められた十数名のプロフェッショナルたち。
彼らは、その記念すべき『統括作戦室』の本格的な『運用開始』の初日を迎えていた。
壁一面に設置された巨大なディスプレイには、世界のありとあらゆるニュースとリアルタイムの衛星写真、そしてリリアの専用情報機関から、絶え間なく送られてくる、膨大な情報が、美しい滝のように流れ続けていた。
ジェシカは、その情報の奔流を、そのヘーゼル色の瞳で静かに見つめている。
彼女の新たなる「仕事」は、始まったのだ。
しかし、その「仕事」は、彼女たちだけのものではなかった。
その日の夕方。
レオナルド・アシュフォード率いる、あの『公邸監査チーム』が、予告通り、そのオフィスへとやってきた。
彼らは、事前に通告していた、あのあまりにも屈辱的な『監視』の設定を、淡々と、そして次々と、完璧に終わらせていったのだ。
オフィスには、特殊な『封印』が施された、監視カメラと集音マイクが設置され、そしてジェシカのデスクには、一枚の分厚い「契約書」が置かれていた。
そのあまりにも緊張感に満ちた『開所式』と、そして『開所日、初日』を終えようとしていた。
最後の監査チームのメンバーが退室し、オフィスには再び静寂が戻ってくる。
ジェシカは、その天井の隅に設置された、小さな監視カメラを一瞥すると、その美しい顔に獰猛な笑みを浮かべた。
「Lady Lilia Astir. And Lord Ashford. Watch closely. I shall perform the most exquisite 'dance' within this very 'cage.'(リリア・アスター。そして、レオナルド・アシュフォード。よく見ていなさい。この『鳥籠』の中で、最高の『ダンス(完璧な仕事)』を、披露してみせるわ)」
春の、その美しい夜景だけが、その天空の城で繰り広げられる、新たなる「プライド高い仕事」の始まりを、祝福するかのように、キラキラと輝いているだけだったのである――。
***
日本標準時4月13日午後8時すぎ。
その夜、東京と大阪で、全く異なる「物語」が静かに進行していた。
東京では、一体の『人面犬』という奇妙な怪物が、戦闘狂の弁護士荒垣砕によって、ただの「迷い犬」として警察に淡々と届け出られ、そして動物保護団体に無事に『保護』されるという、新しいストーリーが始まり、大阪では、リリアの新たなる「帝国」の心臓部である大阪『統括作戦室』という、もう一つの『怪物』が静かに動き出した頃。
――その頃。
リリアは、自らの城である『蒼穹キネマ』の書斎で、静かに思考の海に沈んでいた。
(…大阪、ですわね)
彼女は、大阪といえば、と、一つの小さな「投資案件」を思い出していた。
そう。
『月虹ステラ』。関西の女子大生たちで構成された、あの、儚く、そして知的な輝きを放つ、五人組のアイドルグループ。
彼女は、その手元のタブレット端末で、彼女たちの最新の活動報告書を呼び出した。
そして、『鑑定眼』を使って、その一人一人の「才能」と、そして彼女たちを管理する、自らの秘書、影山螢との「関係性」を、改めて再認識していた。
(…ええ。螢は、完璧な仕事をしていますわね。彼女たちとの間に、一切の私情を挟まず、ただビジネスとして、最高の結果を引き出している。…素晴らしい)
そして、彼女はふと、先ほど自らが行ったささやかな「実験」を思い出した。
あの、オープンソースのAIで、本日、エミリアとの暗号資産のスキャルピング対決で稼いだ自らの資産を運用するという試み。
(…あのAIは、単体ではあまりにも平凡で退屈な結果しか生み出しません。ですが…)
彼女の、その美しい唇に、悪魔のような笑みが浮かぶ。
(もし、あの『AI』が生み出すささやかな『利益』の、その一部を利用して、この『月虹ステラ』をさらに支援したら、それは、どんな面白いものかしら?)
