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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第四章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅱ
141/143

141 蚊帳の外(2)

 ランドルの狼狽える姿を見て、さとい彼女は直ぐに、ランドルの心情を読み取った。

 彼女は命が懸かっているのだ。

 色仕掛けで、何とかなるのであれば容易いことである。

 一晩、一緒に過ごせば情の厚いランドルである。事態は必ず好転する筈。

 これまでのこともあって、彼女には自信があった。


 しかしながら、彼女が思う程に都合良くはいかなかったのである。

 彼女が思っていた以上に、ランドルは警戒していたのだ。


 これまでのランドルであれば、ヒムルカを許さないと口では言っていても、傍に寄り添い話しを聞いてくれたであろう。

 しかし、彼は王都に到着以後、幾度も命を狙われていたのである。

 彼はとても用心深くなっていた。元を正せばヒムルカのせいでもあるのだが。


「……どうして、こんなところに」

「訳はお話します。ゆっくり、お、お話しますから、そのままで、誰も呼ばないで! お願いっ!」


 涙目で、艶めかしく動く彼女の肢体を見つつ、彼は硬直しつつ頷いた。

 ランドルの目は真剣である。

 正直、彼女と話しをしたいと、ずっと思っていた。


「それにしても、な、なんて格好をしてるんだよ!」

「こ、これも訳があって、……動けないの」

 艶っぽく誘う。


 ランドルは言い終えた後、動転し出した。

 彼女の見てくれの状況に意識が捉われたからではない。

 縛られて動けない状態の彼女が、一人なはずがないのである。


 この部屋の中に、彼女を運んできた仲間がいるはずだと気付いたのだ。

 そして、彼女は誰も呼ばないでと言う。

 直ぐに人を呼び、部屋を飛び出さなかったことに、彼は心底後悔した。

 とともに、恐怖からなのか、喉が枯れて声が出ない。


 ランドルの様子を見て、彼女は邪魔が入っては困ると思い、唐突に話し出した。

「あ、あの時、戻ってきた時です。伯爵邸内の者達が、私を捕縛次第、拷問にかけると偶然耳にして! 私、怖くなって! その場から後先考えずに逃げ出してしまったんです!」


 勿論、その場しのぎの作り話である。

 だが、当のランドルはそれどころではない。

 彼は、彼女が話をしている間に、灯りを増やして室内に人がいないことの確認をしていた。

 命の危機に、何度も晒されたことから、彼はそれなりに冷静な対応も身につけていた。


 彼女が焦って話した内容は、同情を誘い、致し方無かったと判断させようとするものであったのだが、聞いてもいないことを早口で話してきたこともあって、彼の心をうつことはなかった。

 しかも、ヒムルカは肝心のランドルの質問には答えておらず、誰も呼ばないでとばかり主張してくる。


 そのため、ランドルも情にほだされることはなかった。

 当然と言えば当然である。

 彼はヒムルカに命を狙われていたのだ。

 なぜ、彼女が自分の命を狙ってきたのか、誰かに頼まれてのことなのか、そしてもう一つ、ペイジュスとどこで繋がったのか、彼はそれを知りたかった。


 特にペイジュスとの繋がりについては、ハークスレイ家の浮沈に関わることである。

 ここを有耶無耶にすることは出来ない。


 彼女が言葉に詰まると、驚く彼女を制してベルを鳴らした。

 ヒムルカからすれば、想定外の展開である。

 直ぐに、召使の男が扉の前までやってきた。

 彼は強張った表情のまま、バスに直に来るように言いつける。


「こ、こんな姿をランドル様以外に見られたくありません! バスは呼ばないで!」

 バスの意見次第では、自分は騎士団につき出されるかも知れない。

 そう思ったヒムルカは、バスを部屋には入れないよう、やや泣き声を絡めて拒絶した。

 ランドルも確かにそうだと言ったので、バス抜きで話が継続できると思った彼女であったが、見事に思惑は外れる。

 彼は布団を掛けてきたのである。

 ランドルのバスへの信頼は、以前より格段に上がっていたのである。

 彼女が茫然としていると、直ぐに急ぎ階段を上がる音がしてきた。


 バスは入室して言葉を失った。

 彼女の状況というよりも、敵の思惑が全く分からなくなったからである。



 あの日、ランドルとバスは公爵邸で挨拶を終えた後、ヒムルカの身辺調査に真っ先に取り掛かろうと考えていた。ペイジュスとの関わりを突き止めようと思っていたのである。

 二人はその日の内に命を狙われた。

 すれ違いざまに短剣で刺されたり、囲まれたりもした。

 けれども、二人は今もって無事である。


 殺すことが出来ない状況の中で、ペイジュスが打ってきた手が、縛ったヒムルカを置いて行くという……。

 バスはヒムルカを無視し、動揺しているだろうと思い、自分なりに整理した内容をランドルに伝えだす。

 二人は彼女から少し離れ、聞こえない声で話し始めた。


「な、何で、お二人は襲われても平気なんですか!」

 ヒムルカが声を張って、割って入ってくるも、二人は無視して話し合いを続ける。

 彼女は執拗に繰り返し聞いてくる。

 声が上ずりだすほどにである。


 この執拗さのお陰で、二人は同じ考えに辿り着いた。

 幾度試みても、ペイジュスは自分達を殺すことが出来ないでいる。

 恐らくは、その秘密を知りたがっているのだろう。


 だが、それで、ヒムルカに探らせようと置いて行ったのか?

