57 子と親
こうやってみると、私の前では声を殺してという感じだった。
お母さんの温かさには勝てなかったアクトは、まるで赤子のように泣いていた。アクトのお母さんは、必死で頭を撫で続けている。
……ジェスチャーで、背中もさすってみてくださいとしてみた。
少しぎこちなかったけれど、存在を確かめるように温もりを伝えるように。アクトのお母さんは、アクトの頭を右手で撫でながら、左手で背中をさすりはじめた……。
少し立ちつくしてしまったけれど………ここにこのまま居ない方が良いだろう。もしかしたら、このままお父さんの事もするっと話せるかもしれないし。
ソンサのお父さんの方を見ると、廊下の奥を指さしていた。意見は一致していたみたい。こくんと頷いて、廊下を進む。後ろから聞こえる泣き声に、振り返りたくなって、振り返ってしまった。
お母さんのお腹に顔を埋めて、背中をぎゅっと小さな手で握りしめて、大きな声で泣いているアクトを見て…………。
いろいろ、かんがえることがあった。
食卓へ、何も話さずトコトコ歩く。そういえば、お父さんと二人っきりははじめてだった。こうなるとも全然思っていなかったし、何も話すか、少し、迷う。
「使用人はね」
迷っていたら、柔らかな声が上から降ってきた。声の方を向くとその声を出していると思えない悲しい視線と目が合う。
「使用人は…。前に雇ったことはあるのだけど、ソンサの命を狙う人に買収されちゃってね。僕もとても高いお金を払ってはいたのだけど、それをこえられちゃったみたいで……。そこから雇うのは辞めたんだ」
私が原因でしたか……。
「ごめんね」
勝手に口からこぼれ落ちた謝罪。聞いた瞬間、お父さんは私を抱き上げた。
「ソンサはね、なんにも悪くないんだよ。もちろん僕だって、セトルだって、悪くない。悪いのは、世界と神様さ」
セトルというのは、ソンサの実のお母さんの名前だ。なんにも悪くない…か。
悲しい顔だった。あぁ、きっと。この人は…。この世界では悪とされる子の親として沢山戦って、私を守ってきてくれたんだろうなぁと思った。
何となくお父さんの手をとってぎゅっとした。お父さんもぎゅっとしてくれた。
「僕はアクトくんのことも大好きだけれど、世界で一番愛しているのはソンサだよ」
心底いい家庭に生まれてこれたのだと感じて、嬉しくなった。
どうしてだろう、アクトの姿を見たからかな。
無性に抱きしめたくなって、ぎゅっとした。お父さんもぎゅっとして、背中をさすってくれた。
静か廊下で幸せを感じた。




