62 知っていた
「お父さん、知ってるの?」
「えっあぁ。それは聞いてないのか」
さっきから一人で納得しまくっているお父さんは、なんとロクのことを知っている様子で…。こちらは、頭の中のはてなを増やされてばかりだった。話してくれそうだったので、はてなを無理やり頭から弾き出して、聞く。
「天国で元気にやる前、僕はもう本当に心の底から自分を全部投げ捨ててもいいくらい、ソンサのお母さんのことを愛していたんだ」
愛。生まれてるじゃん。ロク。
「でも、天国に行ってしまったあと、急に思い出せなくなったんだ」
「思い出せなくなった…?」
「そう。顔も性格も身長も声も匂いも、時がたったから、じゃない。自分がどうしてセトルのことを愛していたかも分からなくなったんだ。覚えているのはセトルと言う名前だけ。おかしいだろう?」
「おかしい」
怖いよ。めちゃくちゃ。ロクさん?どうしてなの?
「それで、気が狂いそうになってたら、夢にロクが出てきたんだ。あのロクでなしが」
「夢に出てきた…ろくでなし!?」
「そう。別にただ悪口を言ってるんじゃない。聞いてくれるかい?ソンサ」
「う、うん」
なかなか見ない感情を見た。
だってお父さんの口調こそ荒々しいけれど、それは、怒りというより笑いだった。
まるで気心のしれた友達をからかうかのような声だった。
「あのロクでなしはまずこう言ったんだ。君の好きだった人は存在しないんだ。俺は思った。は?」
ロク…………。
「それから人類を救うだの君の娘は救世主だの色々言われたけどそのあとの話は何も頭に入ってこなかった」
ロク……?
「そう。ロクは心が読めるだろ?あとからどうして整理がつくまで待ってくれなかったんだ?聞いたら、待ってたら君が死んじゃうからって言われて、なんかもう神と人の差を感じて、怒り通り越して笑いが出たよ」
お父さんのこれは、怒りを通り越した笑いってこと?でもそれにしては楽しそ…う?かなぁ。色々全部、不安になってきた。
「でもロクにさ、頼まれたんだ。何も考えなくていいから、君の娘を幸せにしてくれって。それが君の愛した人と君を繋ぐ唯一の存在だって」
……めちゃくちゃ悲しくない?わたしだけ…?
「最初はこんなろくでなしの言うこと聞くか〜と思って夢から覚めたんだけど。そしたら眠ってから凄い日数がたっていて」
やっぱり、ロクが目の前にいると時間が狂うんだ。
「それでソンサが死にかけてたんだ」
「は?」




