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40.法と秩序の街イリシテア

「ねぇガジュ……この街、凄く息が詰まりそうなんだけど。」


 長い階段を登り、ようやく辿り着いた地上は随分と静かなところだった。建物も人も多いが、どうにも活気がない。

 ガジュがイリシテア名物と聞いていた露店も、道端で酒を飲んで倒れている酔っぱらいも、剣を抜いて暴れ回る冒険者崩れも見当たらず。剣と酒の街、という浮ついた肩書きはこの街にふさわしくないだろう。


「地下に紋章もあったし、ここはイリシテアで間違いないと思うんだけどな。シャルルの【投獄】でテレポートできるのは街一つぐらいの距離、俺達がシャルルに殴られた場所からその範囲内にあるのはイリシテアだけだ。」

「そうだよねぇ。キュキュちゃん、僕らを助けるために街中を走ってきたんでしょ?この街お葬式でもやってるの?」

「すみませんすみませんそういった様子は見かけていませんすみませんすみません。」


 確かにこの街の雰囲気は喪中と呼ぶべきものだ。すれ違う人々は誰一人笑っていないし、女冒険者にありがちな露出の多い服装の人もいない。誰も彼も堅苦しい、それこそ息が詰まる風景である。明らかな異変の正体を掴むべく、ユンは適当な通行人に話しかけていく。


「ねぇねぇそこのおじさん。僕らこの街初めて来たんだけどさ、普段からこんな調子なの?」

「おじ……お前らちょっとこっちにこい!」

「へっ!?ちょっとちょっと何々!?」


 ツルピカの禿頭と常時眉間に刻まれた皺。どうしてこう分かりやすく気難しそうな中年に声をかけたのか知らないが、ユンは中年に腕を掴まれ路地裏へと連れ込まれていく。こうなれば追わないわけにはいかない。ガジュ達も二人を追いかけ、人通りもなく薄暗い路地裏へと足を踏み入れる。


 裏通りに入った途端、中年は握っていたユンの手を軽く放り投げ、ガジュ達含めた三人を睨みつけた。


「お前ら、どこから来た奴らだ。」

「はぁ?アンラからだけど……それがどうしたってのさ!純情乙女ユンちゃんのお手を掴んだ罪は消えないよ!」

「アンラ……あの大都会の奴らか。いいか、お前らみたいなシティーボーイがどうかは知らんがな、この街じゃ若い女が男に話しかける事は重罪だ。一人称が『私』でないことも、親族以外にタメ口で話しかけることも!」

「はぁ!?何そのふざけたルール!僕のアイデンティティ全否定じゃん!」


 どうやらこのハゲ中年の顔が険しかったのは、ユンにイラついたからではなく路上を歩くこと自体に緊張していたかららしい。中年は呆れたような顔でユンを嗜めていく。


「細かいことを話そうとするとまぁ長くなるがな、この辺りは数年前に治世の権利を握る有力者が変わって大きく雰囲気が変わったんだ。剣と酒の街イリシテアは終わった。今は法と秩序の街、って言ったほうが適切だろう。」

「法と秩序の街……何というか顔見知りを思い出す言葉だな。その有力者ってのは何て名前なんだ。」

「バーゼ。バーゼ・バーニュだ。」


 その名を聞いた途端、ガジュ達の口から息が漏れると同時に、冒険者協会、というかケネに対する憎悪が湧き上がる。甘い言葉に騙されてここまで来てしまったが、詳細を知れば知るほどこの依頼は絶望的だ。ガジュはバーゼのことを小悪党ぐらいにしか思っていなかったが、実態は想像を絶するほどに強敵。


 イリシテアの全てを握る有力者にして、人を操る力を持っていると思われる男。


 そんな男の情報収集など……無理難題だ。


「はぁ……どうするガジュ?僕的にはもうお家に帰りたくて仕方ないんだけど。どうにかしてシャルちゃんだけ奪還して帰らない?」

「状況からしてシャル奪還と依頼達成はほぼ同義だろ。まずはバーゼに近づく方法を考えないとな……。おいおっさん、バーゼに会う方法は何かないか。」

「皆無だ。俺、どころか住民のほぼ全員があいつの顔すら見たことがない。定期的に命令が下って、それに逆らえば処罰される。ただそれだけだ。」

「処罰……なんかやっぱり血筋を感じるなぁ。シャルルちゃんのお兄さんらしい感じ。」

「シャルル?なんだお前らシャルルの知り合いか。」

「あぁ。俺達はシャルルと四人で冒険者をやってる。実はシャルルがバーゼに拐かされてな、何とかして助けたいんだ。」

「それなら丁度いい女がいるぞ。バーゼに近づけるかは知らないが、シャルルを溺愛してる女だ。」


 中年が勢いよく立ち上がり、手を叩く。ガジュ達という明らかな面倒ごとを押し付けられる相手を思い出したことが大層嬉しかったのだろう。あまりにも嬉しそうだから多少癇に触るが、まぁガジュからしても嬉しい限りだ。シャルルがこの街にいたのは五歳まで。知り合いがいるかもとは思っていたが、見つかるとは思っていなかった。


「その女はどこに行ったら会えるんだ。」

「すぐそこに住んでるはずだぞ。なんならこの喧騒を聞きつけてやってくるんじゃないか?あいつは神出鬼没で有名だからな。」

「はっはっはっ!!!その通り!吾輩はこの街の全てを知り尽くし!世界を闇に包む者!シャルルの盟友達よ、このクルトが手を貸そう!」

「うるせぇ!」


 鼓膜を破壊する大声と共に、ガジュ達の前に着ぐるみの少女が現れる。そのあまりの騒々しさに、ガジュの手は自然に少女の腹部をぶん殴っていた。

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