表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/126

39.視野の狭い男

「うわぁぁぁぁぁーーーん!!!やだよぉ!僕をここから出してよぉ!せめて、せめてガジュと別室にしてぇ!襲われる〜!」

「襲わねぇよ!いいから静かにしろ!」


 剣と酒の街、イリシテア。ガジュはこの街のことをそう認識していたが、まさか初めて訪れる場所がこんな所になろうとは。視界を遮る厳重な鉄格子と、固い鉄の床。ガジュ、というかユンの方がより一層だろうか。極めて見慣れた場所に二人は閉じ込められていた。


「なんで!?なんで僕はまた檻に閉じ込められてるの!?そろそろレペゼンプリズンとか名乗ったがいいかな!?」

「勝手にしてくれ……。」


 横で喚き散らすユンを無視し、ガジュは鉄格子の隙間から辺りを伺う。この空間にあるのはガジュ達が閉じ込められている広めの檻と、恐らく看守が使うのであろう大きめの椅子と机。そして石造の古びた階段にイリシテアの象徴たるビールジョッキに剣が突き刺さった奇妙な紋章。窓もなければ扉もない部屋の構造からして、ここもまた地下牢と呼ぶべき場所であろう。


「俺達をここに叩き込んだの……シャルルだよな。」

「僕の覚えてる限りでは、シャルちゃんにお腹殴られて意識を飛ばされると同時に【投獄】を使われたって感じ。ていうかガジュ、シャルちゃんのパンチ程度で気を失ったの?いくらなんでも雑魚すぎない?」

「あんな快晴の空の下じゃそれも当然だろ……ってそんなこともないな。アルカトラで戦った時シャルルにいくら殴られても全く痛くなかった覚えがある。」

「力を隠してたのかな……。いや、力を無理やり引き出された?」


 ユンの言葉と共に、ガジュの頭にシャルルの顔が思い浮かぶ。最後に見たシャルルの様子は明らかに異常なものだった。目は血走り、言葉はカタコト、加えて普段よりも強力な拳。


「あいつ……もしかして操られてるのか?というかそうでもなきゃ俺達をここに叩き込んだりしないよな。」

「その線が濃厚かもねぇ……。一体どこからそうだったかは知らないけど、少なくとも僕達の知ってるシャルちゃんは仲間を意味もなく檻にぶち込むほど理不尽な子じゃないよ。」

「はぁ、ユンの言う通りケネの提案を拒否すればよかった……。シャルルが操られたとしたらほぼ確実に犯人はあのバーゼとかいう男の仕業だろ。むしろそれ以外考えられない。」


 冒険者協会が手を焼き、ガジュ達のような怪しい輩に調査を依頼するほどの相手。バーゼについてはガジュも色々と考えていたが、シャルルのあの意味不明な言動が奴の仕業だとすれば全て納得だ。人間を完全に操る力を持った相手など、進んでやりたがる人間はいないだろう。


 シャルルとバーゼの件を抜きにしても、今やるべきことはこの檻から出ることだ。幸い看守はいないから脱獄も不可能ではないだろうが、少なくともガジュの力では無理だろう。シャルルは【闇の王(ナイトメア)】の特性を理解した上でこの檻にガジュ達を【投獄】している。魔法か特殊な工品か知らないがやけに明るい照明が部屋の各所に設置され、この部屋は地下牢というのに野外並みの照度を誇っているから、ガジュのスキルは全くもって使い物にならない。


「おいユン、魔法か何かでこの檻を壊す、あるいは照明を破壊できるか。とにかくここから脱出するぞ。」

「無理無理。僕の攻撃は全部魔力依存だからね、スキルと違って封じられやすいんだよ。魔力を吸われたか縛られたか知らないけど、この空間じゃ魔法は使えない。」

「じゃあスキルを使えスキルを。お前だって何かしら持ってるんだろ?」

「ここまで一緒にいて一回も使ってないんだよ?こんな時に役立つ代物だと思う?」


 どう足掻いてもこの檻からは出られない。


 その事実に二人が肩を落とした時、ガジュの頭にとある顔が思い浮かぶ。


「役に立つ……そうだ、キュキュ!キュキュはどこ行ったんだよ!あいつ俺らの後ろ歩いてたはずだろ!?」

「へ?あぁそういえばそうだね。あまりにも影が薄いもんだからいないことに気づいてなかったや。」

「すみませんすみません。図体はでかいのに影が薄くて本当にすみません。三人+一匹と認識していただいて構いませんすみません。」

「ひゃぁ!?」


 ガジュ達がようやくもう一人の仲間の存在を思い出した時、鉄格子の向こうの階段からキュキュが現れた。そのスマートな体には一切の傷もなく、ただいつもの陰鬱な雰囲気だけを漂わせながらキュキュはガジュ達の檻につけられた錠に手をかけていく。


「すみませんすみません、すぐに救出するのでお待ちください。すみません。」

「いや、こちらこそごめんねキュキュちゃん!完全に存在忘れてたけど君は僕らの救世主だよ!最高!」

「キュキュがナイスなのはそうなんだが、なんでお前だけ捕まらなかったんだ?」

「すみませんすみません私の影が薄すぎてシャルルさんも私に気づいていなかったのだと思いますすみません。あの場に一人取り残されたので急いで走ってきました。たまにはこの犬みたいな鼻も役に立つものですね。簡単に見つけられましたすみません。」


 キュキュが手早く錠を外し、ガジュ達はようやく檻の中から脱出する。普段寡黙で前にも出てこないから忘れがちだが、やはりパーティでもキュキュはシャルルと並んで優秀だ。ガジュと違って素の身体能力や感覚器官が高性能だし、ユンのように意味不明でもない。二重人格さえ発動しなければただの有能な獣人。ガジュはその事実に感謝しつつ、階段に足をかける。


「よし、まずは状況を把握しに行くぞ。その後はシャルル救出だ。何がどうなろうとあいつは俺達の仲間だからな。」

「脱獄してシャルちゃん助ける……凄いどこかで見た流れだね!」


 再び狂犬達が解き放たれ、地上を睨みつける。何度投獄されようとやる事は変わらない。仲間を助け、復讐を果たす。それだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