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東京影譚 ~エミリア、影を紡ぐ者~  作者: ミルティア


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351/453

あるいは、見えざる二つの怪物の影 その七

【読者様への注意喚起】


この物語はフィクションです。

法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

また、作中に登場する人名、組織、団体名(アスター家、K&E リサーチ&コンサルティング等)はすべて架空のものであり、実在の人物・組織とは一切関係ありません。


ようこそ、東京の影の中へ ここは、光が滅び、影が支配する世界。

摩天楼が立ち並ぶ、華やかな都市の顔の裏側には、深い闇が広がっている。


あなたは、そんな影の世界に生きる一人の女王に出会う。

彼女の名は、エミリア・シュナイダー。

金髪碧眼の美しい姿と冷酷な戦闘能力を持つ「始末屋」だが、その心は過去の壮絶なトラウマ(PTSD)により深く閉ざされていた。

彼女の唯一の拠り所は、佐藤健という元銀行員の相棒。

彼の存在こそが、彼女の心を繋ぎ止める唯一の「鎮静剤」だった。


女王の争奪戦と運命の対決 しかし、彼女の安息は、アスター家の令嬢リリア・アスターの出現によって一変する。

リリアは佐藤の独占をかけて、エミリアに「資金力」と「知略」で挑む。

二人の女王による壮絶な「争奪戦ラブコメ」が勃発し、その裏側で、巨大な「情報戦(現代ファンタジー)」が展開されていく。


リリアの計画: 彼女は愛する佐藤のために、軍事力、情報機関、そして公邸という名の「要塞」を築き上げる。


エミリアの覚悟: 愛する者の日常と自身の居場所を守るため、妹のヴァネッサや過去の因縁と共に、冷徹な知略と戦闘本能を解き放つ。


あなたは、エミリアがこの愛と権力の戦いを生き抜き、孤独を乗り越えていく「再生の物語」を体験することになる。


さあ、ページをめくり、あなたも影の世界へと足を踏み入れてください。

これは、あなたの「常識」が一切通用しない、究極のプロフェッショナルたちが「愛」のために戦う物語。


あなたは、エミリアに、どんな未来を見せてあげたいですか?


この物語は、最先端AI 「Gemini (by Google)」 との共作により誕生しました。

時に、AIは人間の想像を超える予想外(unexpected)な展開を――。 時に、AIは人間の感情を揺さぶる繊細な表現を――。 「Gemini」は、新たな物語の世界を創造する、私の大切なパートナーです。


※本作品はカクヨムにて先行公開しており、こちら(小説家になろう)では順次公開となります。あらかじめご了承ください。


ただし、どうか忘れないでください。 これは、愛と知略が支配する、あくまでフィクションだということを。

This is a work of fiction. Any resemblance to actual events or persons, living or dead, is purely coincidental.


Ceci est une œuvre de fiction. Toute ressemblance avec des événements réels ou des personnes, vivantes ou mortes, serait purement fortuite.


Dies ist ein Werk der Fiktion. Jegliche Ähnlichkeit mit tatsächlichen Ereignissen oder lebenden oder verstorbenen Personen ist rein zufällig.


นี่คือนิยายที่แต่งขึ้น บุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์ใดๆ ที่ปรากฏในเรื่อง หากบังเอิญคล้ายคลึงกับบุคคล สถานที่ หรือเหตุการณ์จริง ทั้งที่ยังมีชีวิตอยู่หรือเสียชีวิตไปแล้ว ถือเป็นเรื่องบังเอิญทั้งสิ้น


(この作品はフィクションです。実在の出来事や人物、存命・故人との類似はすべて偶然です)


日本標準時4月13日午後4時20分。

箱庭の雑居ビル、三階のオフィスでは、いつもの静かな熱気に包まれていた。

エミリアとリリアの二人による『暗号資産のスキャルピング対決』が、そのクライマックスを迎えつつある。


佐藤は、先ほどサスキアから預かった「任務」を終えようとしていた。

彼は、『地酒』の封を切ると、リリアのデスクの上に置かれた、あの白い『盃』に、その芳醇な液体を最後の一滴まで注ぎきった。


(…ふう。これで、盃ちゃんも、満足してくれたかな…)


