45 『つき』
クスリを吸った、男は続けた。
「なぁ?俺は家を出ていくよ。お前が悪いんだ。お前のせいだぞ。お前のせいでこれからお前が大好きで大切な家族は、母さんも兄さんも、大変だろうよ」
それから男は何食わぬ顔でご飯を食べ、二日後に家を出ていった。ぼくはその間ずっと話せなかった。
それから、一週間たった。ぼくはやっぱり話せなかった。ぼくは。ぼ、く、は。
自分で、出来る限り考えた。どうしたらいいのか。どうするのが正解だったのか。一週間と二日、ずっと、男が言った言葉が頭から離れなかった。男がああなったのはクスリのせいだとも分かっていた。でも。
全部本心だったかもしれない。あちらがあの男の本性で今まで見えていなかっただけかもしれない。そう思うと、言葉が何も出なかった。
ぼくは、ぼくじゃなくなることにきめた。
ぼくが、ぼくじゃなければ、それはぼくに吐かれた言葉では無いから、きっとこんなに痛くないはずだ。
ぼくが、ぼくじゃなければ、きっともっと、かあさんと、にいさんの役に立てるはずだ。きっと、その方が家族にとってもいいはずだ。
ぼくが、ぼくじゃなければ、そうきっと、よく見る主人公にように、太陽のように明るく、みんなに愛されるように動けば、みんなが欲しい言葉を話せば、友達だって、出来て、家族だって嬉しい…はずだ。
ぼくがぼくじゃなければ、もしかしたら、とうさんだって、もどってきて………。
僕が、ぼくじゃなければ、とうさんは、居なくならなくて、すんだの?
ぼくなんて、要らない。
ぼくなんて、いらない。はずだ。