彼女は、そう考えてみる。
退屈な「AI」と、儚い「アイドル」。
その二つの、全く異なる「駒」を結びつける、という新たなる「遊戯」。
彼女は、その完璧な「計画」に満足げに頷くと、早速、その「指令」を螢へと送った。
「――螢。わたくしが先ほど設定したオープンソースのAIが稼ぐ、投資収益の5%。今後、全て、月虹ステラの活動資金に回しなさいな」と。
そのあまりにも気まぐれで、そして、どこまでも一方的な「決定」。
その「決定」が、やがて、五人の少女たちの「運命」を、大きく揺り動かすことになるのを。
もちろん、彼女自身は、まだ、知る由もなかったのである――。
***
リリアが、その気まぐれな「思いつき」を螢に告げた、その数分後。
影山螢は、自らのデスクで、一つの完璧な「事業計画書」を完成させていた。
『――月虹ステラ、活動支援計画案』。
リリアからの、あまりにも抽象的な「指令」――AIの利益の5%――を、彼女は、あっという間に、具体的な数字と戦略へと組み立てていたのだ。
(彼女たちの学業を最優先しつつ、その活動を最大化するためには、移動時間の短縮が不可欠。ならば、交通費は惜しまない。そして、メディアへの露出。いきなり全国区ではなく、まずは地元のコミュニティFMで確実なファン層を掴む。最後に、クリーンな『イメージ』の確立。地域貢献活動への積極的な参加)
彼女が作り上げたのは、もはや「支援策」ではなかった。
一つの無名な、地域で活動するアイドルグループを、スターダムへと押し上げるための、完璧な「ロードマップ」だった。
彼女は、その計画書をリリアへと提出し、その承認を得ると、すぐに一本の電話をかけた。
相手は、『月虹ステラ』のリーダーである一ノ瀬咲だった。
螢は、その電話の向こう側で息を呑む少女に、淡々と、そしてどこまでも事務的に、その信じがたい「支援」の内容を伝えた。
「――以上が、リリア様からのご意向です。つきましては、明日、改めて、詳細な契約書を、お送りしますので、ご確認の上、ご返信を」
電話を切った後も、咲はしばらくその場に立ち尽くしていた。
そして、彼女は震える指で、SNSのグループチャットに、その衝撃の事実を打ち込んだ。
「――みんな、聞いて。…とんでもない、ことに、なった」
そのチャット欄は、瞬く間に歓喜と驚愕の渦に包まれた。
「うそやん!」と叫ぶ心。
「…どういうことですの?」と、冷静に問いかける楓。
「…泣きそう…」と呟く潮。
そして、その予算で何ができるかを、恐るべき速度で計算し始める、理子。
全員が、そのあまりにも規格外の支援に驚きながら、しかし、彼女たちの心は一つだった。
この千載一遇のチャンスを、絶対に掴むため、自分たちの全てを賭けて努力する、と。
リーダーである、咲の『やるで!』という、その一言で、彼女たちの報告は一致する。
影山螢という、一人の完璧な「秘書官」が届けた「メッセージ」。
それは、五人の少女たちの、そのささやかな「夢」を、一夜にして、あまりにも眩い「現実」へと変えてしまった。
彼女たちの、本当の「物語」は、今、まさに、始まろうとしていたのである――。
***
日本標準時4月13日午後8時20分。
『住処』にて。
その要塞のような建物の中は、温かい光と、そして佐藤の手作りの、優しい夕飯の香りに満たされていた。
食後の片付けも終わり、歯を磨いたエミリアは、リビングのソファに深く身を沈め、そして隣に座る佐藤へと問いかけた。
「ねえ、健ちゃん。次の私たちの『仕事』として、なにか、面白い『アイデア』は、ないかしら?」
そのあまりにも的を射た、しかしどこまでも無邪気な質問。
(もちろんエミリアの『大阪拠点構想案』は、まだ佐藤には、完全に秘密にしている)
エミリアは、その問いを誤魔化すように、悪戯っぽく笑った。
「あら、健ちゃん。心配してくれているの? 大丈夫よ。私には、とっておきの『計画』があるわ」
「え、本当!?」
「ええ。松田刑事が、あの無能な上司のせいでさっさと警視庁をクビになったら、彼をスカウトするの。もちろん、危険手当なし、ボーナス無し、福利厚生なし、昇給なし、法律ギリギリの『最低賃金』で、彼が倒れるまで定年無しで、とことんこき使う予定なのだけど、残念ながら松田刑事がまだ警視庁をクビになっていないのよね」
そのあまりにも非道な冗談ぽく伝えられた言葉。
それを聞いた佐藤が、心の底から笑った。
「もう、エミリア。まだ、その『冗談』を使っているの?」
その和やかに、エミリアと笑いあう、穏やかな時間。
しかし、エミリアのその心の中では、全く別の思考が渦巻いていた。