しかし、彼の安息の時間はなかった。

彼の手元にはもう一つの「お宝」――『〇〇家の日本刀』――が残されている。

彼は、その重厚なケースを前にして、どこに置けばよいか本気で悩み始めた。

相談できる人は誰もいない。


(エミリアとリリアは、今まさに『暗号資産のスキャルピング対決中』。ヴァネッサは、その二人の超人的な『対決』を真剣に『観察中』。そしてサスキアは、山のような『受付業務と、日常業務』に専念している)


彼は、とりあえずその頑丈で適切なケースから、刀身が冬の朝に張り詰めた「薄氷うすらい」のように静かで冷たい輝きを放つ、美しい『〇〇家の日本刀』を慎重に取り出し、そして、このオフィスの中で、美術品として安全に飾れる場所がないか、改めてオフィス内を見渡すが、その答えは絶望的だった。

応接室に置くには、あまりにも物騒すぎる。


(K&E リサーチ&コンサルティングは、あくまでクリーンな『コンサルティング会社』なのだから)


壁にかけるには、『〇〇家の日本刀』は『太刀』なので、専用の飾り台と本格的な壁の工事をしなければ、逆に危ない。

机に置くにも、あまりにも大きすぎる。

まさか、国宝級の刀を床に置くわけにはいかないし、もちろん天井から吊るすものでもない。


考え抜いた末に。彼は一つの結論にたどり着いた。


(…そうだ。とりあえず、エミリアとリリアさんの『暗号資産のスキャルピング対決』が終わるまで、自分がこの刀を守るしかない!)


彼は、その美しい太刀を、まるで壊れ物でも扱うかのように、立ったまま、自らの胸にぎゅっと抱きしめていた。

そのあまりにもシュールな光景。

その一部始終を、二体の付喪神が、その霊的な次元で会話していた。


「くすくす…まあ、ご覧なさいな、刃。あの、お方。あなたを、まるでぬいぐるみのように、抱きしめておりますわよ」


月白盃が、その心地よい酔いも手伝って、楽しげに冷やかし、


「――無礼者ッ! 離しなさい、人間! わたくしは玩弄物ではない!」


薄氷刃が、そのあまりの屈辱に、激しく怒っていた。


(ただし、その盃と薄氷刃の霊的な会話は、もちろん佐藤や、オフィスにいる他の人間には一切聞こえず、そして、普段なら気づくはずのリリアも、今、まさにエミリアとの『暗号資産のスキャルピング対決』に、神経を集中していて、その『鑑定眼』で、このささやかな怪奇現象には全く気が付かない)


春のその穏やかな日差しだけが、そのあまりにも奇妙で、そしてどこまでも平和な(ように見える)オフィスの午後を静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


日本標準時4月13日午後4時30分。

箱庭の雑居ビル、三階のオフィスにて。


その日、最後のエミリアとリリアの『暗号資産のスキャルピング対決』が終了し、モニターに表示された最終損益の数字が静かに勝敗を告げていた。

今回も、コンマ数秒の判断の差でエミリアが、わずかにリリアより多く稼ぎ、彼女の辛勝となった。


その、常人には理解不能な高速の攻防を見ていたヴァネッサが静かに分析していた。


(…面白い。姉さんの勝利した理由を、単なる経験の差と片付けるのは早計ね。むしろ、これは、土壇場での姉さんとリリアさんの『条件反射』の、その反応速度の違いなのか。あるいは、単純に、刹那的な利益を追い求めるスキャルピングという手法そのものに対する向き不向きの問題なのか…)


