46 『悪』い?
「そうやって、僕は、いや、ぼくは。ぼくを押し殺して、いらないと、思い込むことで自分の殻に籠って、傷つかないように、逃げていたんだ」
ねえさんは言葉につまっている。
あなたのせいじゃないと言われた気がした。
「たとえ…出ていったのがぼくのせいじゃなかったとしても。今の方が、今の僕の方がみんなに好かれているし、たとえ、あいついつまで可愛こぶってんだよだとか、言われたとしても、それはぼくじゃないから、傷つかなくてすんでいたんだ」
これが、ぼくが、仮面を被る理由で。
自分勝手で、自分本位な理由。自分で考えて、自分で望んたはずなのに、でも何故か苦しい。仮面を被ることが?ううん、本当は分かってる。きっと…。
話を聞いて、私はなんと言えばいいのか、本当に分からなかった。言葉が何も出なかった。でも。
でも、目の前の不安そうに揺れるアクトの瞳に、仮面被る前の、今よりも小さなアクトの瞳と被って見えて、思わず、抱きしめた。
「ねえさ」
「アクト、頑張ったんだねぇ。今の今まで、ううん。今も、頑張ってる。偉いよ。凄いよ。一生懸命一人で抱えて、考えて、行動して、頑張ったよ」
声のトーンは、自分の感情のまま任せた。思いのほか泣きそうな声が出てしまって、私が先に泣く訳にはいかないと、堪えながら、頭を撫でる。優しく撫でる。
たとえ、あなたがそう思っていたとしても。
「アクトは何も悪くないよ。なんにも、悪いことしてない。たった一人でがんばったよ」
「でもっ!」
悲痛な叫び声をあげながら、アクトは私を引っぺがして、揺れる瞳で、でもしっかり私の目をみて、言った。
「とうさんはっ出ていった!ぼくのせいで」
アクトの話は、聞いていて辛くなるものだった。でも、でもしっかりと受け止めた。それが私がしたいことだたから。そのうえで、私は疑問に思っていることがある。
「本当に、アクトのお父さんはアクトのせいで出ていったのかな?」
アクトの家は、貴族だ。アクトの父親の身分は知らないけど、アクトにクスリをやっている所を見られて、それで貴族であるアクトのお母さんを手放すというのが少し、心にひっかかる。
アクトに見られただけならば、昔のアクトの状態なら誤魔化すこともできたと思うのだ。どうにかして、アクトの口を塞いでしまえば、何食わぬ顔で、そのまま毎日を続けられたかもしれない。
だって、現にアクトは今の今まで、だれにも話せていないのだし。
アクトは黙ってこちらを見つめている。少し、すがるように見えるのは私の勝手な想像だろうか。でも、あとひと押しのように見えた。
アクトに見られただけで出ていったのではないとすれば……。
そもそも、夫がクスリを吸っていることに、一緒に住んでいて、アクトのお母さんは気づいていなかったのかということも。引っかかっている。もしかしたら、と思うのだ。これは、信じてもいい直感だと信じて行動してみたい。
アクトの、心を、救えると思うから。
何も話さない、目線は外れない。見られているのが分かって、それでも深呼吸をした。アクトに、話しかける。
「アクト。言ってないんだよね?だれにも」
「言ってないよ。だれにも」
「わたしはさ、難しいかもしれないけど、言ってみた方がいいと思う。家族に」
「そ、れは」
「アクトがそれでいいんだったら、わたしは何回でも今の話を聞く。でも、根本的な解決にはならないんじゃない?よく知らない人の前で、仮面を被ることが悪い事だと私は思わないけど」
しっかり息を吸う。
「それが、アクトにとって、無理であるなら。アクトにとっては、良くないことだと私は思う」




