ついでに服も見ていこう
「おーい、ヨーコー」
ちょっと目を離した隙にいなくなっちまいやがった。デートしているわけではないからまあいいか。
水着を買うのも早く終わったし、普段着でも見に行くか。
いま俺は4階にある案内板を見ているのだが、3階はフォーマルウエアばかりで2階はカジュアルウエアとなっている。
前世ではメンズとレディースで階が別れていたんだが、ここは違うんだな。
まあいいか、前世でのメンズの階のカジュアルウエアコーナーとフォーマルウエアコーナーみたいに、
カジュアルの階のメンズのコーナーとレディースのコーナーになっているんだろう。
そんなことを考えながらエスカレーターで2階まで降りて来たのだが、そこにはメンズとレディースの区別がなかった。
いや、無いとまでは言い切れないか。フロアを見渡して左の方に男性用の衣類があり、右の方に女性用の衣類があるようだ。
そして目の前には、フリルの付いたドレスシャツにキュロットのような、中性的な服が有った。
そう、俺が目覚めてから初めて自分の部屋で見つけたあの服、タンスの肥しになっているあの服だ、そんな服がいっぱいあった。
前世の俺を叩き起こして逝ったあいつもここで買ったのだろうか?
しばらく呆けていたが気を取り直して男性用衣類の方へ向かった。
この頃暑くなってきたので、風通しのいい、パーカーとかチノパンがあればいいなあと考えながら物色していると、女性店員が寄ってきた。
「お客様、なにかお探しでしょうか? よろしければお手伝いいたします」
少し面倒になってきていた俺は店員に丸投げすることにした。
「暑い季節用に涼しくて俺に似合う上下一式を探しているんだけど、どんなのがいいと思いますか?」
俺は前世でもファッションセンスは皆無だったし、今世は余計にわからないからなあ。ここはプロに任せてみよう。
「そうですねえ、お客様でしたら・・・」と言いつつ、中央の方へ俺を引っ張っていく。それはもう腕をがっしりつかんで離さずに。
「いや、ちょっと待ってくれ、俺はさっきのあたりで探そうと思っていたんだが」
「お客様は、かわいいらしいのでこの辺りの衣類がお似合いですよ。それに先ほどの辺りではもっと筋肉質な方か、体格のいい女性向けですね」
「いやいや、俺はもっと筋肉質な男になる予定なんだ。そのためにもフィットネスクラブで鍛えているんだ」
「そうですか、それでお似合いの服はこれなどはいかがでしょうか」
白と青のストライプのパーカーとショートパンツがその手にあった。なかなか涼しげで・・・
「いや、だからそういった服でなくてだな、もっとこうなんというか」
「いえ、鍛えておられるのなら尚のこと、かわいらしい今のうちに夏を楽しまなくっちゃ駄目ですよ。いやいっそのことこちらへどうぞ」
店員はまたしても俺の腕をつかんで前に進んでいく。
「まてまて、そっちはダメだ。そっちは女性物だろう?」
「いいえ違いますよ、女装衣料です」
「なんだそりゃ?一緒じゃないか。どう違うんだよ」
「女性物は女性の物で男性が着るものではないんです。でも女装衣料は装うもので男性でもいいんです。ですから行きましょう」
「いやいや、まてまて、だから俺は女装はしないって言ってるだろ。恥ずかしくって死んでしまう。だからダメだって」
「大丈夫ですって。一度着てみたら病みつきになりますって。そうしたらワンピースやドレスやボンテージなんかも、えへへ」
ダメだこいつ頭の中身腐ってやがる。どうしよう、何とか逃げないと。
それにしても女装衣料ってなんだよ、ジャンルがあるってことは、それだけ需要があるってことか?
「ちょっと聞いていいか?男性でも着ていいっていう女装衣料って男性にそんなに需要あるのか?」
「ええ、結構いらっしゃいますよ、男女ペアでいらしておそろいで買っていかれる方もいますよ。
ただ結構がっちり型の男性も買っていかれますけど、あれはいけませんね。
手足のムダ毛もきちんと処理していただかないと見苦しいですし。
まあ、あまり毛深い方はいらっしゃいませんが」
「ん?毛深い人は来ないということか?それともいないということか。どっちなんだ?」
「ん~まあ、男装衣料のほうでも毛深い男性はそう見かけませんから、全体的に少ないのではないかと。」
なるほど、俺も手足の毛はほとんど無くてうっすらと産毛が生えているぐらいだったが大体がそのくらいだったのか。
前世では中学くらいから毛が濃くなったように思うがやはり世界が違うからか?
ところでこの店員はさっき男装衣料といったな。
「さっき男装衣料と言ってたが女性も買いに来るのか?」
「男女ペアの方や女性がおひとりで来られる方もおられますよ」
つまり、男装した女や女装した男が町中を歩いているのか。
以前、見かけた通行人で男性だと思った人のうちどのくらいが女性で、女性だと思った人のうちどのくらいが男性なのか判らないじゃないか。
下手をするとみんな女性で男は俺一人なんて場合もあったんじゃないか?
俺はだんだん恐ろしくなってきた。このまま出歩いていると危ないのではないだろうか?
俺も女装をした方がいいのではないだろうか?いやいや、男に飢えているって感じはなかった多分俺の思い過ごしだろう。
ここはさっさと退散した方がいいだろう。
「いろいろ教えていただきありがとうございます。それでは失礼します」
俺は逃げ出した。店員は回り込んできた。逃げられない。
「はい、それではこのドレスを着てみてくださいね。」
「いやいやそんなん着れねーし、ぜってー似合わないから」
「大丈夫ですって、お客様はかわいらしいので、ふだん着るときは口紅だけすればお化粧はしなくともokですよ。まずは試着してみましょうね」
まずいこのままでは更衣室に連れ込まれてしまう。どうすれば・・・
「待って下さい、ドレスよりはワンピースの方が」
「ワンピースですか、それならこちらに・・・」
俺は店員の気が逸れたすきに逃げ出した。
「ごめんなさーい、やっぱり無理でーす」
俺は何とか振り切ると家までダッシュで帰ったのだった。ほとぼりが冷めるまでしばらく行かないでおこう。