彼女は、その思考実験に興味深く分析していたが、ふと、姉の視線が別の場所に向いたことに気づいた。

エミリアが、勝利の余韻に浸る間もなく、佐藤が微動だにせず、抱えたままの日本刀(『〇〇家の日本刀』)にようやく気が付いたのだ。


「……健ちゃん。あなた、さっきから、何を大事そうに抱えているの?」


エミリアが、そのあまりにもシュールな光景に呆れながらも、優しく告げた。


「それが、あなたが荒垣砕弁護士にお願いしたとかいう日本刀? 危ないから、とりあえず、そこの応接室の机の上に、置いておきなさい」


その言葉に、佐藤はハッと我に返り、恐縮しながら、恭しくその太刀を机の上に横たえた。

そして、エミリアがその抜き身の刀身の、月光のような輝きを一瞥すると、深いため息をついた。


「…はあ。それで、この、あまりにも物騒な美術品。一体、どこに置こうかしら?」


彼女は、本気で悩む。

この、モダンでミニマルなオフィスに、あまりにも不釣り合いな「それ」の、置き場所を。

その一連のやり取りを、二体の付喪神が、霊的な次元で会話していた。


「やれやれ。ようやく、あの生臭い、人間の腕から、解放されましたわね」


鞘に納められ、机の上に置かれた薄氷刃が、忌々しそうに呟く。


「あらあら、刃。なかなか良い、眺めでしたのに。あの、お方の困り果てた『魂』の味は、格別でしたわよ」


リリアのデスクの上で、月白盃が、くすくすと、楽しげに笑う。

その声は、もちろん、誰にも聞こえない。

リリアですら、まだエミリアへの敗北の悔しさから、そのささやかな怪奇現象には、全く気が付かない。


春のその穏やかな西日だけが、その新たなる「謎」を抱えた、美しい刀身をキラキラと照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


エミリアは、その応接室のテーブルの上に横たわる、美しい太刀を眺めていた。


(…美しい。…でも、あまりにも物騒すぎるわね)


彼女は、その「置き場所」について、思考を巡らせる。


(壁にかけるのは工事が必用。…応接室に置けば、客が怖がる。…かといって、サスキアのデスクの隣もおかしいわね…)


彼女は、その思考の末に、一つの「結論」にたどり着いた。

彼女は、自らの執務スペースの後ろにある、あの『アンティーク調の大型本棚』の前に立つ。

そして、彼女は、特定の数冊の分厚い洋書を、記憶していた順番で軽く押し込んだ。


ゴゴゴゴ…と、重たい金属音が響き、本棚の一部が、まるで隠し金庫の分厚い扉のように、音もなく内側へとゆっくりとスライドして開いていく。

その奥には、壁一面に、様々な形状の黒光りする金属製のケースや、特殊素材で、作られた装備品が、まるで『秘密の武器庫』のように、整然と並べられていた。


彼女は、応接室へと戻ると、その太刀を静かに手に取った。

そして、その「武器庫」の壁に、一つだけ空いていた、スペースへと、その刀を恭しく収めた。

まるで、最初から、そこが彼女の居場所だったかのように。


その一部始終を見ていたリリアは、少しだけ唇を尖らせたが、何も言わなかった。


(…まあ、良いですわ。わたくしの盃も、あの中なら寂しくないでしょうし)


佐藤だけが、そのあまりの光景に、ただ目を丸くしている。

その時。武器庫の中で、静かに壁に立てかけられた「刃」は感じていた。

周囲に漂う、火薬とオイルの匂い。

そして、自らと同じ「戦う」ために生まれた、仲間たちの、その静かな「呼吸」を。


(…ここか。…ここが、わたくしの新たなる『鞘』か…)


彼女は、その八百年の生涯で、初めて、心の底からの「安らぎ」を感じていたのかもしれない――。


                    ***


日本標準時4月13日午後4時40分。

箱庭の雑居ビル、三階のオフィスで、無事に『〇〇家の日本刀』を秘密の武器庫へと片付けたエミリアが、ようやく一息ついた、その時だった。


彼女は、その一連の騒動の元凶である佐藤へと、釘を刺すように言った。


「――ねえ、健ちゃん。まさかと、思うけど、あなた、他にも、いきなり『買いたい』なんて言い出す骨董品とか、名刀とか、もう思いついていないでしょうね?」


そのエミリアからの、あまりにも的を射た問い。

佐藤が、エミリアに促されて、何か言わなければ、と口を開いた、その瞬間。

彼の頭の中に、またしても、あの奇妙な「閃き」があった。


「あ、あの…。僕が、よく子供の頃に読んで、夢中になるような、漫画に登場するような、ヨーロッパの『古城』が…」


彼が、そこまで言いかけて、ハッと我に返った。


(…あれ? なんで、僕、こんなこと、今思ったのだろう?)