(ええ、本気よ、健ちゃん。あの男には、これまでさんざん、私をタダ働きさせてくれた『恩』があるもの。そのお返しはきっちりとさせてもらわないと…)
彼女は、その黒い本音を、完璧な笑顔の下に隠し、そして、ただ愛する男との穏やかな時間を楽しんでいる。
そのあまりにも残酷で、そしてどこまでも滑稽な真実を。
もちろん、彼自身は知る由もないのである。春の、その美しい夜景だけが、その二人の男女の、そのあまりにもかけ離れた「日常」を静かに見下ろしているだけだったのである――。
***
日本標準時4月13日午後8時30分。
漆黒の闇に包まれた、紀伊半島の沖合。
その荒々しい黒潮が渦巻く海の上を、一隻の白い船が滑るように進んでいた。
チーム『セレノファイル』が乗り込む、スーパーヨットである。
その船体には、国際法で定められた、最低限の航行灯以外、一切の光はない。
音もない。
ただ、その鋭利な船首が波を切り裂く、その音だけが静かな夜の海に響き渡っている。
それは、もはや「船」ではなかった。
夜の海を駆ける、一匹の美しく、そしてどこまでも獰猛な「怪物」だった。
しかし、その静かな外観とは裏腹に。
その「怪物」の腹の中――CIC(戦闘情報センター)――は、静かな熱気に包まれていた。
情報分析班の天才たちが、その壁一面のモニターに映し出された、膨大なデータを分析している。
大阪湾の気象情報、海流データ、そして、周辺を航行する全ての船舶の情報。
指揮官である、東欧出身の元・数学者は、その全ての情報を一瞥すると、静かに、そして的確な指示を飛ばしていく。
「――第三班。大阪湾、到着後、三十分以内に、水中ドローン『人魚』の展開準備を完了させなさい」
「――第五班。ジェシカ・オコネル氏との、通信回線の最終チェックを開始」
彼女たちの、その完璧な「仕事」ぶり。
それは、東京のオフィスで繰り広げられている、あのあまりにも人間臭い「日常」とは、全く無縁の世界だった。
彼女たちは、ただひたすらに、自らの「任務」を遂行する。
主君、リリア・アスターの、その新たなる「城」を守るために。
春のその美しい月だけが、その西へと向かう、白い怪物の、その静かなる「航海」を祝福するかのように、キラキラと輝いているだけだったのである――。
***
日本標準時4月13日午後8時40分。
『住処』の二階にて。
エミリアが、先ほどの佐藤と、あの松田刑事の件で、ひとしきり盛り上がった後、彼女はふと、その思考を未来へと向けた。
彼女のその美しい瞳が、隣に座る愛しい佐藤をじっと見つめる。
その瞳は、もはや恋する女性のものではなかった。
冷徹な「司令官」の、それだった。
「…ねえ、健ちゃん」
「何、エミリア?」
「あなた、そういえば、部下を持つ前に、あの銀行をクビになったのよね」
そのあまりにも唐突な確認。
「そして、今も、表向きはリリアさんが、あなたの『秘書』として、あなたの指揮下で働いているはずなんだけど、その実態は、どう見てもリリアさんが、健ちゃんを一方的に『指導』している、という立場なのよね」
そのあまりにも的確な「分析」。
エミリアは、その美しい顎に手を当て、そして真面目に考え込んでしまった。
「…ダメね。このままでは、あなたの成長にならないわ。健ちゃんにも、いきなり『部下』を持つのは無理だけど、せめて『健ちゃんに絶対の忠誠を誓い仕える、あなただけの『組織』でも、一つ作って、その中で『人の上に立つ』という経験を本格的にさせたほうが、良いのかしら?」
そのあまりにも突飛な、そしてどこまでも真剣な「提案」。
佐藤は、その言葉の意味を、一瞬理解できなかった。
「え…? そ、組織…ですか?」
彼のそのあまりにも純粋な問い。
エミリアは、その美しい顔に獰猛な笑みを浮かべた。
「ええ、そうよ。あなたの、その類稀なる『分析能力』と『優しさ』。それを最大限に活かせる、あなただけの『チーム』を、ね」
そのあまりにも壮大で、そしてどこまでも物騒な「キャリアプラン」。
佐藤は、そのあまりにも突飛な、そしてどこまでも真剣な「提案」に、ただ背筋が凍るのを感じていた。
春のその美しい夜景だけが、その二人の男女の、そのあまりにもかけ離れた「未来予想図」を、静かに見下ろしているだけだったのである――。
***
日本標準時4月13日午後8時50分。
『住処』の二階にて。
その要塞のような建物の中は、温かい光と、そして佐藤が淹れた、香りの良いハーブティーの香りに満たされていた。
エミリアは、そのソファに深く身を沈め、そして自らが先程口にした「計画」について、思考を巡らせていた。
――佐藤健に、仕える、彼だけの「組織」。
