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第三章 休日のお出掛け(2)


 ――グーとチョキ。

 出されたのは、前回と同じパターンだった。そして、出した人間も同じ。


 そう、つまりは。


「どうだ!」

 勝利のグーを掲げ、再び勝ち誇って八叉様は胸を張った。『どや顔』で辞書を引いたら見本に出てきそうな、自慢気な顔を浮かべて彼はそっくり返る。

「はいはい、負けました。負けましたー」

 仕方ないなぁと苦笑いを浮かべながらも、勝利を称えて拍手を送った。わたしの反応に、ますます八叉様の調子はうなぎ昇りに上がっていく。


「まぁ、司紗が負けたのも無理はない。何せオレは、勝利の神(・・・・)だからな!」

 『ザ・どや顔』はそう鼻高々に言い放ち、トドメとばかりにふふん、ともう一度大きく胸を張る。しばらくその体勢でいてからようやく満足したのか、八叉様はゆっくりと姿勢を戻した。が、浮かべる表情は、どや顔そのままである。


「勝利の神、ねぇ……」

 新参の神様に負けたのに? という疑問がつい浮かんだが、慌ててそんな感想を打ち消す。それを言うのは、流石に失礼にもほどがあるだろう。


「まぁ、わかったよ。日曜日は何処に行きたいの?」

 肩を竦めて尋ねると、八叉様は何故か判然としない表情を浮かべた。

「そうだなぁ……パターンとしては、やはり遊園地か映画だろうか」

「パターン? 行きたい場所があるわけじゃないの?」

 イマイチ彼が何を望んでいるのか、わからない。パターンとは、一体何のことだろう。


「まぁ、行きたい場所というか、したいイベントというか……」

 ごにょごにょと八叉様は言葉を濁す。あまり詳しいことを説明したくはないらしい。

 まぁ良いや、とひらひら手を振った。

「オッケー。それじゃ、日曜は映画見に行こっか。学校近くの駅に、映画館あるしね」

「うむ、ならばそれで……」

 そう頷きかけてから、八叉様ははっとしたように顔を上げた。さらに何か要望があるのかと、わたしに緊張が走る。


 そんなわたしに歩み寄り、八叉様はそっとわたしの頬に手を当てた。ふっと唇を上げて微笑むその笑みは、いつもの無邪気な笑顔と違って気障でニヒルな笑い方だ。

「よし、司紗。日曜日はお前を独占させてもらうからな」

 ささやくような、色っぽい声。


「なっ…!? ちょっと、どういう意味……!」

 言い返す隙を与えず言いたいことだけ口にしてしまうと、八叉様はくるりときびすを返して駆け去って行く。

 玉砂利を蹴る軽い足音は、すぐに遠ざかっていった。




 八叉様が見えなくなってから、今の光景がじわじわと蘇ってくる。

 ――明らかに何かを意識した態度と、わざとらしい台詞。

 でも、そのとき向けられた笑顔に、思わず胸をつかれるほどときめいてしまったなんて……。


「もうっ……」

 勢い良く頭を振って、そんな気の迷いを物理的に頭から追い払った。

 バカなことを考えるな、と己を必死に律する。相手は見た目は中学生くらいの少年、中身は神様。どう考えても、釣り合わないのだから。


 ――けれど。

 夕方の涼風の心地好さは、わたしの頬が少し火照ほてっていることを何よりも雄弁に物語っていたのだった……。





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