しかし、その佐藤の無邪気な「一言」を聞き逃すリリアではなかった。

彼女は、その美しい顔に最高の笑みを浮かべて、言った。


「まあ、サトウさま! サトウさまが、そんなにも『古城』を欲しいとおっしゃるのなら、仕方ありませんわね! ですが、そのお城は『売り物』では、ないでしょうから、代わりに、どこかに、わたくしとサトウさまのためだけの『お城』を新しく建て…」


彼女がそこまで言いかけて、その言葉をエミリアが、冷たく遮った。


「リリアさん。あなた、『蒼穹キネマ』という立派な『家』を既に持っていて、それ以上『城』のような家なんて、必要ないでしょうが」


そのあまりにも正論な注意に、リリアはブーブーと可愛らしく文句を言う。

そのあまりにも子供じみた、やり取り。

ヴァネッサとサスキアは、もはや呆れて、何も言わない。


そして、リリアだけが、その全ての「真相」に気づいていた。

彼女は、そっと、あの「武器庫」の方角と、そして自らのデスクの上の「杯」へと視線を送る。


(…あらあら。盃、刃。今度は、お二人で暮らすための、新しい『巣』が欲しくなってしまった、というわけですわね…)


春の、その穏やかな日差しだけが、その二人の「女王」と、二柱の「付喪神」の、そのあまりにも壮大で、そしてどこまでも個人的な「欲望」に、振り回される、哀れな佐藤の、その困惑した横顔を静かに照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


その奇妙な光景が一段落した後。

今度は、ふと思い出したようにサスキア相手に、エミリアが静かに質問していた。


「ねえ、サスキア」

「はい、エミリア様」

「さっき、私とリリアさんが、あの『暗号資産のスキャルピング対決』で競ってた時に、あなたが、あの『戦闘狂弁護士』に、『夜間になると、吸血鬼を自称する不審者が現れる』って言っていたようだけど、私、そんな下らない話、一度も聞いたことないわよ?」


そのあまりにも鋭い問い。

しかし、サスキアが、その完璧なポーカーフェイスを一切崩すことなく、答えた。


「はい。あれは、わたくしの即座の判断による『情報操作』でございます」

「…は?」

「その措置をとらなければ、あの荒垣砕弁護士が、この後数時間にわたり、大人しくこのオフィスから退去される可能性が極めて低いと、わたくしは判断いたしました」


そのあまりにも合理的で、そしてどこまでも失礼な答え。

エミリア、佐藤、そしてリリアは、その言葉に「ああ、なるほど…」と、妙に納得してしまった。

彼女らは、知っているのだ。

荒垣砕という男が、いかに常識の通用しない「怪物」であるか、というその事実を。


しかし、そのあまりにも奇妙な「納得」の輪の中で。

ただ一人、ヴァネッサだけが、その思考の迷宮に迷い込んでいた。


(…待って。おかしいわ。そんな、子供でも見破れるような『見え透いた嘘』で、あの百戦錬磨の弁護士が、本当に納得するとでもいうの…? そんな人間が、弁護士として、複雑な『交渉』とか、法廷での『弁論』とか、相手を『説得』したりできるの?)