彼女の、その軍人としての頭脳は、いくつかの候補を瞬時に思い浮かべたが、しかし、そのどれもしっくりとこない。
候補1:『国際危機評価機関』。
(…ダメね。これでは、部下が、あまりにも優秀な人材だらけになって、健ちゃんは、ただ、彼らが作り上げた、完璧なレポートに判を押すだけの『お飾り』となってしまうわ)
候補2:『特殊ロジスティクス管理チーム』。
(…これも違う。専門的すぎて、健ちゃんが口を挟む余地がない)
候補3:『コンプライアンス監査組織』。
(…論外ね。彼が逆に監査されて終わるだけだわ)
そう。どの選択肢を選んでも、佐藤の「経験を積むには、あまりにも物足りない」。
エミリアは、そう考え、そしてふと視線を上げた。
その視線の先には、彼女が飲み干したカップを、何も言わずに片付けようとしている、佐藤の姿があった。
その、あまりにも自然で、そしてどこまでも優しい「気遣い」。
その瞬間。エミリアの頭の中で、全てのピースが繋がった。
(…そうね。私は、根本的に間違っていた。彼に必用なのは、優秀な『プロフェッショナル』の集団ではない。彼に必用なのは、彼にしか手懐けることのできない『じゃじゃ馬』たちだわ)
彼女の脳裏に、これまでに佐藤が、無意識のうちに「手懐けて」きた、数々の顔が浮かぶ。
巫女、占い師、アイドル、そして二人組ほか多数の女性たち。
その誰もが、常識では測れない「才能」と、そして「問題」を抱えている。
エミリアは、その美しい顔に獰猛な笑みを浮かべた。
彼女はついに見つけたのだ。
佐藤健という男の「才能」を最大限に引き出し、そして彼を真の「リーダー」へと育て上げるための、究極の「計画」を。
それは「組織」ではない。
一つの「動物園」。
あるいは「サーカス団」。
常識外れの「怪物」たちを、佐藤健という、唯一無二の「猛獣使い」が、その優しさだけで束ねていく。
(…ええ、素晴らしいわ。これこそが、健ちゃんだけの、そして健ちゃんにしか作れない『王国』よ)
そのあまりにも壮大で、そしてどこまでも悪趣味な「人事計画」。
その計画の最初の「一頭」として、白羽の矢が立てられるのが、あの哀れな中年刑事である、という事実を。
もちろん、佐藤自身はまだ、何も知らないのである――。
***
日本標準時4月13日午後9時。
『住処』の二階にて。
その要塞のような建物の中は、温かい光と、そして佐藤が淹れた、香りの良いハーブティーの香りに満たされていた。
エミリアは、そのソファに深く身を沈め、そして自らが先ほど思いついた、壮大な「計画」について、さらに思考を巡らせていた。
――佐藤健に仕える、彼だけの「組織」。
その記念すべき最初の「一頭」として、彼女は白羽の矢を、あの哀れな中年刑事に立てたが、しかし、彼女はすぐに、その計画の致命的な「欠陥」に思い至った。
(…よく考えてみれば、もし、あの松田刑事が本当に佐藤の部下として、この組織の一員になったとしたら。彼が健ちゃんのそばに毎日うろちょろするとなれば、必然的に、私は毎日、あのむさ苦しい松田の顔を見ることになる、ということ…?)
そのあまりにも恐ろしい「現実」。
エミリアは、「…うっ…」と小さく呻くと、それは流石に精神衛生上『避けたい』と考え、あっさりと松田を、この計画から除外することにした。
(では、一体、誰が相応しいというの? 今まで、健ちゃんの周りで知り合った、あの賑やかな女性たちの中から、何人か選ぶというのも、悪くはないけれど…)
彼女の脳裏に、巫女、占い師、アイドル、そして二人組ほか多数の女性たちの顔が浮かぶ。
(…ダメね。あれだけあからさまに健ちゃんに好意を示す女性たちでは、まともな上下関係など築けるはずがない。これでは、ただの『ハーレム』じゃないの。健ちゃんの、リーダーとしての『教育』に全くならないわ)
良いアイデアだとエミリア自身も思うが、いざ、その『佐藤のための、組織』を具体的に作るとなると、その人選はあまりにも難しいと、彼女は思う。
強すぎても、ダメ。
弱すぎても、ダメ。
そして、何よりも、佐藤に懸想しても、ダメ。
そのあまりにも厳しすぎる「条件」。
エミリアは深いため息をついた。
彼女は、その人生で、初めてかもしれない。
自らの「力」では、どうにもならない「難問」に直面していた。
愛する男を成長させたい。
しかし、その成長の過程で、彼が自分以外の、誰かに心を奪われるのは、絶対に許せない。
そのあまりにも矛盾した、そして、どこまでも人間的な「愛情」。
春のその美しい夜景だけが、その最強の女王の、そのあまりにも可愛らしい「悩み」を、静かに、そして優しく見守っているだけだったのである――。




