44 『はなす』
「お前はわかっているはずだろうが。母の名前が懇切丁寧忘れないように何度も教えていたしゃないか。分かっているんだろう?」
違う。そんなわけない、父さんがそんなことするはずない。ひていしてくれるはず。ちがうよって、言ってくれるはず。思いと裏腹に言葉はポツリと口からこぼれた。
「ク…スリ…?」
「はっ、ははははっ。そう。そうだよ。クスリだよ。薬物だ。やってはいけない事だよ。それ俺は今お前に見られたわけだ。あはははっ、こりゃ傑作だ」
雨に濡れながら、クスリを使いながら、父さんは笑っていた。
これは何かの冗談だろうか。帰るのをおくらせて、ぼくたちに迎えにこさせ、そこで悪いことをしていましたという、悪いドッキリ。あぁそうだろう、そうに違いない。父さんはこんな口調じゃない。ぼくと話す時はもっと、優しい。こんな怖い笑い方をしない。こんな……。
心底忌々しいという顔でぼくを見つめたりなんてしないはずだ。
クスリを吸った父さんは続ける。
「それにしたって、お前はめったに話しもしない癖にこんな時ばかり話すのか。気持ちが悪い。わかっているさ、お前も俺のことが嫌いなんだろう?そうだ、なるほど、だから俺の弱みを握れて嬉しいのか。嬉しいから話しかけてきたのか。あははは納得だ」
この場から今すぐに立ち去りたかった。神様に記憶を消してもらいたかった。悪夢ならはやく覚めて欲しかった。でも、いくら待っても足はビクともしないし、神様はやってこないし、夢は覚めてくれなかった。
クスリを吸った父さんは続ける。
「あ…ぁ、そうだ。これがフェンドだったら、どれほど良かっただろう…。どうしてお前なんだ。どうして……。きっとあいつだったら、空気を読んで何も言わないか、見ないふりをしてくれていただろうに、あぁお前は」
トウサンがつづける。
「お前はいつもは話さないくせに余計なことは話すんだなあ。声をかけることなんか無いくせにこんな時ばかり、声をかけるんだ。あぁ、お前がいなかったらなぁお前が、ここにいなければ、いやお前が話しかけてこなければ、そうだお前が話さなければ、そうだ、そうだ余計なことしか言わないアクトなんて」
「一生話さなくていいのになあ?」