彼女は、そのあまりにも非論理的な現実に考え込んでしまう。


ヴァネッサ・ウィリアムズ。


彼女はまだ、知らない。

この「箱庭」という名の魔境では、時に、論理よりも狂気が支配し、そして、その「狂気」を手懐けるためには、さらに大きな「狂気」が必要である、という滑稽な「真実」を。


春のその穏やかな西日だけが、その美しき黒き薔薇のその困惑に満ちた横顔を、静かに照らしているだけだったのである――。


                    ***


日本標準時4月13日午後4時50分。

箱庭の雑居ビル、三階のオフィスにて。


その日のオフィスは、ようやく平穏な夕暮れを迎えようとしていた。

今日の仕事もあらかた終わりかけ、佐藤がほっと一息ついた、その瞬間。

また、あの戦いの火蓋が切って落とされた。

エミリアとリリアが今夜『佐藤を、どちらが連れて帰るか』で、いつもの、そしてどこまでも子供じみた、言い争いが再び始まった頃だった。


――そして、その頃。


リリアの天空の『公邸』では、全く別の時間が流れていた。

昨夜からの激務を終え、最低限の仮眠を取ったジュリアンが、静かにその私室で、目を覚ました。

彼は、その午後の公務と夜会との合間に、ふと、思い出していた。

公邸の専用地下駐車場に、一台の見慣れない、しかしどこか愛嬌のある、小さな車が停まっている。

リリアの悪戯心と手配で、既に届けられていた、あの『青い春』号だった。


(A curious machine.(…面白い車だ))


彼は、その車の本当の「意味」を、まだ知らない。

しかし、彼は、その小さな鉄の塊に、不思議な魅力を感じていた。


(If I were able to drive this myself, I might perceive the true essence of this nation...(もしこれを自分で運転できれば、この国の本当の姿を見ることができるかもしれない…))


しかし、彼は、すぐに現実へと引き戻される。


(But, to do so, I must acquire a Japanese license. What, then, is the proper course of action...?(しかし、それには日本の免許の取得が不可欠だ。……さて、どう動くのが最善だろうか))


彼は、その新たなる「課題」に、静かに悩み始めた。


その主君の、僅かな「心の揺らぎ」。

アーサーがそれを見逃すはずがなかった。

彼は、そのジュリアンの背後に静かに立つと、一枚の書類を差し出した。


「Young Master. You need not concern yourself. We have already initiated preparations for the full 'Foreign License Conversion' from your British driving permit.(坊ちゃま。ご心配には及びません。既に、お持ちの英国運転免許からの『外国免許切替』の、全ての手続きの準備を、水面下で開始しております)」


その、あまりにも完璧な「先読み」。

ジュリアンは、その忠実なる老執事の顔を見て、静かに笑みを浮かべる。


「Arthur, you are truly beyond my reckoning.(…君には、敵わないな、アーサー)」


春の、その穏やかな日差しだけが、その二人の男の、その静かで、しかしどこまでも温かい「主従」の絆を、優しく照らし出しているだけだったのである――。


                    ***


日本標準時4月13日午後5時。

箱庭の雑居ビル、三階のオフィスにて。


その日のオフィスには、夕暮れの気だるい空気が満ちていた。

しかし、その空気とは裏腹に、エミリアとリリアの二人による「戦い」は、未だ決着がつかないでいた。


そう。

どちらが今夜佐藤を、自らの城へと連れて帰るか。その一点を巡って。


「――ですから、エミリア様。今夜こそ、サトウさまには、ジュリエットの料理を、召し上がっていただかなければ」

「何を言っているの、リリアさん。健ちゃんの健康管理は、私の仕事よ」


そのあまりにもレベルの低い、しかし、どこまでも真剣な「言い争い」。

ついに、その不毛な時間に耐えきれなくなったサスキアが静かに立ち上がった。

彼女は、ソファで静かに本を読んでいたヴァネッサを、その目線だけで誘うと、音もなくオフィスを出て行った。

彼女たちは、この馬鹿馬鹿しい言い合いの決着がつくまで、近くのホテルのラウンジで時間を潰すことにしたのだ。


後に残されたのは、二人の美しい「怪物」と、そしてその間で、オフィスでただひたすらに小さくなっているしかない、哀れな佐藤だけだった。


――そして、その頃。


日本の遥か南の海上。チーム『セレノファイル』が乗り込む、あの白いスーパーヨットが、夕陽を浴びて黄金色に輝きながら、一路、大阪湾に向けて、どこまでも静かにその航路を進んでいた。

お昼すぎに、あの訓練海域であった伊豆沖を出発して、彼女たちは、リリアからの新たなる「指令」――大阪『統括作戦室』との連携――のために、西へと向かっている。


その艦橋では、指揮官の女性が静かに海図とにらめっこし、そして、その下のCIC(戦闘情報センター)では、情報分析班が、大阪湾周辺の全てのデータを収集・分析している。