 ランドルとしても、バスの命も掛かっているため、教えようとは思わない。

 二人は、彼女を置いて行ったことが、どうしても有効な手段とは思えなかった。


 ペイジュスにとっては、誰と繋がりがあるのか、もしくは、どのような連絡経路を辿っているのかということは絶対に知られたくない筈である。

 彼女を生かしておくこと事態、ペイジュスの意図が分からない。


(なあ、バス。奴らは俺達が騎士団につき出さないとでも、思っているのか?)

(そうかも知れません。ですが、伯爵領内の一件で、ヒムルカの従者サリィが騎士団で証言したといいます。当家は関節的ではあるものの、関与した事実があるので、今後は全力で騎士団に協力をしなければなりません。つき出すべきかと)

 バスの歯切れが悪い。


(だよなあ。つき出すべきだよなあ)

(ですが、この王都でつき出せば、当家はペイジュスと繋がりがあったことを、自ら王国全域へと知らしめるようなものです。今後の商売が傾いても可笑しくはありません)


(ななっ! 今後の商売って! それじゃあ、つき出すのは俺の一存では出来ないじゃないか!)

(父上様に、ご相談するのが宜しいのかと)

(ま、まさか。父さんとペイジュスとの間に繋がりがあるなんてことないよな。……だから、家を守るために代替わりを進めて、俺の独立が早まったとか!)


 自分で話していて、ランドルは気が付いた。

(これって、もし家族の誰かが関与していたら、騎士団に出す前にトカゲのしっぽ切りでヒムルカは殺されてしまうんじゃ……)

(無きにしも非ず、です)

(………)

(いずれにしろ、暗殺集団ペイジュスと関わり過ぎです。他にも、人知れずに悪事に加担している可能性もあります)


(そんな……。あっ、そうだ。そもそも、何で、俺が命を狙われたんだよ!)

(それは………)

 バスは黙してヒムルカの方を見た。

 彼女に知っていることを話させないと、始まらないと言っているような素振りである。


 ランドルはヒムルカの方を見た。

 悪いとは思ったが、出来るなら、ヒムルカ迄の関わりであって欲しいと思い始めていた。

 けれども、考えてみると、そんなことはあり得ない。

 ヒムルカが首謀者であれば、こんな仕打ちを受ける訳がないし、首謀者としても相手にされる訳がないのである。所詮は雇われ人なのである。


 ランドルは自分だけが知らないだけで、暗殺集団ペイジュスと家族との間に繋がりがあるのかと思うと背筋が凍りついた。

 彼女に聞くまでもない。

 家族の中に、自分の命を狙っている者がいる。

 バスも、既にこの推論にまで辿り着いていた。


 一方。

 ペイジュスのドルキはというと、最悪、首謀者の名前をランドルに知られても構わないと踏んでいた。

 所詮は身内の中での出来事。知り得たところで、何も出来ないだろうと考えていたのである。

 彼らには既に別の命令が下っており、任務を交代する前にランドル達の秘密を知りたかっただけなのだ。

 ドルキの取った行動は暴走といっても、おかしく無い行為であった。


 因みに、ランドル達が襲われても無事であったのは『二の森の白指輪』のお陰である。

 『二の森の地中の主』から貰ったこの指輪は、高濃度の魔力が幾重にもかけられており、物理攻撃と魔力攻撃は全く持って意味をなさないものであった。



 ここまでくると、首謀者は誰なのかということになる。

 ハークスレイ家を守らなければならないとあって、二人は必死である。

 目が血走り、ヒムルカから聞き出そうと彼女のいるベッドへ歩み出す。


 この間、ヒムルカは青ざめていた。

 勝算が崩れ去っていたからである。

 二人共、一向に自分の言葉に耳を貸してはくれない。

 全く持って蚊帳の外にいるのである。


 静まり返った広い寝室で、小声で話し込む二人の声だけが断片的に聞こえている。

 彼女は一か月以内に秘密を聞き出さなければ死が待っている。

 気が気ではない。

 目の前に死がチラつく。


 そんな中。

 ここで、初めて血走った顔の二人が詰め寄ってきたことに気が付く。

 

「な、なに? 何か、別の意味で怖いんだけれど……ちょっと!」

 彼女は本能的に胸を隠そうとするも、両腕が後ろ手で縛られている。

 自由の利かない、無防備な状態に、ここで初めて身の危険を感じだした……。

「い、嫌ぁ……」

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