63.違和感
「黒曜、いや黒曜等級になり損ねたかと思ったら今度はこんなしょうもない街まで降りて来たのか?そうだなぁ、お前もここで勉強すべきことが色々あるもんなぁ!仲間の大切さとかな!」
「お前……その発言は自分の首を絞めていないか。聞いたぞ、改めて冒険者になったはいいが銀等級からスタートさせられたらしいな。新米冒険者として頑張って勉強することだ。」
「お願いだから落ち着いてよ二人とも!ユンちゃんまだ娑婆にいたいよ!」
「そうです、落ち着いてくださいガジュ!いくら復讐とはいえ、こんな街中で喧嘩するのは正義に反します!」
今にも殴りかかりそうな勢いで煽り始めるガジュをユン達が必死で抑え、ハクアがそれを無視して煽りを返す。ユン達からすれば必死も必至である。ガジュは怒ると途端に冷静さを失う。そしてハクアとの対面はガジュにとって怒りの極地だ。この男が今ここで暴れ始めれば、それこそアルカトラへ逆戻りである。
ユン達の抵抗もあってか、ガジュは拳を握る力を少し弱め、ハクアとの煽り合いにだけ注力していく。
「銀等級で悪いかよ。どうせお前らも金剛等級に居残ってんじゃねぇか。ちょっと待っとけよ。直ぐにお前らのとこまで這い上がってやるからよ。」
「はっ、残念だったな。見てみろ、俺達はもう金剛等級冒険者じゃない。俺達は……正真正銘黒曜等級冒険者だ。」
そういってハクアが上着を捲り、胸元の勲章を見せつける。勲章としては実に素朴で怪しく黒光りした宝石が付けられたそれは、冒険者なら誰もが夢に見たことがある代物だ。『試練の迷宮』を突破した冒険者だけに与えられる、史上最高の栄誉。それを見せつけられ、ガジュは慄いていた。
「どういうカラクリ使いやがった……。テメェら一度攻略に失敗したんだろ?ラナーナは重症、お前も相当デカい傷を負ったはずだ。」
「あれは情報不足だっただけだ。仲間もその場限りの男だったしな。お前と違って頼もしい仲間を連れて、しっかりと準備すれば『試練の迷宮』なんてお手のものだ。」
「はっ。良かったなぁ、クソ強い仲間に恵まれて。人間性も何もかも欠落したお前らを連れて戦ってくれるなんて、聖人君主かなんかじゃねぇのか?」
ガジュ達がイリシテアで過ごした期間は精々数日。アンラでの何日か分も加えても、ユギでハクア達と別れてからそう時間は経っていない。村を出てすぐに仲間を見つけ、そのままの勢いで『試練の迷宮』に向かったのだろうか。となればガジュの煽りに満ちた発言も、あながち間違いでもないはずだ。相当強力な仲間を見つけてこない限り、一度攻略に失敗したパーティが『試練の迷宮』を突破することは難しい。
ガジュがそう思った時、ハクアの後ろから見慣れない顔が現れる。深い青色の髪に、細身の体。大きな目は少しギョロギョロと気味が悪く、見ただけでは感情が読み取れない。顔こそ微妙に異なるものの、その雰囲気はガジュの右腕を必死で抑えているユンに酷似していた。
「ハクア、どうかした?この人達、誰?」
「ジュノ。この男が例のガジュだよ。横の二人はその仲間達だ。」
「あぁ。よろしく、私はジュノ。ハクアの仲間。」
まるで蛇のごとく滑らかに視線が動き、ジュノがガジュと目を合わせる。そのあまりの眼圧に押されガジュが軽く目を逸らすと、その頃にはジュノの興味は他に移っていた。
「君、名前は何?顔がとてもユノ様に似てる。」
「へ、ぼ、僕?ユンだけど……。なんでユノの顔なんて知ってるの?あの人って似顔絵とか残ってたっけ。僕からすれば、君が僕に似てるねぇって感じなんだけど。」
「私はユノの信者。私の顔がユノに似てるのは当たり前、私の顔はそういう風に作ってある。君がユノに似ていることの方がおかしい。」
少しズレた会話をしながらジュノに詰め寄られ、あのユンともあろう人間が後退りしていく。
始祖の冒険者ユノ。
存在自体は誰もが知っているが、ユンの言う通りその顔や姿は歴史書にすら記されていないはずだ。それに似ているというはどう言うことだろうか。そして何よりも、「作ってある」という言葉にガジュは違和感を覚えていた。
「ジュノは色々と複雑だが、間違いなく冒険者としては優秀な存在だ。ガジュと違って昼夜を問わず火力を出せるし、魔法だって使える。さっきお前が言った通り、俺達が試練の迷宮を突破できたのはほぼ彼女のお陰だよ。そこを否定するつもりはないさ。」
「私は別に何もしてない。ハクア達が頑張っただけ。それよりハクア、向こうでレザ達が探してる。」
「え、あぁそういえば買い物の途中だったな。じゃあなガジュ。俺達は黒曜等級、お前からすれば遥か遠くの存在だ。精々頑張って功績を積み上げろよ。」
ジュノについて詳しく尋ねる暇もなく、ハクア達は逃げるようにその場を去っていく。
開いた差と増えない功績。ガジュは大きな焦りを感じつつ、ベリオット冒険者学校へと歩みを進めていった。