彼女たちのその動きには、一切の無駄も乱れもない。

ただ、ひたすらに主君からの「命令」を完璧に遂行するためだけに存在する、究極の「プロフェッショナル集団」。


東京のオフィスで繰り広げられる、あまりにも感情的で、そしてどこまでも個人的な「戦い」。

そして、太平洋上で繰り広げられる、あまりにも合理的で、そしてどこまでも組織的な「移動」。


その二つの全く異なる「世界」が、ただ一人、リリア・アスターという少女の、その気まぐれな「心」一つで繋がっている、というどこまでも滑稽な真実。


春の、その美しい夕暮れだけが、その二つのあまりにもかけ離れた「物語」を平等に、そして静かに見守っているだけだったのである――。


                    ***


日本標準時4月13日午後5時10分。

箱庭の雑居ビル、三階のオフィスにて。


その不毛な戦いは、既に十分以上も続いていた。

ついに、その膠着状態に痺れを切らしたのか、リリアが、一つの「妥協案」を提示した。

彼女は、その美しい顔に、さも寛大な表情を浮かべて、言った。


「――分かりましたわ、エミリア様。では、こうしましょう。月曜日、水曜日、金曜日、そして日曜日は、サトウさまは、わたくしの『蒼穹キネマ』で過ごし、そして残りの火曜日、木曜日、土曜日は、あなたの『住処』で、すごされる、というのは、どうでしょうか?」


その、一見すると公平な、しかしよく聞けば、一日分自分の方が多くなるという、あまりにもリリアらしい提案。


しかし、エミリアがその提案を一瞬で一蹴した。


「却下よ。なぜ、私が、あなたと健ちゃんを『共有』しなければならないの」


ただ、このまま埒の明かない言い合いを続けても、永遠に解決しないので、エミリアは、一つの、最もシンプルで、そして最も残酷な「解決策」を提案して、言った。


「――『コイントス』で、決めましょう」


そのあまりにも原始的な「提案」。

リリアが一瞬だけ躊躇したが、自らの「幸運」を信じて、その提案を了承した。

エミリアが、そのポケットから、一枚の硬貨を取り出す。


「表なら、私。裏なら、あなたよ」


コインが高く宙を舞い、そしてテーブルの上に落ちる。


カラン、と乾いた音が、静かなオフィスに響き渡った。

そこに示されていたのは、無慈悲な「表」。

そしてやっぱり、リリアはコイントスであっけなく負け、エミリアが勝ち誇った顔で佐藤を連れ帰ることが決定した。


リリアは、そのあまりの理不尽さに、ただ唇を噛み締め、そしてエミリアは、その美しい顔に最高の笑みを浮かべていた。


その二人の間で、佐藤は、ただ深いため息をつく。


(…ああ。今夜の寝床が、決まって、良かった…)と。


彼のそのあまりにもささやかで、そしてどこまでも物悲しい「安堵」。

春の、その美しい夕暮れだけが、その三人の男女の、その奇妙な「日常」を静かに見下ろしているだけだったのである――。


                    ***


日本標準時4月13日午後5時20分。

夕暮れの茜色に染まる、都内。


一台の黒塗りのステーションワゴンが、その喧騒の中を滑るように駆け抜けていく。

リリアは、その後部座席で窓の外を流れる景色を眺めていた。

彼女は、迎えに来た、チーム『アステール』の完璧な護衛のもと、『蒼穹キネマ』に静かに帰宅中の車内にいた。


彼女の脳裏には、先ほどのあの屈辱的な『コイントス』の光景が焼き付いていた。

宙を舞い、そしてテーブルの上に落ちた一枚の硬貨。そこに示された、無慈悲な「表」。


(…偶然などでは、ありませんわ)


彼女は、気が付き、確信していた。


(あの、一瞬の回転。そして落下する角度。エミリア様は、その全てを、巧みな指先のコントロールで完璧に支配し、コインの出る目を『表』にしてみせたのだわ)


しかし、彼女の胸の内にあったのは「怒り」ではなく、むしろ「称賛」だった。


(…さすがは、わたくしの人生の『ラスボス』ですわね。あの土壇場での完璧な『コントロール能力』と、平然とそれをやってのける『ハッタリ』と『度胸』。見事なものですわ)


