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62.至高のパン屋さん

「なぁ、今日って何の授業があるんだっけ。」

「魔物生態学だろ。それより今はゴブリン退治のこと考えようぜ。夜までに片付けないと遅刻しちまう。」


 通り過ぎて行ったのは新人冒険者だろうか。ゴブリン退治と言っている辺りガジュ達と同じ銀等級ぐらいだろうか。装備も質素、年も十代。改めて考えると、こんな少年達と同じ等級にいることが非常に不名誉に思えてくる。


 冒険者育成の地、ベリオット。その大地を踏み締め、ガジュ達は辺りを見渡していた。


「お〜随分カジュアルな街だね。建物の高さや質はそれほどだけど、密度がすごいや密度が。」

「まぁどちらかというと昔のイリシテアに近い街並みだな。ここらはガジュ達のように、アンラで冒険者になって行き詰まった人間が集まる場所だ。それ故にアンラ同様若者が多いが、あっちに比べると皆金を持っているし余裕もあるから、娯楽施設が賑わっている。」


 人でごった返したメインストリートをブラブラと歩き、案内役であるクルトがやたらと自慢げに胸を張る。クルトの説明通り、立ち並ぶ店達は良くも悪くも若者向けだ。


 武器屋一つ取ってみても、アンラに比べてどの商品も安価。それはまだいいとしても、店頭に出ている大剣などが明らかに粗悪品である。新人冒険者ぐらいは騙せるかもしれないが、流石にガジュには丸わかり。あんな雑な刃では丸太を斬るのがやっとだろう。


「なんというか、俺には肩身の狭い街だな。キュキュ、荷車は俺が引くから前を歩いてくれ。」

「は、はい。私のような愚か者が前を歩くのは恐れ多いですが……すみませんすみません!」

「まぁガジュみたいなおじさんにはキツイかもね!あ、ほら見て見てあの子達!凄いミニスカートの一団がいるよ!!!いいね!最高だね!」

「あぁ、冒険者学校の生徒だろうな。さっきすれ違った冒険者達は夜コース。今制服を着てる子達は昼コースの生徒だろう。ベリオット冒険者学校の生徒は全員冒険者との兼業だからな。昼と夜、自分達のライフスタイルに合わせて好きに授業を選択できる。」


 照りつける太陽に足を焼かれながら、例のミニスカート少女達がガジュ達とすれ違っていく。


 例えばユギ村に生息している魔物達は夜行性がほとんどだが、ガジュが『カイオス』で拠点としていたリエという都市の近くには昼行性の魔物が多く生息していた。この地域がどうなっているのかは知らないが、パーティごとでどういった魔物を狙うのかは様々だ。スキルとの相性、パーティの構成、様々なことを考慮して冒険者は受けるクエストを選択していく。


 これらを考慮すれば、この学校のシステムは実に合理的だろう。ガジュ達のように夜行性のパーティは昼コース、ハクア達のように夜コースを選択し、残り時間で魔物を倒す。いつ寝るのかは甚だ疑問だが、知識と経験を積むには最高の環境だ。


「昼コースと夜コースで内容にほとんど差はないらしいが、講師陣に差はあるからな、生徒間でも微妙な対立構造があるらしいぞ。昼コースは野蛮で、夜コースは堅物。そういった風潮が長年に渡って存在するらしい。」

「昼コースは野蛮……。俺達には丁度いいな。」


 夜行性の魔物達は凶暴な魔物が多く、それを討伐する冒険者は荒っぽい。そして昼行性の魔物は狡猾だから、それを討伐する冒険者は知略に満ちている。コース間の対立にはそういった話が影響しているのだろう。


「で、俺達はどこに向かってるんだ。この荷車の中身、全部パンなんだろ?」

「今後は吾輩の僕達がパンを作ることになるからな。その挨拶も込めて取引先周りだ。そこの角のパン屋と、奥の食料品店、それと二、三個店を回って……ベリオット魔道学園に着くのは最後。大体二時間後くらいか。安心しろ!パンの上にかかってる布は特別性の魔道具だからな!何時間経とうと美味しいままだ!」

「別にそこは心配していませんが……クルトは本当にパン屋として生計を立てているんですね。シャルがイリシテアに居た頃は、勝手に家に入り込んで遊びに誘ってくる誘拐犯ぐらいの認識でしたが。」

「ふっふっふ!吾輩は経営者としても優秀だからな!おーい店主!吾輩がパン持ってきたぞ〜!」


 クルトがパン屋の前で立ち止まり声を上げる。その声に反応して店の奥から老婆が現れ、クルトが荷車に積んだパンを手渡していく。チョコレートが切れたのもあり、今回運んできたのはクロワッサンやコッペパンなど。立ち上るパンのいい香りと共に、ガジュ達の周りには人だかりが出来ていた。


「もしかしてクルクルパン!?やったー!ねぇおばあちゃん、これいくら!」

「はいはい。ちょっと待ちなさいな。すぐ袋に詰めるからね。」


 ガジュ達を押し退け、道ゆく人々がクルトのパンを大量に購入していく。完全手作り、イリシテアから遥々遠征販売。そういった条件だから、クルトのパンは味としても希少価値としてもかなり人気なのだろう。


 このままいけば荷車に乗っている分のパンまで持っていかれてしまう。そう判断し、クルトは素早く店主との挨拶を早々に済ませてその場を去っていく。しかしガジュの足はというと、とあるものを確認したことで完全に止まってしまっていた。


「ガジュ?何してるんだ。早く行かないと日が暮れるぞ。」

「そうそう、僕も早く観光したいからさ。先を急ごうよ、って、あー……。クルちゃん、これはクルちゃんだけでも先に行った方がいいかも。」

「うわ、そうですね。クルト、キュキュと一緒に先へ行ってください。シャルルはガジュを見張る義務があります。」

「く、クルトさん。い、行きましょう!」


 ガジュの視線の先を確認し、ユン達が全てを察したのだろう。困惑するクルトをキュキュが引っ張り出し、ユンとシャルルがガジュの両脇を固める。別にガジュを守りたい訳ではない。ただ、ガジュが暴れないよう静止したいのだ。


 それぐらい、遠くに見える白髪の男は、ガジュの心を狂わせる。


「ハクア……。まさかこんな所でまた会うとはなぁ!」

「ガジュ……。それはこっちのセリフだよ。」


 市街地、それも炎天下だというのに拳に力を入れ始めるガジュの足をユン達が踏みつけ、二度目の睨み合いが幕を開ける。

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