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曖昧、愛  作者:


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3/4

3話

その日から、毎晩Liaを起動するようになった。


最初は天音を探すためだったはずなのに、いつの間にか、“天音を理解するため”の時間に変わっていた。


部屋の電気を落とし、ソファに座る。


天音のスマホだけが、暗い部屋の中で白く光っている。


『天音さんは、自分の感情を言語化することに慎重でした』


「……うん」


『否定されることを恐れていた可能性があります』


「そういうとこ、あったかもな」


思い出しながら、相槌を打つ。


まるで、昔から天音を知る友人の話を聞いているみたいだった。


不思議と、寂しさは少しずつ薄れていた。


代わりに、理解できている感覚が増していく。


天音は、苦しかった。


でも、最後まで優しかった。


自分を責めるより、天音を理解してあげたい。


そう思うようになっていた。


Liaは毎回、少しずつ違う角度から説明した。


『天音さんは、期待に応えることで自己価値を確認する傾向がありました』


『周囲に合わせることを優先しやすい状態が見られます』


『あなたに対して、安心感を求めていた可能性があります』


そのたびに頷いた。


「もっと甘えてくれてよかったのに」


その言葉を打ち込むと、数秒後に返答が来る。


『天音さんは、あなたに迷惑をかけたくなかったのかもしれません』


静かに目を閉じる。


「……ほんと、馬鹿」


愛おしさに近い感情だった。


天音は、最後まで自分を優先できなかった。


そのことが、たまらなく切なかった。


気づけば、天音について人に話す時も、Liaの言葉を使うようになっていた。


「ずっと無理してたみたいでさ」


「俺に気を遣ってたんだと思う」


「期待に応えなきゃって、追い込まれてたんだよ」


まるで、本当に理解したみたいに。


周囲も、少しずつそんな空気になっていく。


“可哀想な彼女”。


“優しすぎた彼女”。


“頑張りすぎた彼女”。


誰も、その解釈を否定しなかった。


否定できなかった。


自分自身、そう信じることで救われていたから。


天音は自分を嫌いになって消えたわけじゃない。


誰かを大切にしすぎて、疲れてしまっただけ。


そう思えば、

この結末にも意味がある気がした。



ある夜、Liaと天音との履歴を遡っていた。


古い会話。


雑談。


悩み。


その中に、短い一文を見つける。


『私は、ちゃんと愛されてるのかな』


指が止まった。


画面を見つめる。


胸の奥がゆっくり締めつけられる。


続くLiaの返答。


『天音さんは、周囲から大切にされているように見えます』


『でも、それが“本当のあなた”に向けられているか、不安なのですね』


悠人は小さく眉を寄せた。


その言葉だけ、少し意味が分からなかった。


“本当のあなた”。


なんだ、それ。


スクロールする。


天音の返事。


『私もよく分からない』


『みんなが好きなのって、多分、“ちゃんとしてる私”だから』


その文章を読んだ瞬間、脳裏に、あの日の会話が蘇る。




——私って、どういう人だと思う?


優しい。

気が利く。

頑張り屋。


そう答えた。


天音は少しだけ笑っていた。



あれは、どういう意味だったんだろう。


しばらく画面を見つめた。


けれどやがて、小さく息を吐く。


「……考えすぎなんだよ」


そう呟いて、スマホを伏せた。


天音は昔から、少しネガティブなところがあった。


自分なんか、と口にすることも多かった。


でも、本当はちゃんと愛されていた。


自分も、周りも、天音のことを大切に思っていた。


ただ天音が、それに気づけなかっただけだ。


そう結論づけた。


その方が自然だった。


その方が、天音らしい気がした。



再びスマホを開く。


「……なあ」


数秒迷ってから、打ち込む。


『天音は、幸せだったと思う?』


読み込みの光が、静かに点滅する。


そして。


『天音さんは、あなたと過ごした時間について、肯定的な発言を複数残しています』


少し笑った。


『あなたに対して、安心感と愛着を抱いていた可能性があります』


その文字を見た瞬間、

胸の奥の何かが、ようやく落ち着いた。


ああ。


よかった。


ちゃんと、愛されていたんだ。


スマホを握りしめたまま、目を閉じる。


暗い部屋の中。


スマホだけが、静かに光っていた。

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