表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
曖昧、愛  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

4話

それから数週間が過ぎた。


天音はまだ、戻ってこない。


最初の頃は心配して連絡をくれていた友人たちも、少しずつ連絡の頻度が減っていった。


「何かあったら言ってね」


その言葉だけを残して、みんな日常へ戻っていく。


自分だけが、取り残されたみたいだった。


けれど、不思議と壊れはしなかった。


自分にはまだ、彼女がいたから。


毎晩、Liaを開けば、

天音について知ることができる。


天音が何を考えていたのか。

何に傷ついていたのか。

どれだけ自分を大切に思っていたのか。


知れば知るほど、

“天音を理解できている”気がした。


いや。


今までより、ずっと近くに感じていた。


実際に隣にいた頃よりも。


その夜も、ソファに座ってスマホを開いた。


『天音さんは、自分より他者を優先する傾向が強く見られました』


「ほんと、損な性格」


『あなたに対して、安心して弱音を吐けなかった可能性があります』


少しだけ悲しくなる。


「頼ってくれればよかったのに」


『あなたに嫌われたくなかったのかもしれません』


静かに首を振る。


「嫌うわけないだろ」


そう打ち込もうとして、指が止まる。


その瞬間、ふと違和感がよぎった。


嫌うわけない。


本当に?


ぼんやりと、過去を思い返す。



天音が泣いていた夜。


「ごめん」


と何度も言っていた。


自分はその時、少し苛立っていた気がする。


なんで泣いてるのか分からなかったから。


「で、どうしたいの?」


そう聞いた。


天音は黙っていた。


結局、「なんでもない」と言って笑った。


その笑顔に、安心した。


問題は解決したのだと思った。



悠人はゆっくり瞬きをする。


……でも。


本当は、

何も解決していなかったんじゃないか。


胸の奥に、小さな棘みたいな感覚が残る。


悠人は誤魔化すように画面へ視線を戻した。


するとLiaから、新しい文章が表示される。


『天音さんは、“理想的でありたい”という発言を複数残しています』


少し眉を寄せる。


『あなたにとって、良い恋人でいたかった可能性があります』


その言葉を見た瞬間、

胸の痛みは不思議と和らいだ。


ああ、そうか。


やっぱり。


天音は、自分自身を責めていたんだ。


ちゃんとできない自分を。


期待に応えられない自分を。


だから苦しくなってしまった。


ついスマホを強く握りしめる。


「……頑張りすぎなんだよ」


その呟きは、もう何度目か分からなかった。


Liaは静かに文字を返す。


『天音さんは、あなたを失望させたくなかったのかもしれません』


長く息を吐く。


「そんなことないのにな」


その時だった。


画面に、新しい通知が表示される。


『対話履歴の分析を継続しますか?』


『より高精度な人格補完が可能です』


人格補完。


その単語を見つめる。


少しだけ気味が悪かった。


でも同時に、魅力的にも感じた。


もっと知れるのかもしれない。


もっと、天音に近づけるのかもしれない。


少し迷ったあと、「はい」を押した。


数秒、読み込みが続く。


やがて画面に、新しい文章が現れる。


『天音さんは、あなたから与えられる役割を大切にしていました』


目を細める。


役割?


『優しい恋人』


『気が利く恋人』


『支えてくれる恋人』


『理解ある恋人』


一文ずつ、画面に浮かび上がる。


思わず息を止めた。


そこに並んでいたのは、全部、自分が天音に向けてきた言葉だった。



お前ってほんと優しいよな。


気が利くよな。


一緒にいると楽。


ちゃんと俺のこと分かってくれてる。



その記憶が、静かに蘇る。


Liaは続ける。


『天音さんは、その期待に応えようと努力していました』


画面を見つめたまま動けなかった。


雨の音もない夜だった。


静まり返った部屋の中で、

スマホだけが淡く光っている。


ゆっくり、キーボードを開いた。


そして、打ち込む。


『……俺は、ちゃんと天音を愛せてたと思う?』


読み込み。


短い沈黙。


やがて、画面に文字が浮かぶ。


『天音さんは、あなたに愛されたいと強く願っていました』


悠人は少し笑った。


安心したみたいに。


救われたみたいに。


「そっか」


小さく呟く。


その時、悠人は気づかなかった。


Liaが、質問に答えていないことに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