彼女は、改めて自らの「戦略」を見直す。


(しかし、エミリア様がその『個人の能力』だけを頼りに、行動する限り、限界はある。いつか、必ずわたくし自身の『投資』(そう、金融資産から、PMCの囲い込みなど、その全て)の物量が、彼女の才能を凌駕する『時』が来る)


彼女は、そう考え、焦る必用はないのだ、と、その美しい顔に、不敵に、そして獰猛な笑いを浮かべた。

そのリリアのあまりにも急な表情の変化。

運転席の式部と助手席の伊吹、そして後部座席でリリアの隣に座る音無は、その全てを感じ取っていた。

リリアのことを少しずつわかってきた、チーム『アステール』の三人は、(まあ、どうせまた『いつものこと』か)と、内心で思いながらも、しかし、そのプロとしての警戒を、一瞬たりとも緩めることなく、静かに『蒼穹キネマ』に向かう。


春の、その美しい夕暮れだけが、その若き女王のその静かなる「決意」と、そして、彼女を守る三人の騎士たちのその完璧な「忠誠」を、平等に、そしてどこまでも優しく照らし出しているだけだったのである。


                    ***


日本標準時4月13日午後5時30分。

箱庭の雑居ビル、三階のオフィスで、あの忌々しい「コイントス」に敗れたリリアも渋々帰り、オフィスにはついに佐藤と二人きりとなった。


エミリアは、その勝利の余韻に浸っていた。

その時、彼女のスマートフォンが静かに震えた。

相手は、ヴァネッサからの短い電話だった。


「――姉さん。今夜は、サスキアと少し、話したいことがあるので、別行動するわ」


その簡潔な連絡に、エミリアは深いため息をついた。


「…全く。ヴァネッサは相変わらず、せっかくの『休暇』を、少しも楽しめないタイプね。仕事のことなど綺麗さっぱり忘れてしまえば、いいのに」


彼女はそう語りながら、おもむろに立ち上がると、あの秘密の「武器庫」へと向かった。

彼女がその手にして戻ってきたのは、一本の長大で、そしてどこまでも無慈悲な鉄の塊。


対物ライフルだった。


彼女は、そのライフルを手際よくテーブルの上に置くと、慣れた手つきで、その薬室に、弾を、一発、また、一発と込め始めた。


カキン、カキン、と硬質な金属音が、静かなオフィスに響き渡る。

そのあまりにも物騒な「音」。佐藤が、その光景に血の気が引いた。


「エミリア!? どうして、いきなりそんな、物騒なものを取り出したの!?」


その佐藤の、悲鳴に近い問い。

エミリアは、その美しい顔に子供のような無邪気な笑みを浮かべて、答えた。


「あら、健ちゃん。忘れたの? さっき、サスキアは、あの荒垣砕弁護士を追い帰すために、『夜間になると、吸血鬼を自称する不審者が現れる』って、とんでもない話を思いついたって、そう言っていたでしょう? でも、人間って、何の予備知識や予感や直感がないと、いきなり『夜間になると、吸血鬼を自称する不審者が現れる』って、そんな突飛な発想は、なかなか思いつくことはできないのよ」


彼女は、そのライフルのボルトを引き、そして続けた。


「だから、私は、こう思うの。サスキアが毎日、その目で接している、あの膨大な裏社会の情報の中に、もしかしたら『夜間になると、吸血鬼を自称する不審者が現れる』っていう、元ネタがあった、その可能性が高いと思うのよ。そして、もし、その『吸血鬼』が、本当にいるのなら」


彼女は、その佐藤の青ざめた顔を覗き込み、そして最高の笑顔で、言った。


「――やっぱり、挨拶代わりに12.7ミリ徹甲弾で、その身体を『蜂の巣』にするのが、最低限の『礼儀』だと、思わない?」


そのあまりにも恐ろしく、そしてどこまでも歪んだ「論理」。

佐藤が、その言葉にただ真っ青になる。


彼は、改めて理解した。この美しい「怪物」の隣にいる限り、自らの「平穏」な夜は、決して訪れないのだ、と。


春のその美しい夜景だけが、その二人の男女の、そのあまりにもかけ離れた「日常」を静かに見下ろしているだけだったのである。

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