42 『ぼく』のせい
「ぼくのせいって、どういうこと?」
なるべく優しい声になるように、願いながら聞いた。
「僕がぼくだったから、ダメだったんだ。」
仮面を被る前の、アクトということだろうか…。
「全部……全部、話すよ。誰にも言ってないこと。でもこれだけは約束してよ」
「わかった。なぁに?」
「このことは誰にも言わないで、絶対に。言ったら嫌いになるからね、姉さんのこと」
私には一番効く脅しだと思った。
「わかった。どんな内容だったとしても、絶対に誰にも言わないって約束するよ」
怖くない怖くない。自分に言い聞かせた。大丈夫。話を聞く覚悟はできている。全部私一人で受け止める覚悟も。
「ありがとう」
アクトはふんわり笑って、笑顔を作って、また話し始めた。
「毎日普通に過ごしてたんだ。……ぼくたち家族は、普通の家族のように父さんも兄さんも母さんも家に帰ってきて、四人でご飯を食べてた」
苦しそうに…付け加えた。
「ぼくは……その頃は全然話さなかったけど、兄さんがよく話すから、母さんも父さんもそれに応えて、ぼくたち家族は楽しく皆で過ごしてたんだ」
普通が普通じゃなくなる日が来たんだ。
「その日は雨だった。その日の前、一ヶ月くらいかな。父さんだけが、帰ってくるのが遅い日が続いてた。でも、何時だって、みんなでご飯を用意して待ってたんだ。ぼくは、父さんが傘を…持って行ってなかったのを思い出して。…ぼくは……」
ぼくは…うわ言のようにもう一度呟いて、アクトの言葉が止まる。用意していた言葉をなるべくゆっくり、言い聞かせるように口に出す。
「話すのが苦しかったら、話さなくてもいいんだよ。でもね、話したいと思ってくれてるなら、いくらでも待つよ。ゆっ〜くりでいいから。ゆっっくりで」
これは恐らく、アクトのトラウマを掘り返す作業でもある。苦しんでいるように見える。そんな可愛い弟の姿は、正直見ていられない。
でもきっと、聞いてからじゃないと、始まらない。これからもずっと、一人で抱え続けることになってしまう、それは絶対にダメだ。
この道の先に、アクトの命もこの世界人類の命もかかっているのだから。私が少し苦しむくらいなんてことない。アクトのトラウマの一つや二つ私も背負ってみせる。
だからどうか俯かないで、私に痛みを押し付けるつもりで、話して欲しい。
ねぇ、アクト。
いつの間にか俯いていた視線がねぇさんに向く。呼ばれた気がした。泣きそうだった。口に出したら、もう戻すことは出来ない。でも、もう疲れたんだ。ねえさんにも、いっしょに背負って欲しい。ワガママでごめん。でも、人類をみんな、すくうのだから、これくらいのワガママは許されるはずだ。
「その日ぼくは見たんだ」




