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付加魔法は自分のために  作者: 仙堂レイ
第二章:十人十色
59/89

動く的-1

「おっきろー!」

「ーーーー!?」


 胸部に感じる鋭い痛みで、さっきまでの気持ち良さはすべて流吹き飛び、そこで今まで自分が寝ていたのだと気付いた。あの後、そんなに経たないうちに寝れたんだな俺。


 何か、夢を見ていた気がする。衝撃のせいでどんなのだったかまるで覚えていないが、こみ上げる寂寥感が精神的にも胸を締め付けてくる。もちろん、物理的にやられたので、それどころではないが。


「ノア、いきなり何しやがる!?」

「だって、ミナトが全然起きないんだもん。そのうち、寝てるくせに涙とか流し始めるしさ」


 慌てて目元を拭ってみると、確かに滴が流れていた。……いや、少なくともこれは今のノアの突きが鳩尾に綺麗に刺さったせいだな、うん。


「それにしても、もっと穏便に起こす方法があっただろ」

「叩いても揺すっても耳元で大声出しても一向に起きる気配がなかった人に、これ以上手心を加える必要がある?」

「鳩尾は駄目だろ、鳩尾は……」


 人間には、身体的に弱点となる箇所がいくつか存在している。身体の構造からして、どうしても突かれるとヤバい場所だ。そして、数ある中で分かり易いのが、人を縦に2等分にする線である。

 この線上は人間の筋肉などからしてほぼ鍛えられない部位で、とても脆い。眉間、鳩尾、股間と個別の部位としても聞くだけでやられるとキツいというのが分かるだろう。

 そんなところを、思いっきりやられたのだ。そりゃ涙目にもなるわ。


「ほら、そんなことより早く起きてお昼食べに降りるよ」

「ん?朝ご飯じゃないのか?」

「……外を見てご覧よ」

「うーん、雲1つない快晴だな」


 少なくとも、窓から見える範囲には雲はなく、真上に昇った太陽の自己主張が激しい。今日は、雨の心配はなさそうだな。


「この様子ならツバキも安心して露店開けるだろうし、すぐに見付けられるだろうな」

「じゃなくて、こんなに明るいんだからもう昼だってことくらい気付こうね?」

「あぁ、そうか。通りで道が賑わってるなと」


 どうやら、いつも通り昼まで爆睡してたらしい。何だかんだ言いながら、しっかり眠れてんな俺。


「ほら、分かったならさっさとお昼食べてツバキのところに行くよ」

「うーん、別にお昼くらい食べなくてもよくね?」


 正直、全然お腹は空いてないし、時間がないなら尚更だ。元々、休みの日とか基本1日1食傾向にあるからな。


「だから、そういうのが駄目なんだよ。ボクが一緒にいる限りは、そんな不健康なことは許しません」

「昼まで寝るのは?」

「出来る限り優しく起こそうとしたせいで時間がかかってしまっただけだよ」


 つまり、言外に明日からは朝早くに起こすと言ってるんだな。……毎回あんな起こし方だと、俺の身が持たねぇぞ?

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